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思考実験劇場  作者: 坂本小見山
私が私でなくなるとき
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僕は誰だ

 西暦二〇〇四年、東京。


 僕は、喧しい目覚まし時計の音に起こされた。

 その音が、いつもの時計の音と違っていることなど、ありえないことであるし、もしも違っていると思うなら、その認識が誤りであるはずであった。


 辺りを見渡す。胸の奥から違和感が湧出したが、それは脳内で像を結ぶ前に無意識に掻き消された。この朝がいつもと違うことなど、あるはずがないのだから。


 もっとも、この部屋は僕にとってまったく知らない部屋ではなかった。だから、その知識に従って、ドアを開け、階段を降り、食卓に就いた。

「お早う、芳樹(よしき)

 そう言って朝食を運んできたのは、親しいクラスメイトの中島芳樹の母親だった。

「お早うございます、おばさん」

 その言葉は、殆ど咄嗟に出た。

 中島の母親は、一瞬怪訝そうな顔になったが、すぐに微笑んで、ジョークとして受け流す態度を取った。


 そこへきて、漸く僕は不安を感じた。僕は、朝食に手を付けずに洗面所に向かった。何度か遊びに来たので、間取りは把握していた。

 鏡に映った僕の顔は、中島のものであったのだ。


 僕はパニックに陥り、先程のダイニング・キッチンに飛んで行き、中島の母に言った。

「僕、芳樹君じゃないんです。僕は彼の友達の、美濃正平(みのしょうへい)なんです」

「あなた、寝ぼけているのよ。朝御飯を食べたら、目が覚めるわ」


 その後、いくらか問答を重ねたが、無駄だと解り、僕は急く気持ちを抑えながら、朝食を手早く済ませ、早めに家を出、僕の本当の家に向かった。

 これは恐らく、陳腐なサイエンス・フィクションに有り勝ちな、「意識の入れ替わり」にちがいない。さすれば、僕の本当の家では、僕の姿をした中島が、狼狽しているはずだ。彼に会えば、解決の糸口が掴めるかもしれない。そう思った。


 僕が自宅に辿り着いたとき、丁度、制服に身を包んだ、僕の顔をした男・・・つまり中島が、玄関から出てきた。

 その落ち着き払った様子を見て、僕の中に、ある懸念が生まれた。目の前にいるこの男は、狼狽していなければならないのだ。


 そして、その懸念は的中してしまった。目の前の男は、僕に向かって言ったのだった。

「よう、中島。どうしたんだ?血相なんか変えて」


 ・・・では、この僕は一体、だれなんだ?

2017/03/24起筆

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