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校庭にいた女の子

 暇を持て余した私は只々ぼんやりと晴天に恵まれた人工芝が張られている校庭を眺めていた。


 現在、我が高校では五月の大型連休を終えて高校生活における行事の一つである中間考査が行われている。


 皆が一生懸命に答案用紙と格闘している中で私が意味もなく誰一人いない人工芝の校庭を眺めていたのは最後の科目を早々に解き終えてしまったからだ。


 何度も見返して確認を取ったが訂正すべき場所を見つける事ができずに背中を温める太陽の陽が私の意識を徐々に削り取っていく。


 乙女として周りをクラスの男子に囲まれた状態で寝姿を晒すのは避けたかったが次第に重くなる瞼を持ち上げるのが億劫になり瞬きの速度が落ちていく。


 カチカチと秒針が進む音。

 

 カタカタと時々通り過ぎる風が教室の窓を揺らす音。


 机と紙と筆記具が織りなす衝突や摩擦による不規則な音。


 様々な音が徐々に私の意識から遠ざかっていく。


 気を抜いた瞬間ふっと意識が遠のき私は意識を保つ限界を感じた。


 これで目が覚めなければ寝てしまおうと思いながら人工芝の校庭を眺め寝姿を晒す言い訳を探していた私の意識は視界に捉えた強烈な違和感をうけて覚醒を始めた。


 晴天に照らされた人工芝の校庭の中央に肌を隠す様な長袖を着た小学校高学年くらいの女の子が立っている。


 平日の昼前に小学生の女の子が理由もなく高校の校庭に一人で現れる筈がないが、校庭を見渡すが保護者らしき姿も見当たらない。


 違和感が膨らんでいく。


 顔立ちを確認しようと目を凝らすが教室から校庭の中央までの距離は遠く視認する事ができなかった。


 校庭の中央に立つ女の子に気がついているのは私だけではないのだろうが先生に報告しようと視線を教卓に移すが教室から人の姿が消えていた。


 置いて行かれたかの様な恐怖心を抱き慌てて立ち上がり教室を見渡す。


 不正防止の為に教科書などが取り出され空になった学習机が綺麗に並べられ黒板には今日の考査の時間割と注意事項が綺麗な字で書かれているが人の姿が消えている。


 音が消えている事に気がついて時計を見上げると秒針がピクリとも動かず昼前の時刻で止まっていた。


「……なんなのコレ?」


 音が消えた世界での自分のやや掠れた疑問の声が現実味を帯びていて気持ちが悪い。夢であればこの妙な世界感に納得できると右手で左手を抓るが当然の様に痛みがある。


「……誰かいませんか? 寂しいんですけど……」


 ただのイタズラであればいいと思いながら誰もいない教室を見渡しながら声を出すが返事はない。


 試験中に教室の外に出る事は躊躇いがあり最後に見ていた小学生と思われる女の子が立っていた校庭を見るがもう居なくなっている。


「……どうしよう?」


 自分の席に座りながら恐怖心を紛らす為に声を出すが最善の手段が纏まらない。


 自分の机に肘をつき額に手をあてて考えをゆっくりと纏めようとしたその時に耳を劈くノイズ音が鳴る。


「痛っ!」


 びっくりして目線を上げると校庭にいた筈の女の子が私のいる教室の教壇に立っていた。


 私は咄嗟に悲鳴を飲み込んだ。


 顔の造形は整っているが服が少し汚れている女の子は瞬きせずに私を不思議そうにただジッと見つめている。


 夢なら早く覚めてくれと願いながら痛む耳を抑えながら女の子から目を逸らせずにいると突然女の子は口を開いた。


 時計の秒針が進む音すら存在しない教室だったが女の子の声は私の耳には届かない。


「……貴方は誰? ……なにを言っているの?」


 私に向かって何度も同じ口の動きを繰り返している女の子。


 読唇術などやった事がない私が実践で女の子の口の動きから伝えたい事を把握する事などやれる筈がない。


「……キチンと声に出してくれないとわからないよ……」


 困った様な顔立ちをした女の子が大きく息を吸い込む仕草をすると耳を劈くノイズ音が鳴り女の子の立像が所々断裂して鋭角に歪んで戻る。


 痛みから耳を反射的に塞いでしまった私を女の子は泣きそうな顔でジッと見つめてくる。


 泣きたいのは私の方だ。


「……私、貴方が怖いの……。だから私を元の場所に戻して……お願い……」


 私の言葉が伝わったのかわからないが突然女の子が泣き出した。


 泣き声は聞こえないが耳を劈くノイズ音が鳴り止まず女の子の立像は断裂し鋭角に歪み続けている。


「嫌! やめて!」


 私は目と耳を守る為に目を閉じて耳を塞ぐ。


「怖がってごめんなさい! ちゃんと話を聞くからやめて!」


 女の子は興奮していて何をされるかわからないが私はただ身体を丸めて嵐が過ぎ去るのをジッと待つ事しかできなかった。


 暫く続いた耳を劈くノイズ音が止み教室に静寂が訪れる。恐る恐る目を開けると目の前には誰もいなかった。


 自分の席に座って周りを観察するが女の子はどこにもいない。


 怖かったと安堵して一息つき脱力した。


 カチカチという秒針の音や筆記具が忙しなく動く音が遠くから聞こえてくる。


 これで元の場所に戻れると意識を手放そうとした……


 その時に、


 私の耳元に「ワタシ ヲ ミツケテ」というハッキリとした女の子の声が聞こえてきた。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。


 次回の励みになりますので感想や評価をお待ちしております。

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