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夜の王宮に現れる妖精さん

深夜、城が静まり返ってから私の仕事は始まる。

茶色のお仕着せを着て、いつもの様にヴェールを纏う。

誰も居ない洗い場に洗濯物が詰まった大きな籠を持って来て手洗いする洗濯婦、それが私の役割。


何故夜か?

私はアルビノで肌が弱く、昼間は仕事にならないから。

太陽の光なんて以ての外、だからこそ夜に働き

昼は部屋に閉じこもる、そんな生活を続けてもう6年になる。


城に来た当初こそ説明しても理解を得ることは難しかった。

強硬に昼働けと言う女官長。

言われるまま働いた初日にして、露出していた肌を真っ赤に腫れ上がらせ、顔に至っては瞼を開けるのも怪しい程の状態になった私を偶然王妃様が見つけた事で大問題になった。

鶴の一声、それからは夜勤務を認められ、ずっとそうしてきた。


「妖精さん調子はどうだい?」


軽口で話しかけて来たのは近衛騎士のアルスロット

鶴の一声で私の待遇が決まった事を王妃様自身はどのような影響を及ぼすか理解をしていて、定期的に近衛騎士を御用聞きに遣わして下さるのだ。


「変わらずですよアルスロット様」


「アルスって呼んでくれよ、俺とリュシーの仲だろう?」


「只の顔見知りですよね、私は庶民の洗濯婦、アルスロット様は侯爵家の次期当主にして近衛騎士」


「連れないねえ、相変わらず月の妖精さんは」


「なんですか?月の妖精さんって・・・」


「知らねえのか? リュシー、お前の事だよ」


「はあ?」


「はあ?じゃねえよ、月明かりを受けて白く透き通る様な肌、妖しくも美しく光る紅き瞳、輝く銀髪、夜しか姿を表さないリュシーを見た奴らがそう騒いでるぜ」


「アルビノですから、色素が無かったり薄かったり、それだけです」


「美しい理由には変わりないさ」


「そうですか」


「リュシー」


「なんですか?」


顔をあげずに洗濯桶に手を突っ込んだままジャブジャブと仕事を続ける私にアルスロットは先程の軽薄な調子を潜め真面目な声色で言った。


「気を付けろよ、お前を狙っている男が何人か居る」


「私を? 騎士ですか?」


「騎士も居る」


「も、とは」


「貴族にも居る」


「気を付けろ、と言われても・・・」


「只でさえお前は1人で、夜、女が、人気のない洗濯場だ、襲われたくはないだろう?」


「だからと言って夜働けないとクビになってしまいますし、こんな洗濯婦、下女に価値なんか有りませんよ?」


「洗濯婦だからこそ、どうにでもなるから、な」


「ああ・・・」


騎士様が相手なら洗濯婦の立場として玉の輿になるのだろうか?

貴族だとたかが下女の1人や2人どうとでも出来るだろうしろくな事にはならない。

後ろ盾のない娘なんて居なくなってもさほど困らない。


「私の病的な見た目を気に入って愛人に、ですか」


「病的、ってお前な・・・」


「事実です、それで私は家を出されたのですから」


「ロウエル伯爵家、か」


「ええ」


私の見た目は端的に言って『異端』

真っ白、陽の下は歩けない、病的なまでの白さと紅い目を揶揄して吸血()なんて言われたりもしていた。

噂話や間接的な話ではなく、実の血が繋がった父母、兄、妹に。

伯爵家の使用人は気味悪がって近寄らなかった。


12歳で王宮へ、奉公という名の厄介払い

最初、侍女での採用予定は家を出た途端に貴族籍を抜かれた為に下女、下働きとなったのだ。


まあ私としては単純労働は気にならない。

なんてたって前世では一人暮らし、OLとして働きながら家事をやっていたのだから特に抵抗は無い。

寧ろ、貴族生活こそ窮屈で身の丈に合わないので今の生活こそ気に入っている。

ただアルビノで陽の光に多少弱いってだけだ。


貴族でなくなった下女なんて格好の獲物だけど

幸いにして私は夜働く、わざわざ深夜の洗濯場にまで来て嫌味を言う暇人は居なかった。

私と話す人間は、王妃様に遣わされたアルスロット様

偶に顔を合わせる夜警の騎士様くらい

仕事は昼間の残り物と、粗相された物や夜の営みの残骸、意外とあるのだ。


特に「夜の洗い物」は私が一手に引き受けている

昼間は寝て、夜働く私は無駄話をする相手が居ないボッチ。

つまり誰々がこんな洗い物を、なんて言い触らす危険がないとして秘密裏に洗い物を処理している。

お陰で知りたくも無いお城の下半身事情を知って辟易もするが、王妃様の特例のようなもので夜働かせて頂いているのだから不満等ある筈がない。


いつまでこんな生活が続くは分からない

アルビノは一般的に長生き出来ないし

伯爵家から追放された女を娶る物好きも居ないだろう

それこそ、この見た目を気に入った貴族に無理矢理か、といった具合だ。

素敵な騎士様に口説かれたら、と思わなくもないけど今の所そんな気配はない。


そう思っていた私だったが、意外にも転機は早くも訪れたのだった。






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