静馬の話④
「じゃあ、帰るわ」
「うん、気をつけて」
夕方、俊太は帰って行った。
僕は、いつも俊太が帰った日は、近所のお弁当屋さんに行くんだ。
俊太に振り回されて、心が疲弊してる僕にとって、そこのお弁当は身体中に染み渡る。
そして、何より店長さんが可愛くて癒される。
「いらっしゃいませ」
「えっと…」
「ヒレカツ弁当ですか?」
「はい」
「少々お待ち下さい」
店長さんは、そう言って笑った。
「お待たせしました」
お会計をして、レシートと一緒に紙を渡された。
「んっ?」
僕は、紙を見つめる。
【5分後にあがるので待っていて下さい】と書かれていた。
仕方なく、僕は待っていた。
「すみません。お待たせしました」
弁当を持ってくる時と同じテンションで笑えた。
「何ですか?」
「コーヒー飲みませんか?」
「いいですよ」
近くの自販機で、コーヒーを買って、近くの公園のベンチに並んで座った。
「あの、僕、二年前からずっと好きなんです」
傷ついた僕の心に、その告白はじんわり染みていった。
「ありがとう」
「お付き合いしてる人がいますか?」
「いないよ」
「それなら、お友達からお願いできませんか?」
「いいよ」
番号を交換して、店長さんはニコニコ嬉しそうに帰って行ったんだ。
俊太は、二週間開いてやってきた。
「付き合う事になったんだ!紅葉と」
「よかったね」
「今日は、だから泊まらないわ!紅葉が泊まりにくるから」
「そっか」
俊太が帰宅して、悲しさと苛立ちや空しさで、どうしようもなくて店長さんを呼んで…。
「僕なら、静馬さんを傷つけないよ」
そう言われた言葉に、キスをしていた。
それから、二ヶ月が経って…
「結婚するんだ!紅葉と!」
「えっ?早くないか?」
「だって、中学で二年付き合ってたし!紅葉は何もかわってなかったし」
居酒屋に呼び出され、僕は結婚報告を受けたんだ。
「紅葉、こっち」
「久しぶりだね、江島君」
「おめでとう」
「ありがとう」
結婚するといった通り、紅葉ちゃんの指には、ダイヤモンドの指輪がキラキラ光っていた。
「式はいつ?」
「半年後にあげるんだ!静馬もきてくれよ」
「うん」
嬉しそうに笑う俊太と紅葉ちゃんをずっと見ていた。
「静馬も彼女、早く作れよ」
「うん」
そう言って、二人を見送って泣きながら家に帰って…。
都合よく、店長さんを呼び出した。
「静馬さん、僕が支えてあげるから」
店長さんの優しさに甘えた。
そして、ずっとあれから僕は店長…いや、慎吾を利用し続けている。
「静馬、愛してるよ」
そう言って、キスをされた。