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アンドロイドオアロイド  作者: M. Chikafuji
アンドロイドオアロイド|ハロー
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アンドロイドオアロイド|ハロー

 


 旧ブラダリア領域から戻ってきた私は、まず街の掲示板を確認した。



「なぜだ……。何故ッ 私が指名手配されているっ!?」


「どうりで住民から避けられているわけだ.それで,この記述はどう読むのだね」



───────────────────

【指名手配:ロイ=ド=オアロイド】

この者が宮廷に負う術貨1,000,000,000。借貨を踏み倒して国務から逃亡した疑いあり。開発魔術を押収するため、見かけた者は宮廷に通報すること。捕縛した者には褒美を取らせる。

───────────────────



「あっちの露店で食品が術貨100で販売されている.10億(ギガ)とは――大変なスケールだな」


「ふざけるなぁッッ!! この私が、負債を抱えて国務から逃亡だとぉっ! !!」



 そ、そ、そんな、絶対に有り得んことを~~~っ!!



「うーむ,逃亡の疑惑は魔術枷が外れたのが検出されたからだとして,この負債はブラダリア消滅の賠償金(ばいしょうきん)でも発生したとみるべきか」


「100年前に滅んだ国への賠償などあるものか! くぅぅ、何故この私が借貨などっ!!」


「おいおい,あまり騒ぐと余罪にされるかもしれないぞ」



 掲示板に叩きつけようとした拳が、後ろから手を回すアンドロイドに止められた。くそっ、指名手配だけでも有り得んというのに、さらに罪を重ねるなどあってたまるものかっ!



「そうなると暴利の借用か保証を――,いや,そうだな,“有能魔術師の力添えを求むる嘆願書”への署名など頼まれなかったかね」


「フフン、貴様の耳にも入るほどに私の有能さは知れ渡っているようだな! だが、それと現状に何の関係がある」


「――信じがたい経緯だな」



 嘆願書の写しを取り出して見せると、アンドロイドは(ほお)を指でかきながらつぶやいた。






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アンドロイドオアロイド|ハロー

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「つまりこの書面は,複数の上級魔術師がしていた借貨を君が負う契約と読めるわけだ.しかもすごい複利だから,雪だるま式に10億(ギガ)になるのも納得だな」


「ゲスダーのみならず、クズダー上級魔術師まで……私を(おとしい)れたというのかっ!!」


「残念ながらそうなる.双方の合意に基づいた契約であると宮廷が認めた結果、あんな掲示が出されたのだろう」



 文字の読み方をアンドロイドに教示しながら読み進めた結果がこれだ。私が署名した嘆願書により、上級魔術師たちが借り入れた術貨が私の借貨になっている。そして返済できない場合には、私の開発魔術が押収される。



「逆に言えば,君の魔術には担保になるほどの価値がある」


「フフン、術貨10億とは……良い線かもしれんな」


「私の価値観では,それでも安すぎるのだがね」



 街はずれの路地裏で、アンドロイドに買ってこさせた(あま)パンを(かじ)る。私は逃げも隠れもしないと言ったのだが、ああも請われては身を隠すのも仕方あるまい。



「それで,これからどうする? 契約破棄を目指すにしても,もたもたしていると利子が膨れて状況は悪くなるぞ」


「古代森の復元を成し遂げれば、術貨10億など小遣(こづか)いに過ぎん。完成された魔石の価値とはそういうものだ」


「なるほどな.魔石とはこういう鉱物だったか?」


「そのようなものだ」



 アンドロイドの手のひらには、小さな魔石が乗っている。手のひらで転がせる小ささながら、現代ではこのような無傷の魔石は産出されず、微小(ちいさ)な欠片や粉末さえも高い術貨で……


 ……このような無傷の魔石!?



「き、貴様! それをどこで!?」


「ブラダリア城の地下に欠片があっただろう.少しサンプリングしておいた」


「あれは砂粒に近い欠片だったろうが! 小石程度とはいえ、なぜ無傷の魔石が!?」


「ただの元素合成と結晶成長の応用だよ.Blackhole(ブラックホール) Driver(ドライバ)立ち下げ(アンロード)前にチョイとね.本来,質量炉(マスリアクター)暗黒実験室(ダークラボ)の稼働には多くのエネルギーを要するが,君の術継ぎ(リペアラ)は恐ろしいな」



 恐るべき謎の技術で無傷の魔石を錬成したアンドロイドは、それを私にしっかり握らせた。触れただけで価値の高さがわかる。



「さあ,魔石を売って当座を(しの)ぎつつ,古代森の復元といこうじゃないか」


「まったく、理不尽で頼もしいパートナーだ」



 思わず(こぼ)れた小声とともに差し出した手が、アンドロイドに握り返される。



「……貴様でも笑うことがあるのだな」


「――それはこっちの台詞だ」



 この私、ロイ=ド=オアロイドの魔術とアンドロイドの技術で手を結べば、どんな困難な状況があろうとも突破口は拓ける。強く、そう思った。













───────────────────

アンドロイドオアロイド|ハロー

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「貴様のおかげで……また私が指名手配されたっ!!」


「君が,私を巻き込んでいるのだよ」



 クズダー上級魔術師の鼻を明かすために宮廷に魔石を送付すると、次は魔石を独占して隠し持っているなどという疑いで、手配書が掲示された。



「私は君のためなら,再びBlackhole(ブラックホール)Driver(ドライバ)のロードを試み,質量炉(マスリアクター)暗黒実験室(ダークラボ)での魔石量産を目指しても良いと言っているのに」


「貴様頼りで心半分な魔石を量産するなど、この私が許さんッ!」


見本(デモ)の魔石を宮廷に送ったにしては強情だな.1個もたくさんも同じではないかね?」


「私や貴様でなくても安定的に魔石が得られる方法を示す。それが有能な魔術師というもの」



 アンドロイドが生成した小石程度の魔石は、あくまで心半分の中間報告だ。最終報告は、私が拝した国務の達成でなくてはならない。



「これから、完成された魔石を安定的に産出する古代森を復元する。成果を示せば自ずと指名手配も解かれるだろう」


林学(シルビカルチャー)は環境によって体系が大きく異なる.君に聞きたいことは――山ほどあるぞ」


「後にしろ」



 立ちふさがる困難は、思ったより近くにありそうだ。


 





アンドロイドオアロイド|ハロー 完


 

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