第四の支配者
原拠:荘子外篇・山木より、いわゆる「蟷螂窺蝉」の故事
平等暦四十五年八月某日。
俺たち「解放戦隊」は、ついに党を倒した。長い道のりだった。
俺たちには若さと頭脳こそあれ、力がなかった。車もなければ銃もない。そもそも人数が少なすぎた。全校生徒合わせて四十一人の同志で政府を倒そうというのだから、正攻法ではいけない。コンピュータをハッキングし、スマート・チップのサーバーをダウンさせ、全国民を解放した。そして、その混乱に乗じて警視庁のAI戦力を全て掌握し、平等党の本丸に攻め込んだのだ。
脳内のスマート・チップが正常に機能してさえいれば、市民アカウントで比較的簡単に侵入できたものを、学校でのあの大事故がもとでチップがいかれてしまったために、プログラミングのできる頭脳を五つも突き合わせて、三年の歳月を費やさねばならなかった。もっとも、そのチップの故障のおかげで俺たちは党員に絶対服従するコマンドから解放されたので、何とも皮肉なことだが。
ともあれ、俺達は首尾よく党を倒し、今は仮政府を樹立して復興に勤しんでいるというわけだ。
激務の合間に、俺はふと気になって、党のコンピュータをいらった。
これまで、外国のサイトにはアクセスできなかった。しかし、ネットワークが掌握できたので、外国のサイトも閲覧できるようになった(もっとも、混乱を避けるために一般の国民にはまだアクセスを許可していないが)。
少しの時間と、多くの自由がある。かねがね俺の好奇心を刺激してやまなかった隠匿された情報、すなわち平等党がこの国を支配するにいたった歴史を調べてみることにした。
・・・。
昔、この国には厳しい身分制度があり、貴族が平民を虐げていたそうだ。
平民が革命を成功させて貴族をギロチンにかけたのは、今から七十六年も前のことであった。
その後、平民らは民主政治を始めたが、真の平等は来なかった。革命軍に資金提供をしてきた豪商たちが、経済力と人脈力を背景に政界に君臨し、自分たちだけが利益を得るシステムを作り上げてしまったのだ。
ここまで読んで、俺は息を呑んだ。
大人たちは、この新たな身分制に慣れようと努めた。しかし、若人らは違った。
年おうごとに蓄積されゆく若き反骨心は、やがて一つの形をとることになった。それが「平等党」だというのだ。
平等党発足メンバーらの名には見覚えがある。俺たちのナイフが掻き切った、あの干し柿のようなしわがれた雁首が脳裏に浮かんだ。
慣れようと努めていた大人たちにも、禦しがたい貧しさの苦しみと、豪商への不平不満があった。彼らは、まるで豪商へのせめてもの当てこすりのように、平等党に投票した。どうせ無駄だと思いつつも。
ところが、貧困層は富裕層よりも圧倒的に数が多い。この選挙では、ゆくりなくも人海戦術が功を奏し、平等党は与党の座を射止めたのだ。これが加齢し、あの手強かった支配者に変貌したのであった。
そして、今また、新たなる支配者が・・・
2021/04/22起筆




