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7.魔女、勇者を撫でる

※魔女視点


(一人でも家って建てられるんだなぁ・・・)


 日課の魔獣さんなでなでの後、私は食卓の椅子に座って目の前の新しい家を眺めていた。


 切り出した木の香り漂う新しい家は古い家の南側に建つことになった。丸太を組んで作る家は既に壁が組みあがっている。いずれは北の家屋も建て替え、かまどにも屋根を取り付けようとカロンさんは言い始めていた。


(すごいなぁ、器用だなぁ)


 ぼんやりとそんなことを考えていると、膝の上から声がかかった。


「クララさん、クララさん」


 私はハッとして撫でまわしていた手を止める。そこには私の足元に跪き、私の膝に頭を預けたカロンさんがいた。


「すみません!無意識でした」


 頭を撫でるはずが、いつの間にかほっぺと顎の下まで撫でていた。お肌はさすがに馴れ馴れしい、と思った私にカロンさんは笑みを漏らして言う。


「いえ、気持ち良いので続けてください」


「あ、はい」


 続けて良いと言われたので私はなでなでを続ける。金色の短い髪は思っていたより柔らかいし、程よく重く温かい。魔獣さんを撫でるのとはまた違う良さがあった。


 家での魔獣さんなでなで終了後、成り行きでカロンさんの頭も撫でまわすようになった。なでなでが癒しだという話からマッサージとして良いなと言うカロンさんに、じゃあしましょうかと私から提案したのだ。


 さすがに言い出す時は恥ずかしかったけれど、試してみるとカロンさんも気に入ってくれた。なので感謝の一環として今では当然のように撫でまわさせてもらっている。実のところ、カロンさんの存在でなでなでに参加する魔獣さんが減ってしまい、物足りなさを埋めるのにもぴったりだった。


(でも、傍から見るとちょっとおかしいわよね。普通じゃないわ)


 第一まず体勢がおかしい。私の膝にうつむきになって頭を置いているなんて、他人に見られたらいろいろと誤解を与えかねない。時々息がくすぐったいし、掴まるのにちょうど良いのか脚を抱きかかえられる時は内心ドキドキしてしまう。


(でも、嫌じゃないのよね。離れがたくてなかなかやめられないし、終わってしまうと寂しくて・・・これってもしかして・・・)


 いやいや、落ち着いて!私は邪念を払おうと首を振る。


(久々に出会った人が優しくて魔獣を嫌がらないからって、好きになるなんておかしいわ)


 自分の気持ちに戸惑ってしまう。あまりに人と会わなかったせいで心の距離感がおかしくなってしまったのかしら。いや、実際の距離感もいまちょっとおかしいんだけど。


 この触れ合いを何と理解すればいいかわからない。


「あの、カロンさん」


「なんでしょう」


 カロンさんが返事をする。顔を横に向けてくつろいだ様子で目を瞑っているカロンさんは癒されている最中なのだろうか、かなり無防備だ。この様子だとカロンさんも嫌な気はしていないはず・・・。


「あの・・・・」


 しかしいざ確かめようとすると、何とも言葉にできない。


「お夕飯何にしましょうか・・・」


(そもそもいったい何を確かめたいのかしら、私・・・)


 そんな日々が何日か続いた時のことだった。




「クララさん。俺、少し出掛けてきます」


 よく晴れた日の朝、泉で顔を洗って戻った私にカロンさんが言った。いつも先に起きて泉で水浴びを済ませ、私が戻るころには家の横手で剣の素振りをしているのだが、今日は中庭のテーブルの傍らで鎧を身に着けマントを着込んでいる。


「えっと・・・どちらへ?」


 私は水汲み用の木製バケツを床に置きながら尋ねた。


「町へ。知り合いの錬金術師のところに用があるんです」


「町ですか・・・何という町ですか?」


「オルフィスベリーという町です。少し離れているのでしばらく留守になるかと」


「あら。だったら私、お連れ出来ますよ」


 え?と聞き返すカロンさんに私は少し自慢げに胸を張る。


「私、移動魔法会得してます。オルフィスベリーならひとっ飛びです」


「それは・・・・・・すごいですね!」


 カロンさんが感心してくれる。嬉しい。


「じゃあ決まりですね。少しお待ちください、私も準備します」


「分かりました。急がなくて良いですから」


 カロンさんがそう言うので、私はありがたく家の裏の薬草棚へと向かった。森で摘んだ薬草の内、刻んだり潰したりと加工が必要な薬草以外はここに干して保存してある。


 大きな木綿の袋に薬草をいっぱいに詰め、さらに錬金術の材料になりそうな素材もいくつか選んで自分の鞄に詰める。あわよくば錬金術師さんのところで買ってもらえるかもしれない。


(いいかげん「きぬのローブ」もボロボロだし、洗い替えも考えたらいっそ「ぬののふく」の方が良いんだけど・・・魔物の森でさすがに「ぬののふく」はなぁ・・・・)


 カロンさんと生活するようになってから自分の服装がボロボロなことにやっと気づいた。綺麗や可愛いとは言わないけれど、せめてきちんとしていると思われたい。


 中庭に戻ると、カロンさんは椅子に座って待っていた。私が布袋を背負って戻ってくると、慌てて立ち上がって駆け寄ってくる。


「なんですかこれ、凄い量ですけど」


 カロンさんが布袋を引き取ろうとするので、私はありがたくお渡しする。


「薬草です。重いから気を付けてください・・・オルフィスベリーの薬屋さんで買い取ってもらえるんです。どうせなら買い物もしようかと」


「なるほど、こうやって生活を・・・」


 カロンさんがまた一つ発見したというように頷く。


「良い生活ですね。俺もしたいなぁ・・・」


 カロンさんの呟きに深い意味はないんだろうけど、私は嬉しいのと恥ずかしいのが混ざって胸が苦しくなった。それがまた気恥ずかしい。


「だったら・・・カロンさんもすれば良いと思います。せっかくお家を建てているんですから」


 私はカロンさんを見ないようにして言ったけれど、カロンさんが一瞬動きを止めたのを見てぎくりとした。どうしよう、もう少しここに居て欲しい気持ちをそれとなく言おうとしたのに、一緒に住もうみたいになってしまった。ついこもってしまう深い意味を何とか誤魔化さなくては。


「それは・・・」


 カロンさんが意味を問いただそうとしたその時。


「ギィィィィアアァああああああああああ!!!!!」


 森の空気を引き裂くような獣の咆哮が響いた。


 


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