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キスしないと出られない部屋に閉じ込められた破局寸前のカップルは、意地でもキスをしない

作者: 墨江夢

 気が付くと、少年と少女は薄暗い部屋の中にいた。

 地下なのか部屋には窓がなく、明かりも蛍光灯一つしかない。

 少年と少女は、周囲を見回す。


「ここは、どこだ?」

「学校ではなさそうですね。私の家でもない。あなたの家だとしたら、前に来た時と比べて随分模様替えしたようですが……」

「テーブルもなければベッドもない。こんな殺風景な自室があるか」

「だとすると、本当にここはどこなのでしょうか? ……ひとまず、外に出てみましょう」


 部屋の外に出て、建物の中を徘徊すれば、何か情報が得られるかもしれない。そう考えた少女は、ドアノブに手を掛けた。しかし、


「……あれ?」


 ドアには鍵がかけられてきて、どれだけノブを回そうが開かない。そしてあろうことか、内側にはドアロックが備え付けられていなかった。


「中からは、解錠出来ないみたいですね」


 それが意味するのは、完全な密室。少年と少女は閉じ込められたのだ。


「誘拐でしょうか? 犯人は私たちを拐って、閉じ込めて、解放する条件として身代金を要求するつもりでは?」

「俺の家もお前の家も別にお金持ちってわけじゃない。警察に捕まるリスクを冒してまで誘拐したりしないだろ」

「そうなると、考えられる動機は怨恨……。どこかで恨みを買った覚えはありませんか?」

「え? この状況、俺のせいだと思ってるの? 即座に俺が原因だと決め付けられるその図太さ、流石だよ」


 決め付けるも何も、少女には誘拐される程誰かに恨まれるような覚えはない。同時にそれは少年にも言えることだった。


 もしかしたら、若い男女を無差別に誘拐しているのかもしれない。二人がそう考え始めたところで、ドアの上に設置されているスピーカーから声が流れ始めた。


日暮嶺二(ひぐらしれいじ)美南真帆(みなみまほ)。ようこそ、我が屋敷へ』


 変声器を使っていて男か女かもわからないが、声の主は恐らく誘拐犯だろう。

 誘拐犯は、少年と少女――嶺二と真帆のことを知っていた。つまりこれは、二人を狙った計画的な犯行だ。


「お前は何者だ? どうして俺たちを誘拐した?」

『私はDr.キューピッド。君たちを誘拐した理由は……あるゲームに参加してもらう為だ』

「ゲームだと?」

『あぁ。単純明快な脱出ゲームだ。……脱出ゲームを知っているか?』

「バカにしないでくれませんか。知ってるも何も、前に遊園地のアトラクションで体験したことがあります」

『そうだったのか。……因みに遊園地には、家族と?』

「……チッ!」


 真帆は珍しく舌打ちをした。嶺二もまた、罰の悪そうな顔をしている。

 二人の様子が示唆する事実は一つ。遊園地には、嶺二と真帆の二人で行ったのだ。

 嶺二と真帆は恋人同士。遊園地でデートをしたことがあっても、おかしくない。

 ただ……嶺二と真帆の場合、その常識が成り立たない。何故なら二人は、破局寸前のカップルだからだ。


「脱出ゲームってことは、この部屋から出るには何らかの課題をクリアする必要があるんだろ? 俺たちは何をすれば良い? 難解な謎でも解けば良いのか?」

『単純明快と言っただろう? この部屋を出る為の条件、それは――二人でキスをすることだ』

「「あ?」」


 それはもう、見事にドスのきいた返しだった。


『私はDr.キューピッド。君たちのような破局寸前のカップルに治療を施して、さながら付き合いたての頃のようなラブラブ状態に戻すことを使命としている』

「「結構です。不治の病なんで」」

『君たち二人は本当は想い合っているというのに、面と向かうと素直になれずについギスギスしてしまう。それが私の診療結果だ』

「「セカンドオピニオンお願いします」」

『だけど、もう心配はいらない。人が見ているところでキスなんて小っ恥ずかしい行為をするんだから、この部屋を出る頃にはきっと素直になれている筈だ。だからほら、キーッス! キーッス!』

「「子供か」」


 一方的に言いたいことだけ言うと、Dr.キューピッドはマイクの電源を切った。


「くそっ! あのヤブ医者、マイクを切りやがった!」

「私たちの話には、一切耳を傾ける気がないようですね。それならもっと罵詈雑言を浴びせておけば良かったです」

「だったらすぐにでもこの部屋から出て、Dr.キューピッドに文句を言いに行こうぜ。だからその……ほら」


 嶺二は咳払いをする。

 彼が何を言おうとしているのか、無論真帆も察していた。


「……本当にキスするつもりですか?」

「俺も不本意だっての。でもそれ以外にこの部屋から出る方法がないんだから、仕方ないだろ?」

「……淫獣」

「そうだよ、獣だよ。だからキスなんて、犬に噛まれたものだと思えば良いだけの話だ」

「……そうですね。キスなんて、駄犬に噛まれたものだと思えば良いんですね」

「どうして言い直す……」


 嶺二が真帆の肩に手を置く。それに呼応するように、真帆は僅かに唇を尖らせて、目を閉じた。

 二人の距離が近づいていく。あと二〇センチ、一〇センチ……そして二人の唇は――


「「あああぁぁぁぁ! やっぱり出来ないぃぃぃぃ!」」


 重ならなかった。

 あと数センチというところで、嶺二と真帆は同時に互いを突き飛ばす。


「犬に噛まれたようなものだと思っていたけれど……こいつとのキスは、そんなに可愛いものじゃないだろう!」

「同感です! まるでゴキブリと交配するようなものです!」

「それは流石に酷くねーか!」


 キスをしさえすれば、すぐにこの部屋から出られるというのに。たとえ恋人同士であったとしても、破局寸前の二人には困難極めるものだった。



 ◇



 嶺二と真帆が意地でもキスしない様子をカメラ越しで見ながら、Dr.キューピッドは大きく溜息を吐いた。


「嶺二も美南さんも、本当に素直じゃないよな。さっさとキスしちまえば良いものを」


 Dr.キューピッドこと広崎圭一(ひろさきけいいち)の独り言に、同室でスナック菓子を頬張っていた少女が「やっぱり?」と反応した。


「寸前まではいったんだけどな。あと一歩ってところで、同じ極同士の磁石みたいに反発した」

「あー。その光景、簡単に想像つくわ」


 言いながら、少女は失笑する。

 少女は名前を与田早苗(よださなえ)といい、彼女もまた、この誘拐の犯人だった。


 前述した通り、圭一と早苗は誘拐を計画アンド実行した犯人だ。しかしそれと同時に、嶺二と真帆の友人でもあった。


「笑い事じゃねーだろ。二人には、きちんと仲睦まじいカップルに戻って貰わないと、俺たちが困るんだぞ」

「まぁね。あの二人の喧嘩を毎日見せつけられるのは、そろそろ勘弁して欲しいからね」


 圭一たちがDr.キューピッドを名乗り嶺二と真帆を誘拐するなどという暴挙に出た理由は、破局寸前のカップルの喧嘩にあった。


 交際を開始して三ヶ月が経ったあたりから、嶺二と真帆は毎日のように喧嘩をするようになった。

 朝の「おはよう」から放課後の「さようなら」まで、校内で顔を合わせては喧嘩の勃発だ。

 喧嘩といっても、殴り合いや絶交に繋がるような大事じゃない。はたからしたら取るに足らないものだ。


 問題は、喧嘩の内容。二人の喧嘩というのは、一人目の子供は男の子か女の子かだったり、同棲はいつから始めるのかといったもので、ぶっちゃけ喧嘩の皮を被ったただのイチャイチャだった。


「どうして一人目は女の子が良いんですか!? 嶺二くんによく似た男の子一択でしょう!」

「いいや、女の子だ! 俺は世界一可愛い妻と娘に「おかえり」と言って貰いたい!」

「だったら二人目でも良いでしょう! 嶺二くんとの子供なら、二人でも三人でも産んであげますよ!」


 こんな風な周りが砂糖を吐きたくなるくらいゲロ甘な口喧嘩を毎日のように繰り返している。本人たちは「破局寸前だ」などと豪語しているけど、実の所まだまだバカップルさは健在なのだ。


「馬が合わないとか言ってるが、どう考えてもあいつら程お似合いのカップルはいないよな。仮に別れたとしても、数年後にはあっさり復縁している気がする」

「でも当の本人たちは、そのことに気付いていない。あの二人、恋愛に関してはバカだから。……この脱出ゲームを計画したのも、そういう理由から?」

「自分たちの気持ちに向き合うきっかけになればと思ってな。因みに地下室は、今回の為に修繕した」

「一体いくらつぎ込んだの? お金持ちの考えることは、理解出来ないね」

「簡単だぞ? 恋愛に金は惜しまない。それだけだ」

「それは自分の恋愛に対してでしょ。他人の恋のために多額を投資するお人好しも、なかなかいないっての」


 でもそれは、圭一が友達思いである何よりの証拠で。早苗もその部分は評価していた。


「それはそうと、Dr.キューピッドって何? ネーミングセンスなさすぎ」

「マジで? 徹夜して考えたんだが……」



 ◇


 普通にキスしようとしても、体が拒絶反応を起こしてしまう。何か工夫を凝らさなければ、一生この部屋から出られない。割とマジで。

 そう危惧した嶺二は、真帆にある提案をした。


「キスをする時、お互いのことを好きな芸能人に見立てるっていうのはどうだ?」

「成る程、自己暗示ですか。私たちは相手に不満があるだけで、キスという行為自体に抵抗があるわけじゃない。ならば相手を別の存在に置き換えることで、拒絶反応を抑えようということですか」

「そういうことだ。良い作戦だと思わないか?」

「悪くないですね。試してみる価値はあると思います」


 先程と同じように、嶺二が真帆の肩に手を置く。ただ一つ違うのは、今度は顔を近付ける前から二人とも目を閉じていた。


 二人は頭の中で、好きな芸能人の姿を思い浮かべて、目の前の恋人に投影する。

 嶺二は流行りのアイドルを、真帆はハリウッドスターの姿をそれぞれ想像していた。


 二人の距離は、ゆっくりと近づいていき――


「「あああぁぁぁぁ! それでも無理ぃぃぃぃ!」」


 またも重ならなかった。


「どうしてもキスの直前で目を開けてしまって、夢から覚めてしまいます!」

「俺も同じだ! まーやんがいきなりお前に変換されて、目が穢されるような思いだ!」

「ちょっと待って下さい。まーやんって、最近クイズ番組で珍回答ばかりしているおバカアイドルのことですか? あんな化粧詐欺より、私の方が絶対可愛いと思うんですけど!?」


 一回目で上手くいかなかった以上、同じ条件で二回目三回目と挑戦しても結果が好転するわけもなく。目をつむって眼前の現実を見ないように努めても、互いの姿がくっきりとまぶたの裏に焼き付いてしまっている。


 相手を好きな芸能人に置き換えるという作戦は、失敗に終わった。



 ◇



 嶺二と真帆が閉じ込められてから、三時間が経過した。

 二人は未だキスが出来ておらず、依然として部屋の中に監禁されている。

 カップルがキスするだけというお題を三時間かけても達成出来ていないことに、Dr.キューピッドは半ば呆れていた。


『二人とも、いつまでこの部屋にいるつもりなんだ? 家に帰りたくないのか?』

「お前が鍵を開けてくれたら、すぐにでも帰るつもりだけど?」

『キスをすれば開けてやると何度も言っているだろう? ほんの少しの間、唇と唇を重ね合わせるだけのことじゃないか』

「それが出来ないから苦労しているんだろ。……それより、水ってあるか? 流石に喉が渇いたんだが」

『それなら、冷蔵庫の中の水を飲むと良い』

「冷蔵庫? ……あぁ、あれか」


 Dr.キューピッドの言う通り部屋の隅に小型冷蔵庫があり、中を確認すると500mlのペットボトルが入っていた。……一本だけ。


 部屋の中にコップやお椀はないので、水を飲もうと思ったらペットボトルから直接という方法しかない。

 それ自体は普通のことだし、嶺二も気にせず直飲みしているだろう。……真帆がいなければ。


「……真帆、この水はお前にやるよ」

「何言っているんですか? 水を飲みたいと言ったのは、嶺二くんでしょう?」

「そうだけど……俺が口つけたら、お前が飲めなくなっちゃうだろ? 彼女を差し置いてそんな真似出来るかよ」

「……あぁ、そういうことですか。別に間接キスくらい気にしない……」


 真帆はそこでセリフを止めて、押し黙る。考え込むように、ペットボトルを凝視していた。


「どうかしたのか?」

「いえ。ちょっと思い付いたことがありまして。……Dr.キューピッド!」


 真帆が呼ぶと、Dr.キューピッドはすぐに反応した。


『何だ?』

「一つ聞きたいんですけど……間接キスでも、条件を満たしたことになりますか?」

『それはダメだろう。私が要求しているのは口付けだ。間接キスは、口付けにならない』

「ですが、あなたが出した条件はキスであって、口付けじゃありませんよね? でしたら間接キスでも満たしたことになると思うのですが?」

『ううむ……』


 真帆の主張は、屁理屈だ。しかし部屋から出る条件を口付けではなくキスと言った手前、Dr.キューピッドは一考せざるを得なかった。やがて、


『本当はダメだと言いたいところだが……良いだろう。間接キスもキスだ』


 自分の発言には責任を持たなければならないと感じたのか、Dr.キューピッドは真帆の屁理屈を認めた(実際は言い出したら聞かない真帆の性格を考慮して、折れただけなのかもしれないが)。


 間接キスでもキスとみなされ、この部屋からの脱出条件となり得る。直に唇を重ねない間接キスなら、普通のキスよりぐっとハードルが下がる筈だ。

 そうと決まれば、早速実践。嶺二と真帆は顔を見合わせる。

 互いの意思を確認して、頷き合う。そして嶺二が、持っていたペットボトルの蓋を開けた。


「――って、ちょっと待てーーい!」


 蓋を開けて、今まさに水を飲もうとするところで、真帆に止められた。

 らしくない口調が、彼女の本気度をうかがわせる。


「嶺二くん、あなた何しれっと水を飲もうとしているんですか?」

「だって水を飲まないと……ペットボトルに口を付けないと、間接キスは出来ないだろ?」

「それはそうですけど……これ、後から飲む方が緊張しませんか?」

「……確かに」


 先に飲む方は、ただ水を飲むだけだ。飲んでしまった後は、相手に丸投げしてしまえば良い。

 しかし、後に飲む方は違う。間接キスになるとわかった上で、水を飲まなければならない。

 飲水という行為一つでも、先か後かで難易度が大きく変わるのだ。


「「……」」


 嶺二と真帆は、ペットボトルを見つめる。次の瞬間始まるのは――見るに耐えないペットボトルの奪い合いだった。


 強行突破を計った嶺二と、それを阻止するべくペットボトルを掴みかかる真帆。ペットボトルを取り合う両者は、一歩も引く気がなかった。


「レディーファーストという言葉を知らないんですか? こういう時は女性に譲って、男性は損をするべきでしょう?」

「お前こそ、男女平等って言葉を知らないのか? 男だからとか女だからとかは関係ない。先にペットボトルを持っていた方が先に飲む。普通のことだろ?」

「でしたら、こういうのはどうでしょう? 彼女として、嶺二くんの男らしいところが見てみたいです」

「ご期待に添えなくて悪いが、俺は男らしくないんだよ。だから真帆以外の女の子に好かれた経験はない」


 言い争いが進むにつれて、二人のペットボトルを握る力が強くなる。


「離せよクソ女」

「あなたこそ離して下さい。強情男」


 互いにペットボトルを強く引き、奪い合っていると――やはりと言うべきか、案の定というべきか、ペットボトルは二人の手を離れて、床に落ちた。


「「あっ」」


 ペットボトルは床を転がり、その間水が溢れ続ける。

 ようやく止まったかと思うと、中の水は半分程なくなっていた。


「……床に落ちたものに、口は付けたくないわね」

「激しく同意」


 室内にペットボトルは、もうない。

 常備してあったペットボトルで間接キスという作戦も、無益な争いにより失敗した。



 ◇



 監禁から五時間が経過した。キスは未だに出来ていない。

 閉じ込められて以降飲まず食わずの時間が続いている嶺二と真帆の体力は限界に近付いており、またペットボトルを落とし間接キスという手段も取れなくなったことで精神もだいぶすり減らしていた。


 立っている気力すら失った二人は、背中を合わせて床に腰を下ろしていた。


「……何でこうなったんですかね」

「さあな。犯人の目的が、さっぱりわからない。一つわかることがあるとすれば……」

「あるとすれば?」

「俺の彼女がお前じゃなければ、そしてお前の彼氏が俺じゃなければ、とっくの昔にこの部屋を出られていたってことだけだ」


 いつもの真帆ならば、嶺二の言葉に大きく頷いて賛同するだろう。しかし極限状況に陥っているこの時の彼女は、つい言うつもりのないことを口に出してしまった。


「……だったら、どうして嶺二くんは私と付き合っているんですか?」

「……何?」

「私のどこを好きになって、彼氏になってくれたんですか?」


 真帆のどこを好きになったのか……最近喧嘩ばかりだったせいで、ついそのことを思い出すのを忘れてしまっていた。

 確かに会えば喧嘩ばかりしているような彼女の、一体どこに魅力を感じたのだろう? 

 この部屋から出られない要因が交際にあるならば、良い機会だ。嶺二は交際のきっかけについても、思い出してみることにした。


「……入学直後の学力試験の時だ。お前、クラスメイトからの「カラオケに行こう」という誘いを、断っていただろ? 「明日も試験があるから」って」

「そんな昔の話、よく覚えていますね」

「それがきっと、お前に興味を持ったきっかけだからな。……俺はあの時、カラオケに行った。本当は帰って勉強をしたかったけど、皆が行くからって理由で断り切れなかった。だから……自分の意思をはっきり伝えていたお前をカッコ良いと思った」

「そうだったんですか……」


 喧嘩と悪口の言い合いに慣れていたので、直接カッコ良いと言われるのが妙に新鮮で、こそばゆかった。

 歯切れの悪くなる真帆につられて、嶺二も小っ恥ずかしくなる。


「クソッ、なんだか凄く恥ずかしいことを言った気分だ。てか、俺にだけ言わせんじゃねーよ」

「そうですね。折角ですし、私が嶺二くんに惚れたきっかけもお話しましょう。……カッコ良いから。以上」

「テキトー過ぎないか!?」

「テキトーじゃありませんよ。……嶺二くんの顔、私好きなんですよね。普段抜けているのに、真剣になる時だけこう眉がキュッてなるところとか。運動が苦手なくせに、それでも精一杯努力している姿もカッコ良いです。あとは性格。捨て猫のミルクを買う為に電車賃を使ってしまい、仕方なく徒歩で帰る姿には、ときめいちゃいました」

「……お前こそ、よく覚えているな」

「それが嶺二くんに興味を持ったきっかけですから」


 二人の顔は、一層赤くなっている。

 そこにいるのは、もう破局寸前のカップルではなかった。


「……今でも俺をカッコ良いと思っているか?」

「わかりません。嶺二くんは?」

「俺もわからん。だから――確かめてみないか?」


 嶺二は振り返る。

 今ならキスが出来そうだ。嶺二と真帆はそう感じていた。


 二人の距離が近付く。そして唇と唇が――とうとう重なった。


「……こんなにドキドキしたのは、いつ以来でしょうか?」

「俺たちも案外、やり直せるんじゃないか?」


 キスという条件を満たしたので、地下室の扉が開錠される。


「それじゃあ、家に帰ろうか」

「……はい」


 嶺二が差し伸べた手を、真帆はしっかり握る。

 二人が手を繋いだまま、扉を開けると――


『続いては、お互いに「好き」って言うまで出られないゲーム!』

「「いや、まだ続くんかい!」」

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