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クオリア—あゆむとヤクザの約束—  作者: Tatsuya.Miwakami
14/30

14 兵糧を断つ

 西麻布のバーには黒田を筆頭に、全員が集結していた。

恐れ知らずの連中が、暴力団の非道さに震え上がっている。

「黒田さん・・・これ以上はマジやばい気が・・・」

「この写真は・・・俺らへの、警告スよね・・・」

「奴ら、俺らが動けないよう本気で手ぇ廻してますよ」

黙って聴いていた黒田が、ぼそりと呟く。

兵糧ひょうろうを断ちやがった・・・」

愚連隊は益田郁子と黒田以外にもエリアを分担し、神田、上野、川崎など、闇金をローラーしていたが、どこも口裏を合わせたように門を閉ざしていた。系列の違う業者が揃って同じ対応をする背後に、稲吉会の影がチラつく。

遊ぶ金を闇金の借金で賄っていた愚連隊は、打ち出の小槌を失った。


「仲間バラされて泣き寝入りってわけには行かねぇな」

「でも黒田、相手が悪すぎねぇか・・・」

同格の西垣がたしなめる。

「なら西垣、どーすんだ?」

「いや・・・」

「俺も含め、まともな職にもついてねぇし、明日からホームレスか?」

「襲撃してた俺らが、される側になんだぞ・・・」

この連中は酒の勢いを借り、何人ものホームレスを病院送りにしてきた。被害者には車椅子生活を余儀なくされた者や、中には死亡した者もいる。

水を打ったように店内は静まりかえった。

レトロな柱時計が時を刻む音だけが店内に沁み入る。

黒田が口火を切った。

「もう、飛松組に面倒みてもらうしかねぇな」

「飛松組に?」

驚いた西垣が黒田を見る。

「ああ。若松さんに俺らの力を認めてもらい、暖簾分けを頼む」

「飛松組の傘下に入るってことか」

「そうだ。俺らもいつまでも根無し草ってわけにはいかねぇだろ」

「そりゃそうだが・・・そんな簡単に行くか?」

「西垣、この店だって、若松さんが自由に使わせてくれてんだろ」

若松は黒田達に店を任せていた。この店は覚せい剤取引の場所としても使うため、愚連隊が交代で番を務めてくれるのは、若松にとっても好都合だ。

「だから、俺らは事実上、若松さんの舎弟みたいなもんよ」

「でも黒田、どうやって認めてもらうんだ?」

「・・・俺に考えがある」

黒田が不敵な笑みを浮かべた。


 国道沿いに停車した黒塗りのセダンから、バーを監視している男達がいた。

セダンのガラスはスモークで覆われ、中を窺い知ることはできない。

後部座席の若松は薄いブルーのサングラスの奥の目を閉じ、腕組みをしたまま微動だにしない。鍛え上げた肉体が品のあるスーツを吸い付くようにまとっている。

「若頭、奴ら出てこないです」

助手席の男が若松に告げる。

「後は自分たちに任せてください」

「わかった。目ぇ離すなよ」

「はい」

セダンの車内にドスの効いた声が静かに響く。

「じゃ若頭、自分らは車変えて見張り続けますんで」

「小林、若頭をお送りしろ」

「お前達、あと頼んだぞ」

「ウス!」

厳つい男二人が車を降り、直角に腰を曲げたまま若松の乗ったセダンを見送る。


 運転席の小林は若松の威圧感に耐え切れず口を開いた。

「あ、あの若頭、質問よろしいですか?」

緊張の面持ちで尋ねる。

「・・・なんだ?」

バックミラーの若松はスモークガラス越しに、流れる街並みを眺めている。

「いや・・・あの連中、若頭が目ぇかけてますよね」

「ああ、店任せてるが・・・」

「いや・・・いよいよの時は、若頭が助け舟をだすのかなと・・・」

「・・・まぁ、そうせざるを得ないな・・・」

若松は景色を眺めたまま、ぼそりと答える。

小林は若松から、冷やりとしたオーラを感じた。

「し、失礼しました。すみません!」

小林の脇の下は汗でびっしょりと湿っていた。

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