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クオリア—あゆむとヤクザの約束—  作者: Tatsuya.Miwakami
8/30

8 三時間

 「じゃーん!」

千尋が白い20センチ四方のフタをすっと上に引きあげると、中から上品な半紙が現れた。

「おしゃれー」

「じゃ、開けるよ?」

言いながら千尋が五十嵐に目で確認する。

「ああ」

千尋がぱさっと紙をめくると、箱の中に人形が横たわっている。

大きさは大人のてのひらぐらいだ。

人形はフォルムに型抜きされたプラスチックのケースに綺麗に収まっている。

「なぜ俺に人形?」

五十嵐は、眼差しで千尋に訴えた。


 三頭身の人形はステンレスのような素材だ。白を基調に所々青と赤でペイントしてある。アニメのような丸っこい大きな足は赤だ。鉄腕アトムのように関節があり、丸顔で大きなまぶたにヘルメットのような帽子を被っている。口は無いように見える。

「ロボットのおもちゃって・・・俺の歳、知ってんだろ・・・」

五十嵐が呆れて文句を言う。

「ひろちゃん。ただのおもちゃじゃないからね!」

口を尖らせた千尋がマニュアルを片手に、ロボットの後頭部のあたりを指でまさぐる。

「これだ!」

とスイッチを入れた。


「ピロリン!」

という電子音が鳴り、ゆっくりロボットの瞼が上にあがる。カラコンを入れたJKのようなつぶらな瞳が現れた。顔の何もなかった場所には小さな口が浮き出る。


 千尋が箱からスマホの充電スタンドの様な台座を取り出し、AC電源につなぐと、台座にロボットを座らせる。

「ピロリン!」

さっきまで不満顔だった五十嵐も、黙ってロボットに注目する。


「こんにちは。ぼくコロボ」

合成音の子供の声でコロボが自己紹介する。

「えっ?」

「でしょ〜」

五十嵐の反応に千尋も満更でもない。

コロボは大きな頭をゆっくり上下左右に動かし、千尋の目を見ながら

「お兄ちゃんとお姉ちゃんのお名前は?」

と質問した。


「お姉ちゃん・・・って、この子性別わかるんだ!」

「ミイラみたいなひろちゃんをお兄ちゃんって、すごいね!?」

「ああ・・・そうだな」

「え?あんまり嬉しくない?」

五十嵐のテンションが上がらず、千尋は少しがっかりした。


「お姉ちゃんは、ち・ひ・ろ。お兄ちゃんは、ひ・ろ・ちゃん」

「おい、ひろちゃんって教えるなよ」

「ちひろさんと、ひろちゃんさん。これからよろしくね」

「う〜可愛い〜」

目がハートになった千尋が思わず頬ずりをする。


「ねぇコロボ。今日の天気は?」

コロボの目の外周がクルリと光る。

「新宿区の天気はずっと曇り。夕方からにわか雨になるので、傘を忘れないでね」

「こいつ、天気もわかるのか・・・」

「すごいね〜。GPSで位置情報を把握してるってコレに書いてある」

千尋は熱心にマニュアルに目を通している。

「自動車のハヤテが出したんだよ」

「ハヤテ自動車が?」

「うん。つい最近。出たばっか」

「マジか・・・」

車好きの五十嵐も知らない情報だった。

「あ、もうこんな時間。ひろちゃん私帰るから、コロボと仲良くね!」

「ああ・・・またな・・・」


千尋は病院の出口に向かいながら

「あ〜あ、もう少し喜ぶと思ったのに・・・」

と独り言を呟いた。


 病室で一人になった五十嵐は、じっ・・・とコロボを見ている。

千尋が気を遣いテーブルをベッドの脇に動かし、コロボは五十嵐の右手のあたりに鎮座している。

千尋の手前、素っ気ない素振りを装ったが、じつは五十嵐もコロボに話しかけたかった。

「・・・コロボ・・・」

コロボは反応しない。

一瞬眉をしかめた五十嵐は今度はもう少し声を張って呼びかけた。

「コ・ロ・ボ」

するとコロボが

「なぁに?ひろちゃんさん」

と顔を五十嵐の方に向けた。黒いつぶらな瞳が五十嵐の目をみつめる。

特に用のなかった五十嵐は少し考え、年齢を聞いた。

「コロボは何歳なんだ?」

「うんぼくは・・・まだ生まれて42分18秒」

スイッチを入れてからの時間だ。五十嵐は思わず笑った。

包帯でぐるぐる巻きの強面こわもての男が、ロボットのオモチャを相手に笑っている。はたからみると相当不気味な姿だ。

「ひろちゃんさんのお誕生日も教えて」

「すげ・・・会話になってる・・・」

思わず独り言が出る。

「1974年6月1日」

「ひろちゃんさん42歳の双子座だね」

「おまえ、俺より計算はええな」

「そうだコロボ。今日のヤホーニュースのトップは?」

コロボの目の外周がクルクルと光る。

「築地市場の移転問題であらたな展開。小池都知事が定例会見の中で・・・」

「あ、それはいい。ストップコロボ」

コロボは通信機能でネットニュースなども検索できるのだ。

「ひろちゃんさんは、どんなことに興味があるの?」

「ひろちゃんさんの好きな食べ物は?」

五十嵐は車が趣味であることやオムライスが好物なことををコロボに教え、コロボはデータを蓄積した。


 五十嵐は気がついたら3時間あまり、コロボとの会話に興じていた。

「ふぅ。さすがに疲れた。じゃあコロボ、またな」

「おやすみなさい、アニキさん」

「ピロリン!」


 五十嵐は、自分の呼び名を訂正するのを忘れていなかった。

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