アンドロイドオアロイド|リターンズ
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テータ紀1429年
第六次復興遠征、ロイ=ド=オアロイドが禁忌の魔術《エコシード》を打破するも、余波でブラダリアが世界地図から消滅。ブラダリアの歴史に終止符を打つ。
テータ紀1429年
ロイ=ド=オアロイドが旧ブラダリアにて古代森を復元。
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完成された転移|回移を詠唱して《禁忌魔術》を打破した後は、健全な古代森の一部を転移させるだけのたやすい単務だった。
時空森領域に踏み入る前、私たちのいた場所に牢獄が転移してきたのと同じだ。両開きの本を閉じて左右を重ねれば、異なる二つの時空は同じ一つの時空になる。たとえそれが縦開きと横開きの本であっても、回転させればページを合わせられる。
私たちが復元した古代森は、これからの歴史でさらに繁栄していくことだろう。
アンドロイドは写像定理がどうたらとわめいていたが、ここでは難解な技術用語はどうでもいい。
街に戻って来た私は、震える両手を掲示板に押し付けていた。
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【指名手配:ロイ=ド=オアロイド】
この者が宮廷に負う術貨9,999,999,999。魔石の生産魔術を秘匿・独占し、逃亡を続けている。開発魔術を押収するため、見かけた者は宮廷に通報すること。捕縛した者には褒美を取らせる。追告:魔石を発見した者は宮廷に届け出ること。
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「なぜだ……。何故ッ 国務を達成した私が、指名手配されているっ!?」
「まあ,産出する魔石が全てこれだからな」
アンドロイドは、黒きローブの胸元に煌めく魔石飾りに触れる。
そこには、ロイ=ド=オアロイドの名が大々的に刻まれていた。新たに産出するようになった魔石には、時空森に埋めた魔石と同じく、内部に私の名が彫られているのだ。このように世界から賞賛を受けるとは、私自身も予想していなかった。
燦然とした輝きはまさに宝石といえよう。私の魔石に比べれば、宮廷の上級魔術師の間で出回る微細な魔石の欠片など、もはや道端の砂粒に等しい。
フフン、困難な国務を達成した私の有能さを、この世界も知らしめたいらしいな!
「この完成された成果と指名手配の間に、いったい何の関係があるというのだ」
「うぅむ,君に説明するのは,――技術論よりも難しそうだ」
視線を横に流し、指で頬をかくアンドロイド。
よくわからん態度はともかく、決定的に誤った掲示が街に貼り出されているのは大問題だ。100年の長きにわたり解決を見なかった国務。それを達成した有能な魔術師が指名手配されたままとあっては、我が国の威信に関わる。
しかしなぜ……! 何故このような愚かな間違いが放置されているんだッ!?
「くそっ、こんな瞬時撤回すべきものをいつまでも〜〜〜ッッ」
「ちょ,ちょっと落ち着きたまえよ.ほら,君のために買ってきた甘パンもある」
「……フン。これを食べ終えたら、私の有能さを存分に教示してくれる!」
開いた大口でアンドロイドの手から甘パンを奪い取る。私はひとまず、甘美なる達成感を噛みしめることにした。近い未来で国中から浴びることになる賞賛を、楽しみに待ちながら。
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アンドロイドオアロイド|リターンズ
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街の広場に集いざわめく民々を前にして、私は声高々に説いた。100年の長きにわたった国務が、ここに達成されたことを。古代森から安定的に産出する魔石、それらがもたらす莫大膨大な術力が、民々の暮らしをよりいっそう豊かにすることを。
誰もが魔石内部に透ける刻銘を見るたびに想い起こすだろう。日々の生活に多大なる恩恵をもたらした、有能な魔術師のことを。
「その私が投獄されるなど、絶対にあってはならないっ!」
「やれやれ,また戻ってきてしまったか」
アンドロイドは引き剥がした鉄格子を石床に置くと、屈んだまま静かに首を横に振った。金髪が落ちた肩をかすめる。
「前とは逆に,私たちが牢獄に転移してきた.宮廷から指定された座標は祝賀会場には不適切だったようだ」
「国務達成を祝うセレモニーが、まさか、私をおびき寄せる策略だったとは……!」
赤い束髪が、肩を降りて胸元の魔石飾りに触れる。
恐らくは、私を閉じ込めている隙に魔術を開発し、古代森から産出する魔石に自らの名を刻もうというのだろう。黒きローブをまとう宮廷魔術師ともあろうものが、なんと浅ましい!
魔石への刻銘は、この世界が私を認めた結果だというのに。
完成された魔石の術力を頼りに大魔術を開発できたとしても、その功名は、魔石の安定産出を実現した私に戻ってくる。国務の達成を通じてこそ、名は広く知れわたるのだ。
「まあ脱獄は容易だから良いとして――,これからどうする?」
「さらに困難な国務を達成することで、私が有能な魔術師であることを認めさせるしかあるまい。宮廷に長年籍を置く、貴き生まれの魔術師にも理解できるようにな」
「あれより高難度の国務とは,私には見当もつかないぞ」
「そのようなものは未だ存在しない。ゆえに、これから探し出すつもりだ」
私の宣言にアンドロイドは一瞬沈黙し、淡く表情を崩した。
「ふふ,まったく.君は新奇な道を進むのが好きだな」
「貴様にもわかるだろう。その心が私たちの進む力だ」
同じ心を持つ私たちは、固く手を握り合った。私たちが手を結べば、どこからでも突破口は拓ける。そこが暗く冷たい牢獄でも、時空が乱れる古代森でも、未知に覆われた不確かさの中であったとしても。
「君との対話を重ねて,私のInHeartalOnは能力向上を続けている.国務達成を記念して,改めて自己紹介をしたい.想起可能な技術情報も増えているはずだ」
「貴様の説明能力も向上していると良いのだがな」
新たなる未知がまたひとつ、姿を現そうとしていた。
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アンドロイドオアロイド|リターンズ
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「いっそのこと,君が新しく国を興すというのはどうかね」
「私が、国を……!?」
「ブラダリアの歴史は終わったのだから,新しい国があっても良いだろ」
私の思索は既に、未知なる領域へと導かれていた。差し出した手が再び握り返される。
「貴様といると、私の想像の限界は、際限なく広がっていくようだ」
「私もそうだよ.君といればきっと,ダークストレージから文明の全記憶を想い起こすことも夢ではない! そしてその先へ続く新たなる一歩を,私たちは踏み出すのだ!」
私たちは共に歴史に名を残すことになるだろう。未来を導くのは、未知なる異世界の技術をその身に宿す、心ある強いアンドロイド。それを杖とするのは、ロイ=ド=オアロイド。我が国で最も有能な魔術師の名である。
アンドロイドオアロイド|リターンズ 完




