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罪と罰  作者: ヨルノチアサ
第八報 大河内 守人

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21/25

人間性の崩壊(下)

 松本守人の全国指名手配を受け、近辺では連日検問や警察官による巡回が強化された。しかし、いつまで経っても警察は松本の行方を発見できなかった。警察が不可思議とした点は、容疑者が家を出たとされる時刻の周辺防犯カメラの映像のどれを見ても本人の姿が映っていない事であった。


 松本の失踪直後から動物の変死事件もなくなり、松本の容疑が確固たるものとなる中で逮捕直前の謎の失踪に、「拉致説」や「海外逃亡説」などの噂が流れ、各報道局のコメンテイター達が盛り上がりをみせていたが、それも月日の経過と共に薄れていった。


 

 そして、松本守人が失踪して二か月が経った日。大河内の家では……。


「ほれ、お手!」


「ワン」


「よしよし、賢いなー」


「じゃあ次は、お座り!」


「ワオン」


「よーし、偉いぞ」


 コンコンとノックし、扉を開けた家政婦が

「大河内さん、来客ですよ」と、声を掛けた。


「お前はそこで待っているんだぞ。ついでにおやつを持って来てやろう」

 大河内は部屋を出ると扉を閉め、施錠して客室へ向かう。


 客室にはバチとザイとシヅクが座り、茶菓子を食べながら談笑していた。


「皆さん、いらっしゃい。よく来てくれた……その節はお世話になりましたな」

 大河内はバチ達に向かい頭を下げた。


「新しいペットはいかがですか?」

 

「まあまあだな。物覚えはいいんだが、甘やかすとすぐ調子に乗る」


「これからのしつけ次第ですね」


 バチと大河内が会話を交わす。


「せっかくなんで、見てやっておくれ」

 大河内に連れられ、バチ達は部屋を移動する。


 扉の前に着くと自慢げに大河内が言う。

「一か月かけてようやく完成した完全防音部屋だ」

 そして、鍵の掛けてある扉を開けた。


 扉が開き、バチ達の姿が見えるやいなや

「助けてください! お願いします。もう勘弁してください」と悲痛な声がする。


「コラ! 犬は言葉を出したりしない!」

 大河内が手に持つ杖で叩く男は行方不明になったハズの松本守人であった。


「反省しています! 何でもしますから……」


「お前は犬だ! 「ワン」以外しゃべるなと言っただろ」

 大河内は守人の体を何度も杖で叩く。


「痛い。痛い。ワン、キャン」


「ギャン」


 完全防音に作られた部屋の壁には鎖が二本取り付けられ、伸びた鎖は守人の首と胴体に繋がれていた。守人は四つん這いのまま必死な形相で、バチ達の元まで行こうとしているが鎖に制限され辿り着けない。

 

「立てないのね」

 シヅクがボソっと言った。


「ああ、松本は大河内さんの犬の足をボウガンで射った後、逃げられないように両足を折ったらしい。だから俺が同じようにしてやったよ」

 表情を変える事なく守人を見つめる。


「因果応報というやつだ。ろくに治療しなかったあの足ではもう立つ事はできないだろう」

 バチはそう言いながら手に持っていた茶菓子を守人に投げた。


 お腹を空かしていたのか、守人はその茶菓子にむさぼりついた。


 

 大河内(原告)の起訴内容は単に愛犬『次郎』の仇打ちではなかった。始めのうちは「愛犬と同様の苦しみを与えてやればいい」と、バチに依頼をしたのだったが、ふいに喪失感の方が大きい事に気付いた。

 自分の心の隙間を埋める何かを求めるうちに()()()()()は守人だと考えたのであった。守人を愛犬の代わりにするようになり、大河内は復讐心と喪失感の両方を埋める事が出来たのだと言う。


 帰路にて三人は話す。


 シヅクは松本について話す。

「松本は人間を標的にする前に動物でいろいろ試していたみたいですね。自分が大学時代に受けた嫌がらせの憂さ晴らしの延長だったのでしょう」


「強者が弱者を痛めつける。よくある話だが皆が皆そうではない。守人は弱いながら自分が勝てる方法を探していたのだろう。両親は人を守る人間になって欲しいと思って守人と名付けたのだろうけどね」と、バチは冷静に語る。


「じいさんのように恨みより寂しさが勝つ人間もいるんだな……よっと」

 ザイは道端の石ころを蹴飛ばした。


「そのとおりね。守人を相手する時の大河内さんの顔、なんだかんだで愛してる感じだったような……まあ、少し歪んだ愛情ではあるけど」


「罪と罰は平等でないといけない。しかし、同じ罰を与えるだけで被害者は救われたとは言えない。大河内さんの愛犬の悲しみは、愛犬を奪ってしまった松本が一生をかけて埋めてあげるといい」



 虐待行為……それは動物でも人間でも行ってはいけない行為である。


「でも、じいさんが守人を杖で叩いてたのは虐待では?」

 ザイはおでこに手を当て考える。


「あの程度は愛情の範疇だよ。殺された『次郎』を思えばな」

 バチは下手くそな笑みを浮かべながら言った。



 それから、三人と大河内は二度と会う事がなかった。


 六年後、大河内一郎は老衰により他界するが、あの防音部屋はもぬけの殻となっており守人の所在はわかっていない。


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