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記憶の場所へ

 会計を終えた私は結衣がいるコンビニの外へ出る為に片手に大きな買い物袋を提げたまま扉を押して身体を隙間に捻じ込んだ。


 地面に加温された空気が下から私を舐める様に通過していく。


 結衣は既に通話を終えており会計を終えた私が出てくるのを扉のすぐそばで待っていた。


「お母さんが今から紬を迎えにくるってさ」


「迎えに?」


 急な話である。


 だが眠気は限界に近い私にとってはいい事なのか?


「場所は絞れたらしいんだけど捜索隊が入ると自分達で探せないからいつ終わるかわからないまま起き続ける事になるでしょ? だから捜索隊が入るまでの隙間時間に探してしまおうってさ」


「ありがたいけど大丈夫なの?」


「どうだろ? 見つけてしまえばお手柄だし見つからなくても独自に探してましたで乗り切るのかな?」


「私も詳しい場所がわかる訳じゃないんだけど……」


「本当に見ているならなんとなくわかるでしょ? もし違ってても捜索隊が手分けして探してくれるからそこまで気負わないでいいだろうし」


 思考が滞り始めた私の脳が私の身体に欠伸をする様に促した。


 普段であれば噛み殺しているのだが眠気を吹き飛ばすためにも私は身体を伸ばしながら大きく口を開けて肺いっぱいに空気を取り込んだ。


「……そうだね。自分が早く解放される為に手柄を横取りしよう」


 手柄が欲しい訳ではないのに口から考えてもいない単語が溢れ落ちていく。ダメだ思考がぐちゃぐちゃになっている。


「そうだね。それで場所が……」


 結衣が携帯端末を確認しながら先程私が指差した方角をゆっくりと指を持ち上げて指した。


 足元の暖かさと背筋の冷たさで身体が混乱しているのか内臓に嫌悪感が湧き出てくる。


「あの山を通る国道だろうって。防犯カメラを探し回ってた捜索隊の一人がアカリちゃんの母親の車の足取りを追ってたらしい。アカリちゃんが紬に取り憑かなくても時間の問題だったんだよ」


「そう……なんだ」


 嘔吐感はないが結衣の言葉が私を素通りしていく。


 膝に力が入らず踏ん張っていないと頽れそうだ。


「まあ紬がいなければ場所の特定までの時間が伸びてたかもしれないけどね。お母さん達も手伝わなかっただろうし」


「そうなんだ……」


 結衣の言葉を捉えようと試みるが頭に入ってこない。


 ダメだ考えるのが億劫になってきた。


『ブタナイデ』


 紙を丸める様な雑音と共に女の子の声が聞こえてきた。


 思考が追いつかずもう怖いと思えない。


 嘔吐感は徐々に増していく。


『ココカラ ダシテ』


 視界の端から色彩が抜け落ちていった。


 早く楽になりたい。


 抵抗を辞めたら楽になれるのだろうか……。


 突然パンッ! と破裂音が目の前で起こり色彩が視界に戻ってくる。


 状況から考えると結衣が手を叩いたらしい。


「かなり危ないね……」


「ごめん……いやありがとう」


 咄嗟に謝罪の言葉を出してしまったがすぐに感謝の言葉に置き換えた。


 負けたらダメだ。


 いろんな人が悲しむじゃないか。


 結衣が私の顔が変わったのを見て微笑む。


 結衣に決意が示せただろうか?


「後少しだよ紬。見つけて終わりにしよう」


「そうだね。私も全て終わらせて早く眠りたいよ」



 結衣のお母さんが迎えに来たのはコンビニを出てから僅か数分後の事だった。


 車に気が付いた結衣が私の背を押した。


「お母さん遅い! 紬が眠ったらどうするの!」


「警察官が道交法破る訳にはいかないでしょ? 二人とも早く乗って」


 結衣が車のドアを開けてまるで私を誘拐する様に強引に押し込む。


 私の膝と座席の間で買い物袋の中のサンドイッチが潰れた感触がした。


「紬ちゃんは結衣からどこまで聞いたのかしら? まあ二度目になるかもしれないけど今からの事話しておくわね」


「お願いします」


「どこから話そうか? ……時系列順でいいか……。捜索していた警察の一人が水曜日の午後から這いずり回って監視カメラを確認していたの。アカリちゃんがどこに行ったか確認する為にね。


 何処にもアカリちゃんが映っていないから捜索隊は今まで自宅周辺で痕跡を探していたんだけど私達がその警察官が集めた監視カメラ映像でアカリちゃんのお母さんが月曜日の深夜に遠出した事を突き止めたの。


 捜索隊は私達が突き止めた情報で今日からその周辺の探索と監視カメラの映像を確認するんだけど一度始まれば紬ちゃんが関われないし多分見つけ出すまで時間もかかるのよ。


 だから捜索隊が入る前に協力して欲しいの。


 まあ紬ちゃんが見つけられなくても絶対に私達警察が見つけてあげるから気負わなくても大丈夫だからね」


「はい。頑張ります」


 今回の行動はやってはいけない範囲の事なのかもしれない。


 本来であれば捜索隊が見つけてくれる事を待たなければならないのだろう。


 ただ私の限界がすぐそこまで近いている今、結衣のご両親がせっかく作ってくれた近道を無駄にしたくない。


 住宅が少なくなり山が近づいてきたので私は何か手掛かりが無いか窓の外の景色を確かめていた。


「もうすぐ山の麓に着くわ。そこからは歩きましょう。車の中だと景色がわからないでしょうし」


 結衣のお母さんの言葉に私が反応する直前に見た景色には見覚えがある。


 アカリちゃんが迷子になった事を痛感した山の麓の別れ道の記憶が……。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。


 次回の励みになりますので感想や評価をお待ちしております。

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