亮の話①
「離婚して下さい」
「急にどうした、葉月」
「急にじゃないから」
「理由は?」
「赤ちゃんが、出来ないから…」
結婚五年目の今日、俺は記念日ディナーを楽しんだ後で、離婚届を渡されていた。
俺の名前は、真島亮。そして、妻の真島葉月だ。
「それは、治療してみたら」
「治療して授かっても、私は亮の子供を愛する自信がないの」
「浮気してるのか?」
「ううん」
「好きなやつができたのか?」
「ううん」
「じゃあ、何でだよ」
「亮を愛してるかわからなくなったの」
そう言いながら、何故か葉月は泣いていた。
「なんだよ。それ」
「ごめんなさい」
「ごめんじゃないよ。俺、別れたくないよ」
「それなら、3ヶ月待つから」
「3ヶ月で葉月の気持ちを失くせって言うのかよ」
「ごめんなさい」
「葉月」
「お願いします」
葉月は、涙を流しながらリビングを出て行った。
何で、葉月が泣いてんだよ。
別れを告げられて、悲しいのは俺なんだよ。
俺達は、友人の紹介で33歳の時に出会って3ヶ月のスピード結婚をした。
あれから、5年だ。
俺は、友人や職場の同僚が後から結婚して父親になっていくのが羨ましくて堪らなかった。
「治療しろよ!絶対、その方が早いから」
「マジで、治療しろって」
不妊治療で、一年も経たずに出来た先輩達に、飲む度にそう言われていた。
ネットで見ても、治療して出来た人で溢れ返っていた。
友人の斗真は、俺より二年遅く結婚した。不妊治療で、すぐに授かり、俺に自慢した。
「頑張ってよかったわー。亮も早い方がいいよ。年取ったら、子育てキツイって」
お前がするんじゃないだろうと突っ込みたくなった。
「マジで、早い方がいいから」
それは、親戚や両親にも言われた。
不妊治療さっさとしたら、すぐできるんだからって
本当に出来るかどうかわからないものに、人生をかける事程、怖いものはなかった。
「葉月が別れたいのは、あの日の事か?それともあれか?何なんだよ」
俺は、離婚届を見つめながら泣いていた。
子供がいなきゃ完璧な夫婦じゃないと思っていた。
子供がいないと成立しない関係なんておかしいと子供がいるやつに言われたけれど、説得力なくて笑えた。
いない人が言うならわかるけど、いるお前が言うなって思った。
男だけど、誰の幸せも願えない小さい人間になったのを感じる。
従兄弟が、43歳で独身でよかったってホッとしていた。
でも、どうせ結婚相手出来たらすぐに妊娠しちゃうんだろうな…。
普通のやつは、すぐに出来るんだろ?
簡単にさ…。
葉月を離婚に導いたのって、あの日なのか?