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クオリア—あゆむとヤクザの約束—  作者: Tatsuya.Miwakami
15/30

15 事故

「ひろちゃん。あゆむ君って、どうやってコロボで話してるのかな?」

五十嵐の病室で、千尋が花瓶の花を替えながら、何気なく尋ねる。

歩は千尋の妊娠発表以降も時々現れ、千尋ともすっかり仲良くなっていた。

「だって、考えたら不思議でしょ」

「たしかにな・・・」

「コロボが電話だとしたら、あゆむ君はどこかからコロボに電話して話してるとか・・・」

「なるほどな。ただ、コロボに電話機能はついてないだろ?」

「う〜ん、そうだよねぇ・・・」

コロボをスマホとペアリングすると、音声操作でスマホの電話帳の検索が出来る。しかし、通話自体はスマホで行うため、コロボに通話機能は付いていない。


 千尋は、ずっと気になっていたことを聞いた。

「ねぇ・・・あゆむ君て、重い病気なの?」

「ああ、俺も詳しくはわからないが、入院して2年らしい」

「2年も・・・可哀想に・・・」

「4歳の時からだよな」

「長いね・・・何があったのかな・・・」

「ああ・・・俺もそこまでは聞いてない。本人も当時のことは詳しく覚えてないようだしな・・・」

「そうよね・・・」

五十嵐も気にはなっていたが、その話題は敢えて避けて接してきた。

「あゆむ本人が自ら話してきたら聴いてやろう」

「うん!わかった」

「そうだ。お前に頼みがある」

「え、何?」

「あゆむの見舞いに行ってくれないか」

「えっ?行く行く!」

「ただ、どこの病院か判らない。判ってるのは両親の名前と、調布市に住んでることだ」

「・・・情報、それだけ?」

五十嵐が頷く。

「前にあゆむに病院の名前聞いたんだが、わからないって」

「そっかぁ。だって4歳で入院して、まだ6歳だしね・・・」

「でも、2年も入院できる設備の病院ってなると、大きい病院よね。大学病院とか大きいところ」

「わかった。調べてみるね」

千尋が手をポンと打つ。

「悪い。頼む」

「でも、もし探し出して私がお見舞い行ったら、びっくりするだろうねぇ〜。あゆむ君に会ってみたい!」

千尋は目を輝かせた。

「ひろちゃんも一緒に行けたらいいね」

「ああ、もちろん」

五十嵐は順調に回復していたが、それでもあと2ヶ月は入院が必要だった。

「じゃあひろちゃんまたね。何かわかったらすぐ来るね」

「ああ、頼む」


翌日千尋は自宅で、調布市周辺の病院を調べていた。

「ふ〜ん。病床数が200以上が大規模病院で、200未満が中小規模。なるほど」

ネットで病院の床数ランキングなどを検索し、ピックアップを続けた。

「ふぅ・・・ちょっと疲れた・・・」

「そう言えば・・・」

病院の調査に少し飽きた千尋は、あゆむの事故について軽い気持ちで調べてみた。

「2年前だから・・・」

一人でぶつぶつ言いながら、名前、当時のあゆむの年齢、地域、交通事故などのキーワードを組み合わせ検索した。

多数の結果が表示されたが、その中の一つに目が止まった。

それは、新聞記事検索サービスというサイトの記事で、

『4歳児 自動車事故で重体』という見出しだ。

「え・・・⁈二年前・・・」

千尋は見出しをクリックした。


『4歳児 自動車事故で重体』

11/06 21:36 東都新聞

 6日18時ごろ、東京都調布市の路上で、同市仙河町の佐藤歩ちゃん(4)が乗用車にはねられて、近くの病院に緊急搬送された。警察は逃走した乗用車の行方を捜している。


「えっ・・・」

千尋は記事を凝視したまま呆然とした。

「轢き逃げ・・・?」

まだ、この事故があゆむの事とは断定出来ないが、千尋の胸がざわざわした。

千尋は関連記事の検索を続けたが、事故当時の物と思われるツイートは何件か引っかかるも、詳しい情報は得られない。

「直接行くしかないか・・・」

千尋は一人呟いた。

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