15 事故
「ひろちゃん。あゆむ君って、どうやってコロボで話してるのかな?」
五十嵐の病室で、千尋が花瓶の花を替えながら、何気なく尋ねる。
歩は千尋の妊娠発表以降も時々現れ、千尋ともすっかり仲良くなっていた。
「だって、考えたら不思議でしょ」
「たしかにな・・・」
「コロボが電話だとしたら、あゆむ君はどこかからコロボに電話して話してるとか・・・」
「なるほどな。ただ、コロボに電話機能はついてないだろ?」
「う〜ん、そうだよねぇ・・・」
コロボをスマホとペアリングすると、音声操作でスマホの電話帳の検索が出来る。しかし、通話自体はスマホで行うため、コロボに通話機能は付いていない。
千尋は、ずっと気になっていたことを聞いた。
「ねぇ・・・あゆむ君て、重い病気なの?」
「ああ、俺も詳しくはわからないが、入院して2年らしい」
「2年も・・・可哀想に・・・」
「4歳の時からだよな」
「長いね・・・何があったのかな・・・」
「ああ・・・俺もそこまでは聞いてない。本人も当時のことは詳しく覚えてないようだしな・・・」
「そうよね・・・」
五十嵐も気にはなっていたが、その話題は敢えて避けて接してきた。
「あゆむ本人が自ら話してきたら聴いてやろう」
「うん!わかった」
「そうだ。お前に頼みがある」
「え、何?」
「あゆむの見舞いに行ってくれないか」
「えっ?行く行く!」
「ただ、どこの病院か判らない。判ってるのは両親の名前と、調布市に住んでることだ」
「・・・情報、それだけ?」
五十嵐が頷く。
「前にあゆむに病院の名前聞いたんだが、わからないって」
「そっかぁ。だって4歳で入院して、まだ6歳だしね・・・」
「でも、2年も入院できる設備の病院ってなると、大きい病院よね。大学病院とか大きいところ」
「わかった。調べてみるね」
千尋が手をポンと打つ。
「悪い。頼む」
「でも、もし探し出して私がお見舞い行ったら、びっくりするだろうねぇ〜。あゆむ君に会ってみたい!」
千尋は目を輝かせた。
「ひろちゃんも一緒に行けたらいいね」
「ああ、もちろん」
五十嵐は順調に回復していたが、それでもあと2ヶ月は入院が必要だった。
「じゃあひろちゃんまたね。何かわかったらすぐ来るね」
「ああ、頼む」
翌日千尋は自宅で、調布市周辺の病院を調べていた。
「ふ〜ん。病床数が200以上が大規模病院で、200未満が中小規模。なるほど」
ネットで病院の床数ランキングなどを検索し、ピックアップを続けた。
「ふぅ・・・ちょっと疲れた・・・」
「そう言えば・・・」
病院の調査に少し飽きた千尋は、あゆむの事故について軽い気持ちで調べてみた。
「2年前だから・・・」
一人でぶつぶつ言いながら、名前、当時のあゆむの年齢、地域、交通事故などのキーワードを組み合わせ検索した。
多数の結果が表示されたが、その中の一つに目が止まった。
それは、新聞記事検索サービスというサイトの記事で、
『4歳児 自動車事故で重体』という見出しだ。
「え・・・⁈二年前・・・」
千尋は見出しをクリックした。
『4歳児 自動車事故で重体』
11/06 21:36 東都新聞
6日18時ごろ、東京都調布市の路上で、同市仙河町の佐藤歩ちゃん(4)が乗用車にはねられて、近くの病院に緊急搬送された。警察は逃走した乗用車の行方を捜している。
「えっ・・・」
千尋は記事を凝視したまま呆然とした。
「轢き逃げ・・・?」
まだ、この事故があゆむの事とは断定出来ないが、千尋の胸がざわざわした。
千尋は関連記事の検索を続けたが、事故当時の物と思われるツイートは何件か引っかかるも、詳しい情報は得られない。
「直接行くしかないか・・・」
千尋は一人呟いた。




