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転機。

ゴリ ゴリ ゴリ グツ グツ グツ


「大したものだよねー」


彼女は私の作業を見ながら言った

彼女は王室仕えの薬師マリーア・ネレイド

貴族令嬢にして薬師をやっている変わりもの・・・

いえ、勤労意欲の高い素晴らしい令嬢だ。


「何?」


「それ」


彼女がそれと言った物、私が作った日焼け対策品

既製品の物を使うと肌が負けてしまうので勉強して自分で作るようになった。

材料は広いお城の敷地内、そこらに生えている草花

昼間は外に買いに行きたくないし、夜は店もやってない。

ハーブ類をやりくりして作っていた。


それはお休みの夜のお城を散策中

城壁沿いに目に入る、使えそうな草花をプチプチと拾い集めていたある日の事だ。


「あなた!それは何!」


「え?」


振り向くと、私に向かって指を差し

目を吊り上げたローブ姿の女性、マリーアだった。

隣には騎士様も居る


彼女が言うには最近薬草園から薬草が減っている

報告をあげて夜警を増やして貰ったけど、勝手に盗って行く犯人に怒りを覚えたマリーアは夜警に同行して犯人を探していたそうな。


そしてバスケットを持ち、その中には草花

夜な夜な敷地内を歩く私を見つけたのだった。

まあ怪しいのは認める・・・

幸い、一緒に居た騎士様はよく顔を合わせる人で

夜活動の私を知っていたので疑いはすぐ晴れたのだけど。


その後、疑った事を謝罪するマリーアと仲良くなり

私のお肌対策品を作るのに彼女の研究室を間借りする様になった。

マリーアは研究室付きの薬師という事で、必要な材料を手配して貰える事になり、お肌対策品の品質はこれ迄より遥かに向上して助かっている。

また、昼も夜も関係無く研究室に籠るマリーアなのでよくこうして話していた。


「肌、負けるからね」


「最初聞いた時はそんなに白いのに、更に白くなりたいのかって思ったわ」


「まさか」


夜勤務とは言え、完全に陽の光を避けるなんて無理だ

首から下は兎も角、ヴェールと帽子を被っても顔周りはそれなりに赤くなる、健康の為にも対策は必須だ。


肌に優しい効果のある物、ついでに洗濯で手が荒れるから、石鹸、日焼け止めクリーム、ハンドクリームを自作していた。



「ねえエルシー、それ献上してもいい?」


「え?これ?」


「うん」


「いいよ、適当に持ってってー、あ、検分はそっちでやってね」


「ありがと」


私としては調合場所と薬草の手配をしてもらった御礼程度のつもりだったけど、後日私の立場は大きく変わる事になる。








「リュシー!おい、起きろ!リュシー!!」


ドンドンと扉を壊さんばかりに叩かれる


「うー、なに・・・」


体感と日の差し込み具合から判断するに、真昼間

声は多分アルスロット様だ。

寝惚けたまま、ヴェールだけ被って出る


「なあに、アルスロット様」


「お前!なに、し、、て・・・」


ん?凄い勢いのアルスロット様は固まり、顔を真っ赤にしている


「ああ・・・」


ネグリジェのままだったわ・・・


「お前、なんて格好で!ききき、着替えろ!」


「急かしたのはアルスロット様じゃないですか・・・」


「それはそうだが!いや、すまない、身支度を整えてくれ・・・」


「はあ、このままでも構いませんが・・・」


「いいから着替えろー!」


なんだ、そんなに見苦しかったか・・・

やれやれと私は洗濯婦のお仕着せを着てくすんだ小さな鏡を覗き込み、クリームを塗り込んでヴェールを被った。


「で、なんですか、あ、部屋に入ります?」


「い、いや、此処でいい・・・」


「?」


「んん!!ルシエル洗濯婦!本日2の刻、王妃様の元に来るように!」


「はあ・・・、・・・はあっ!?」


「リュシー、お前何やった・・・?」


「何も、何故私なんか呼ばれるんですか・・・」


「知らん、俺は今日離宮の警備だったが突然呼ばれてな」




「アルスロット、あなた月の妖精さんと仲が良いそうですね」


「は!?あ、夜警が多いので話す事はあります」


「連れて来て、侍女に言っても誰も彼女の部屋が分からないと言うのよ」


・・・・・・・・・


「という訳だ」


「そう」


私の部屋は隅の隅、日当たりの悪い城の片隅だ

ほぼ人と交流のない私はどこに居るのか、言われた侍女が探しても、人に聞いても分からなかったそうな。


「それで近衛騎士のアルスロット様が?」


「ああ、いいか俺は伝えたぞ、必ず・・・、いやお前離宮分かるか?」


「いいえ」


「だよな・・・、分かった、迎えに来るから準備して待ってろ」


「はい」


「ドレスは持ってるか?」


「洗濯婦がドレスなんて持っているわけないでしょう、制服で行きますよ」


「・・・待ってろ」


10分程だろうか、戻って来たアルスロット様の手には青いワンピース。

仕立ての良さから高級品と分かる


「ほれ」


「どういう事ですか?」


「着ろ、いくら制服と言ってもそんなボロボロのお仕着せで王妃様の元に赴く訳には行かんだろ」


確かに、洗濯婦の制服なんてお金のかかっていない質の悪い物だ。

すぐ傷むし、繕って使っているからツギハギだらけでみすぼらしい、王妃様、と言うか貴人の所へ向かう格好としては不適切かも・・・


「ありがとう、ございます」


「ああ、いいか2の刻だから、その前には迎えに来るからな」


「ええ、分かりました」


アルスロット様はそう言うとスタスタと来た道を帰っていった。


サッと綺麗なワンピースに袖を通す

サイズはほぼピッタリ、胸が多少キツイけど許容範囲内だ。

仕立ての良さ、意匠、生地、可愛い・・・

私だってオシャレに興味が無いわけじゃない、ただ洗濯婦のお給金ではここまでの高級品には手が出ないし、どうしても服は後回しになってしまうから仕方ない。


それにしてもアルスロット様は何故ワンピースなんか持っているのだろう?

まあいいか、貰えるなら遠慮無く

浮名を流す人だ、いつでも女性に贈り物出来るように持っていたんだろう。



私は可愛い服に久々に心が浮き立った。





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