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思考実験劇場  作者: 坂本小見山
非論理的な人々
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すごい裏技

 西暦一九九三年、兵庫県。



 うだつの上がらぬロックミュージシャン・畠山は、いわゆる「裏技」に凝っていた。


「蜜柑を食べる前に揉むと甘みが増す」と聞けば、すぐに実践した。

「葱を尻に挟めば風邪が治る」と聞けば、すぐに実践した。

 最初こそその程度であったが、徐々にエスカレートし、「衣類を三回叩いてから洗濯するとより清潔になる」や、「寝る前に片足で立って合掌すると寝過ごさない」といった胡乱なものまで、聞けば鵜呑みにするようになっていった。



 ある日、彼は音楽活動がらみで、ある音響エンジニアに出会った。

「仕事は何してですか?」

「俺、主にリマスターしようねん。古い音源を整えて、音質を良うする。まあ、地味な仕事やけど、これが俺の生き甲斐なんや」

「地味言うか、無意味でんな」

「何やて?」

「そんなもん、人間がわざわざやらいでも、冷凍庫にCD入れたら、音質良うなりますぜ」

「お前なあ、リマスターにはセンスが要るんやど。俺らがどんだけ苦労しよう思うとんねん、この弩阿呆!」

 とまあ、こんな具合で、彼を遠ざけない人間は、裏技仲間をおいて無い有様であった。



 そんなある日、彼は、自作の曲に、会心のギター伴奏が付けられず、懊悩していた。

 そこに、仲の良いミュージシャンが助言をした。

「伴奏を格好ええもんにする裏技があるで」

「何、何?」

「俺も又聞きやねんけどな。一旦録音しといて、録音が終わったCDの上で、手を二回叩いて、呪文を唱えるねんて。『アジャラカモクレン・キューライス、テケレッツのパ!』ってな」

 さすがの畠山も、これは訝しんだ。

「録音してしもたら、もう内容は変わらんがな」

「せやけど、俺が教えた方法で、冷凍庫にCD入れたら、現に音質良うなったやろ」

「それとこれとはちゃうやろ。伴奏いうもんは、一から楽譜書いて、自分の意志で作らなあかんもんやで」

「それ言うんやったら、あのエンジニアのおっさんと一緒になってまうで。あのおっさんも、同じこと言うてなはったやん」


 畠山は、「それもそうか」と思い、この裏技を実践した。そして出来たCDを、彼はプレイヤーで再生した。

 聞き終えたとき、例の友人が言った。

「な。コードが変わっとうやろ?拍子も、ここ、この部分、三連符になっとうやろ?」

「言われてみたらそうかなあ。でも、コードは変わっとらんような・・・」

「何言うとんねん。お前が良う聴いとらんだけや。全部、呪文の効果なんや。何なら、もっと呪文唱えてみるか?」

 彼は、言われるままに、呪文を更に唱えた。すると、伴奏が変わったような気が、更に確かなものになったのだった。



 こうしてできたCDは、なるほど良く売れ、畠山は三流を卒業して二流の仲間入りができた。


 彼は、例の友人の家に、菓子箱を携えて赴き、礼を言った後、こう言った。

「レコード会社の人が、あの伴奏えろう褒めてくれなはってん。それで、『あれは俺の作やない、呪文の効果や』って言うてんけど、信じてくれなんだ」

「凡夫は頭固いからな」

「その人、嫌味まで言いよってんで。『呪文唱えてる間に、誰かがアレンジしてくれてですか』ってよ」


 そう言って憤慨する畠山に、友人は、勿体を付けてこう言ったのだった。

「その『誰か』こそが、全能の神パイライフ様なんや。今度、わがゲンゲンバラバラ教団の集会に顔出さんか」

後注

 蜜柑の裏技と葱の裏技は、巷説の類に過ぎず、管見の限り、事実無根のものでございます。

 その他の裏技は、すべて作者のでたらめです。

 何卒、信じませんようご注意願います。



2017/05/28起筆

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