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歩の主治医の伊達は目を疑った。
さっきまで活発な波形を描いていた歩の脳波計が、ピタリと静まったからだ。
伊達は、あり得ないといった顔で脳波計のモニターを凝視する。
南美も真も、伊達の異変に気付く。
「先生・・・」
「突然・・・いつもの脳波に、戻りました・・・」
伊達は、腑に落ちない面持ちで首をひねる。
南美が再び歩に顔を寄せ呼びかける。
「あゆむ、あゆむ・・・」
コロボが黒田のボウガンで撃ち抜かれた時、歩は一瞬にして意識の世界に引き戻された。そこは深く暗い漆黒の闇に覆われ、深海のように光を一切通さない世界だ。
歩は意識を戻すまで、この深海のような意識の底を漂っていた。
コロボに意識を移していた歩は突然寸断され、交通事故の時のように出口のない意識の底に、再び落ちてしまったのだ。
もはや今の歩には、南美の声も真の声も届いていなかった。




