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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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乙女?ゲームのヒロイン??の姉は悪役令嬢???

乙女?ゲームのヒロイン??の姉は悪役令嬢???

作者: ainsel

「こ、こんにちは、お義姉さま。シャロンです」

「は、初めまして、お義姉さま。シェリルです」


 後頭部をガツンと、鈍器で殴られたような衝撃を受けた。


 私の目の前にいるのは、一目で栄養状態がよくないとわかるほどやせ細った双子の姉弟。ひしと抱き合い、互いを護りあっているような状態だ。その容貌からは、どっちが姉でどっちが弟かははぼ見分けはつかない。同じような柔らかそうな髪質、黒目がちな大きな瞳に白い肌……私のお父様(美形)にそれはそれはそっくりな、将来が有望な顔立ちだった。


 まぁ、先のセリフとその面見りゃわかりますよね。


 つまり、不倫(やりや)がったな、クソ親父!!!


 この二人、私とほぼ年齢変わらないでしょ。

 あー、あー、そうですか、お母様が私を妊娠中に仕込みやがっ…(自重


「……お父様はどちらかしら?」


 いったん目の前の双子から視線を外して、側に控えていた執事に問いかけてみた。思いのほか低い声が出たようで、長年この伯爵家に努めているベテラン執事がわずかだが肩を震わせたのが視界の端に写った。


「旦那様は……領地のお仕事がお忙しいので、このご姉弟をお嬢様に紹介するよう、私に託されました」

「……そう」


 逃げたか、あのハゲ。

 (お父様はまだ若いし、髪もふさふさだ。だが私の心情的に、将来ハゲになる呪いを贈っておく)


 現在、この王都にあるミュルナー伯爵邸に女主人は不在だ。なぜなら、私のお母様は私が物心ついた頃にはお隠れになったからだ。私は伯爵家の一粒種(たぶん過去形)、リュミエール十歳。クソ親父の不始末の結果を目の前に出され、今、人生の岐路に立たされてます。


 聡明な方ならお判りでしょう。

 そう、ここは乙女ゲーム?の世界。

 そして私は悪役令嬢であり、ダブルヒロイン??の姉である!!


 先ほどの後頭部への精神的な衝撃で、前世の記憶が一気によみがえった。おかげさまで令嬢として生きてきた十年間がねじ伏せられ、口の悪さと大人並みの思考力をゲットだぜ!!(やけくそ)

 もともとの私がどんな人間だったかってのはどうでもいいので割愛。それよりも、これから何が起こるのか、主に私がどうなるのか、の方がより重要。


 長ったらしい副題がついていたような気もするが、タイトルは失念。思い出す気力もない。

 この乙女ゲーム?のダブルヒロイン??から紹介しよう。

 姉であるシャロンを選択すれば、いわゆる王道?乙女ゲーム。

 弟であるシェリルを選択すれば、BでLな乙女ゲーム?のスタートだ。

 両方のルートで悪役令嬢として登場するのがこの私、リュミエールであり、双子のトラウマ的存在でもある。

 先ほどの私の予想通り、お母様の体調が悪い時期に、当主(クソ親父)が奥方付きの侍女に手を出した。侍女は目の前の奥方と似たような症状、数か月遅れて膨らむお腹……そして彼女は姿をくらました。募る奥方への罪悪感と我が子の未来に恐れをなしたのだろう。その後見知らぬ街で、ひっそりと双子を生み育ててたようだ。私のお母様が亡くなり、跡継ぎが私だけになった頃、お父様がいろんな伝手を辿って侍女親子を探し出した。ゲームらしいご都合主義だが、ちょうど過労がたたった彼女が亡くなった直後に、この二人を見つけ出したらしい。

 ちなみに双子がこの家に引き取られた後、リュミエールはシャロンにはつらく当たり、シェリルはでろでろに甘やかす。シャロンは使用人と同じ扱いを受け、朝から晩まで休む暇なく仕事を与えられ、なぜかシェリルはドレスを着せられ、お人形のように扱われる。そして、リュミエールは機嫌次第で、どちらにも当たり散らすという……リュミエールは二人の親というわけではないけれども、一貫性のない子育て大失敗の典型だ。

 その結果、シャロンは大変たくましい雑草のような少女に、シェリルは自分を持たない優柔不断なダメ男(の())へと成長する。

 そして三人はお年頃になり、貴族の子息子女が通うという学園へ入学する。

 そう、ここからが本番だ。

 シャロンルートだが、見た目は天真爛漫なヒロインだが、攻略対象の誰よりも漢気に溢れ、そこに惹かれた攻略対象がシャロンによって攻略されていくというストーリーは、ユーザーを混乱の渦に叩き落した。

 対してシェリルルートはパッと見は儚げヒロインだが、中身は男。何度でも言おう、男だ。だが、愛さえあれば性別など関係ない!とばかりに殺到する攻略対象たち。誰か一人を選ぶということができない、優柔不断なヒロイン…ヒロイン?は、いつしか誰とでも寝るビッチに!あ、ちなみにシェリルルートは18禁だそうです。

 なんか製作者は既存の乙女ゲーを超えるものが作りたかった、とかなんとか……

 設定でお腹いっぱいになってて、私=リュミエールの存在を忘れるとこだったが、悪役令嬢として活躍……活躍?してるよ、たぶん。ヒロインが美形な攻略対象と仲良くするのを良しとせず、大小さまざまな嫌がらせをする。


 教科書に芸術的なパラパラ漫画を仕込み、ヒロインがその素晴らしさに勉強を忘れひたすら教科書をパラパラしまくったせいで、あやうく赤点を取りそうになった、とか。


 お茶会に新しいドレスを用意できなかったヒロイン。自分で染め直した青いドレスへ悪役令嬢がレモンティーをぶっかけると、なんとドレスが青から紫に!!どうやらドレスはバタフライピーという紅茶で染めたようで、紅茶のレモンに反応して色を変えたのだ。その後、社交界ではこの青から紫のグラデーション模様が流行った、とか―――あれ、これ嫌がらせになってる???


 裏庭に罠(落とし穴)を仕掛けてヒロインを落とそうとしたはいいが、その出来を見るために足を滑らせて自分が穴に落っこちた。その穴を掘った使用人に裏切られてヒロインにチクられ、なぜかヒロインに救出された、とか。


 ―――あ、あれ?悪役令嬢、仕事してなくない?!

 いやいや、悪役令嬢が仕事しないと、そもそもストーリー進まないよね?

 え、もしかして、二人のトラウマってか、人格形成した時点で悪役令嬢のお役御免ってこと?!


 遠い目をしそうになったところで、目の前で震える双子の姿が視界に入った。

 ここは伯爵邸の居間。そして今、リュミエールはちょうど双子と対面したところ。二人が言葉を発してからまだ数秒しかたっていない、はず。

 そう、私は一瞬でいろいろな記憶を回想していたのだ。

 私はゆっくりと令嬢らしく口元に笑みの形を作った。多少微笑みが引きつっていたとしても、予想外の身内登場に混乱していたとかなんとかでごまかせる、はず。


「あなたたちの姉、になるのかしら。リュミエールよ、よろしくね」


 背後で執事が息をのんだ微かな音が聞こえた。

 おいベテラン執事、動揺が出すぎ!お前本当にベテランか?!


 よくよく思い出したら、この国の王子の婚約者は公爵令嬢だったはずだし、本物の悪役令嬢役は彼女で、リュミエールはいわゆるその取り巻きの一人だった。悪役令嬢?リュミエールのやることなすこと失敗ばかり。使えない駒呼ばわりされて公爵令嬢には愛想をつかされ、断罪の場にもいなかったような気がする。ヒロインの義姉でもあり、大したことしてなかった(できなかった)ということもあり、特にお咎めもなし。その後どうなったかの記述がないくらいリュミエールは影が薄くなってフェードアウトしてったキャラだったわ。

 別に断罪で死刑や流刑、国外追放とか、怖いことなんもなさそう?!

 じゃあ、普通に令嬢生活楽しんじゃってよくない?

 特に双子に思うところはないし(ただしクソ親父は中年太りになれ、という呪詛を贈る)、普通に仲良くしてもよくなくない?

 私、前世は一人っ子だったし、かわいい妹と弟欲しかったんだぁ!!!


「シャロン、こちらへいらっしゃい」

「え?」


 怖がらせないよう、猫なで声で手を差し出したのだが、反対に警戒されてしまったようだ。シャロンはシェリルの服をギュッと握りしめる。シェリルもどうしていいかわからずオロオロしつつも、姉を守るようにその背に腕を回した。

 このままだと埒が明かないので、私は悲しげに見えるように顔を伏せ、腕をおろした。


「ごめんなさい、二人がそっくりで、どちらがどちらかわからなかったから、とりあえず一人を呼んでみたんだけど……」

「あ、あっ、す、すみません。わ、わたしがっ、シャロンで―――きゃぁっ!!」


 根が素直なシャロンがすっ飛んできた。

 よし、確保ぉぉぉぉぉ!!!

 私はギューッとシャロンを抱きしめた。


「私、一人っ子だったから、妹が欲しかったのよ。こんなかわいい妹ができてうれしいわ!やっぱり、こんなに細い……まずはたっぷりの食事ね。そして甘いお菓子。それから、私と一緒に素敵な淑女を目指しましょうね!!」

「あ、あの…あの……」


 目を白黒させているシャロンを抱えるように扉へと向かいかけ、顔だけクルリと背後に向けた。


「そうそう、シェリルにもたっぷりの食事を用意してあげて。それから、身柄は護衛騎士たちに預けて。そんな細っこい身体じゃ、いざという時、自分すら守れないわ。これからは騎士と同じ訓練をさせるように」

「お、お嬢様?!」

「別に構わないでしょ、ベリル?お父様はこの二人を連れてきただけ、後のことは私に任せるってことでしょう?」


 ベテラン執事、こと、ベリルが慌てたように声を上げたが、お父様は仕事が忙しいとほとんど領地に行ったままだし、今までも私は私のやりたいようにやらせてもらってた。よっぽどのことがない限り、使用人も口出しできない。なのでゲームの私が二人を虐待してても、誰も何もできなかったというわけ。しかし今回は別に虐待をするつもりはない。私が二人の人格形成に重要な位置にいる、らしいので、大人として二人を立派に育て上げようと思っただけだ。

 シャロンは可憐な淑女として。

 シェリルは自分を持った頼れる男として。


 そういうわけで、今後は邪道乙女ゲームからの逸脱?解放?を目指してみたいと思います!!!

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[一言] 面白かったです。 続きが読みたいです。
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