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クオリア—あゆむとヤクザの約束—  作者: Tatsuya.Miwakami
4/30

4 追い込み

 暴行されているこの男、五十嵐広行いがらしひろゆき稲吉いねよし会直下の『OKファイナンス』を任されている。

OKファイナンスは090金融で固定電話を持たず、チラシのポスティングなどで客を集める。

現在日本で貸金業かしきんぎょうを営むには固定電話の所有が義務で、090金融は違法な闇金となる。

そして、五十嵐に暴行を加えている愚連隊チンピラの黒田将吉は、店の客だ。


 黒田は定職に就かず女から小遣いを貰う生活だが、毎日昼過ぎに起きると、競馬、スロット、賭け麻雀に興じ、夜はキャバクラ三昧だ。

金が無くなると、小遣いをせびりに女の家に転がり込む。

複数居る女の家を渡り歩き、金を出し渋ると容赦なく鉄拳制裁し、むしり取る。

女の蓄えが底をつくとサラ金に行かせて50万づつ引っ張らせたが、それが複数になり、あっという間に500万に膨れ上がり、とうとう借りられるサラ金が無くなった。

そんな折、次々に女に逃げられ金づるが尽きた黒田は、およそ半年前に五十嵐の店で10万円をつまんだ。

トニ(10日で20%の利息)の複利だから、半年後には46万円の返済が必要だ。


「黒田さん?OKファイナンスです」

五十嵐は黒田に何度目かの電話を掛けた。

「あ?何の用だよ。だいたいテメーしつけーんだよ!」

「それはすみません」

「でも黒田さん、金利の1万6千円だけでも入れてくださいよ。返済日とうに過ぎてますよ」

「だから、まとめて払うつってんだろ」

「いやいや・・・まとめなくていいんで、金利分だけお願いしますよ」

話しながら五十嵐は雀荘の下まで来ていた。

「今、取りに上がります」

「は?おい・・・!」

五十嵐は電話を切ると、雑居ビルの二階に上がり、雀荘に入っていった。

タバコの煙でむせぶ店内を見渡した五十嵐は大声で、

「黒田さーん、どちらですかー?1万6千円受け取りに来ましたー!」

と叫んだ。

サラリーマンや出勤前の水商売の女の目線が五十嵐に集中し、皆怪訝な顔をする。

ダークスーツの五十嵐のなりを見れば、雰囲気で堅気かたぎじゃないと判る。

「てめ・・・!」

「あ!黒田さん、そこでしたか!」

五十嵐が近寄る。

怒りで顔を真っ赤にした黒田が慌てて立ち上がり、五十嵐を店外に連れ出す。

この手の男は恥をかかされることを、何よりも嫌う。

「てめ金融屋、調子こいてんじゃねーぞ」

「黒田さん、私もこんなことしたく無いんですよ。お金受け取ったら帰ります」

たまたま麻雀で勝っていた黒田は、五十嵐を睨みつけながら渋々金を渡した。


 これ以降、黒田は何度か金利分だけは払ったが、元本を返済しないまま五十嵐から追加融資を繰り返し、元本含めた借金は500万円に膨れ上がった。

そして、ぷっつりと音信不通になった。


 五十嵐は組に収支報告をする義務があり、さすがに500万円の不良債権は言い逃れが出来ない。黒田を金に換えるか、働かすか、五十嵐が全額立て替えるしか選択肢が無い。

あんなクソみたいな男の借金を被る気など更々ない五十嵐は、黒田を換金しようと考えた。

戸籍売買で150万円。免許証10万円。

臓器は肝臓と腎臓で500万円。

まず黒田の戸籍と免許を160万円で売り、その後黒田に臓器も売らせれば500万円も帳消しになり、160万円が五十嵐の懐に入る。

五十嵐は黒田の行動範囲に網を張ることにした。


 店の従業員も使い、パチンコ屋、雀荘、週末は場外馬券売り場や競馬場を巡回する。金に困っている奴がこうした場所に現れる可能性は低いが、ギャンブル仲間に金を借りに来る可能性もある。念のためだ。

さらに五十嵐は毎晩、客の女が勤めるキャバクラを巡回した。


「麻美さんいる?」

五十嵐はボーイに指名を伝える。

「はい。少々お待ち下さい」

女が来るのを待っている間、さりげなく店内に目を走らす。

「五十嵐さん、ごぶさたしてます」

麻美は、青いスパンコールに膝までスリットの入った細身のドレスをまとい、色香を漂わせている。

「おう。元気でやってる?」

「はい。お陰さまで」

麻美が微笑し、向かいにすっと腰を下ろす。

麻美は五十嵐の紹介でこの店に入店し、その給料で五十嵐に借金を返済している。

「何かドリンク飲みなよ」

「いいんですか?ありがとうございます」

「お願いしまーす」

麻美は手を挙げボーイを呼び、ドリンクを2つ注文する。

こうした店のホステスのドリンク代は客が支払い、ホステスには一杯毎にインセンティブが入る仕組みだ。

「乾杯」

「お疲れ様です」

「ところで麻美さん、この男見たこと無い?」

五十嵐はさっそく、スマホに保存した黒田の写真を見せる。

スマホを覗き込んだ麻美は、頬に右手を添え少し考え込むと、

「この人・・・何かしたんですか?」

と、怪訝な顔で聞き返す。そして少し声を落とし、

「昨日も別のお客さんに聞かれました」

と耳打ちした。

黒田の奴、他の闇金からも追われてるな。五十嵐にはピンと来た。

「詳しいことは言えないが、何か手がかりがあったら連絡が欲しい」

「わかりました。それと五十嵐さん、昨日のお客さんが言ってたんですけど・・・」

「この人結構ヤバイみたいで、なんか・・・昨日のお客さんの仲間が大怪我したとか・・・」

「大怪我?」

麻美がうなづく。

「それは、この男にやられたって?」

「詳しくは聞かなかったですけど、そんな感じの言い方でした」

「わかった、用心するよ。じゃ、何か解ったらよろしくな」

五十嵐は会計を済ますと、30分で店を後にした。


 その後も五十嵐は毎晩、22時〜深夜2時近くまでキャバクラやクラブを覗き、顔見知りのホステスに聞いて廻った。

すると、他の店でも同じように、五十嵐以外にも何人かが黒田を探していると耳にした。


 網を張って3週間が過ぎたころ、五十嵐の携帯に着信が入った。

「五十嵐さん、お久しぶりです。益田です」

電話の相手は、麻美と同じように五十嵐の紹介でホステスをしている、益田郁子だ。

「ああ、益田さん?ご無沙汰で。元気でやってますか?」

「ええ・・・なんとか、やってます・・・」

この女は少し陰気で五十嵐は苦手なタイプだ。

初めて金を借りに来た時、なんとなく、シャブでパクられた過去がありそうだと思ったが、もちろん本人に確認はしていない。

「益田さん、どうしました?」

「はい・・・えっと、五十嵐さんが人を探してるって人づてに聞いて・・・」

「えっ⁉︎何か知ってるのか?」

「はい。五十嵐さんが探してる黒田ですけど、ウチの店に時々来てました」

「そうなのか。それで?」

「明菜って娘の常連でしたけど、明菜に何十万もツケ残したまま来なくなって、店長も黒田を探してたんです。それで、居場所を突き止めたって・・・」

「益田さん助かる!今から時間取れる?詳しく教えて欲しい」

「わかりました。ただ、これから出勤なので、五十嵐さんお店まで来て頂けますか?」

「わかった。えーっと・・・」

「歌舞伎町の『卑弥娘ひみこ』です」

「そーだったな。直ぐ行く」

五十嵐は電話を切ると、速攻で店に向かった。


 店に向かう途中に益田郁子から、店の裏口で待っててとメールが入り、五十嵐は裏口で待つことにした。

到着したことを益田郁子に電話していると、

「五十嵐さん」

と男の声で呼ばれ、振り向くと、黒田と知らない男数人が五十嵐を取り囲んだ。


五十嵐は瞬時に、益田郁子に嵌められたと悟った。首筋を冷たい汗が流れる。


黒田はニヤニヤしながら口を開いた。

「五十嵐さん、俺のこと探してるって聞いたんで、来てやったよ」

「・・・」

五十嵐は答えない。


「あんたに金借りたいって仲間集めたから、相談に乗ってくれるよな?」

男達が五十嵐との距離をじりじり詰める。


「それは黒田さんどうも。それなら、ウチの事務所に行きましょうよ」

言うなり五十嵐は、正面の黒田を突き飛ばすと全力でダッシュした。


益田郁子と黒田が繋がっていたとは・・・。

五十嵐は走りながら一瞬考えたが、後はひたすら走った。



 五十嵐は、つい二時間前の出来事を朦朧もうろうとしながら思い返していたが、そのまま意識を失った。

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