7殺目 召喚2日目
ガッちゃんが召喚された日の翌日、つまり2日目になった。
結局町から出発できずに死んでしまったので、寝床として城の一室を貸してもらった。自分がいつも寝ている布団よりもフカフカだったので、ガッちゃんは大満足であった。やはり目を瞑るのは寝るときだけでありたい。死んで目を閉じるのはもう勘弁だ。
ぶっちゃけその願いは叶うことは無いのであるが、とりあえずは朝を迎えることとなった。身支度を済ませ、ガッちゃんは王座の間へと向かう。途中、何人かの兵士が青い顔でガタガタ言っていたが気にしない。おそらくアイツに未だ恐怖している犠牲者であろう。
そして、目的地に辿り着くと王様姫様の前には、既に仲間予定の女性・・・と何故か酒場の親父がいた。
「よく眠れましたかな?勇者殿」
「お早う御座います、勇者様」
「あら、おはよう。私達も今着いた所よ」
「お”はよ”う”」
それぞれのおはようコールの後に、図太い声が混じる。
「皆さんおはようございます。何でおじさんもいるんですか?」
「あ”ら”、酷い”わ”ね”ぇ”。私はあ”な”たに”用事があ”る”から”来たの”よ”」
「用事?」
体をくねらせる親父。金色の股間ガードが眩しいが、何か嫌な予感がする。ガッちゃんは足元から背中にかけて、虫が這って来るようにゾワッとした。
「そうよ。単刀直入に”言う”けど、私はあ”な”たに”付い”てい”くことに”決め”たから”。」
「何で突然!?」
何で親父が付いてくるのか?確かに腕っぷしは良さそうだが、見た目がキツい。毎日見てるとSAN値がゴリゴリ削れて発狂しそうだ。
「だってアイツらにお店メチャクチャにされて、お金が必要なのよ!だけど魔王を倒せばお金を出してあげるってそこの王様から言われたの。だから店を直すついでに魔王もぶちのめして一石二鳥よ!」
「は、はあ・・・」
「あと、店潰した奴等はマジ許さん。今度は私が、生き返らない位ドロドロに溶かして殺るわ」
「ひぃ!!」
声が聞き取りやすくなっている所に、親父の本気を感じたガッちゃんは短く叫んだ。ちょっとチビったのは内緒である。
確かに、町から離れればアイツと遭う格率は減るだろうが、絶対に無いとは限らない。親父はそれを見据えて旅に参加するのだろう。おそらく魔王よりこっちメインである。
「私の”店の”店員達は知り”合い”の”お”店に”暫く奉公する”わ”。後生の”憂い”はナ”ッシン”グよ”!」
「そ、それではよろしくお願いします・・・」
「よ”ろ”しく!私の”ことはマ”マ”と呼ん”でくれ”て良い”わ”よ”!本名はバブルスだけど」
「では、バブルスさんと呼びますね」
「あ”ら”ぁ」
威圧されて仲間にしてしまったガッちゃん。しなけりゃしないで色々面倒くさくなりそうなので、正しい選択だっただろう。良いのか悪いのかは別であるが。
そして親父改めバブルスの戯れ事を適当に流して、ガッちゃんは女性の方を向く。
「話すのが遅れてしまいすみません」
「うふふ、良いわよ。見てて楽しかったし」
謝るガッちゃんに大人の対応な女性。見た目まだ20ぐらいなのに、ちゃんとしているのは凄いと思う。ガッちゃんはそんな小学生並の感想を心で言って感心したがら、言いにくいことを口にする。
「その・・・あなたの弟さんが残念なことになってしまいましたが、えっと、その・・・」
「・・・そんなに気を使わなくても良いわよ。あなたの仲間になってあげる。約束したもの」
「でも、仲間の条件が弟さんの捜索だったじゃないですか」
「確かにそうだけど、弟がどうなったか分かったからそれはもういいわよ。まあ、・・・1番の理由はバブルスさんと同じで復讐だけどね」
「・・・・・」
復讐。その言葉を口にした女性は、顔を険しくさせながら言葉を続けた。その表情を見たガッちゃんは、かける声も分からずに黙る。それを察した女性は、すぐに表情を先程のように柔らかな笑顔に戻して、
「あら、変な顔してごめんなさいね。とにかく、あなたの仲間として付いていくわよ。よろしくね。」
「はい!よろしくお願いします!えーと・・・あなたの名前は」
「アンよ。短くて覚えやすいでしょ?」
「分かりました!アンさんですね。では、今度は私の名前を・・・」
こうして、ガッちゃん達は自己紹介を済ませていく。そして一通り終わったとき、やっと王様が話し出した。
「うむ。お互いの挨拶は終わったようですな。では勇者殿とその仲間達よ!できるだけ魔王に見つからぬよう、奴等の本拠地を目指すのだ!」
「はい!あっそれと、今更なのですが最初はどちらへ向かった方が良いのでしょうか」
「それなら、北西の町のマズハが良いですぞ。暫くはそこでレベル上げをするのもありですな」
「親切にありがとうございます。よし!皆さん行きましょう!」
「「おー!!(お”ー!!)」」
勇者一行の旅立ちが、再び始まる。アイツの隣の女の子に違和感を覚えながら・・・
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「おじさーんっ!ちぶく・・・じゃなくってこの町周辺の地図くだっさーい!」
「お!元気が良いねぇ嬢ちゃん!それなら1200円だ!」
のどかな城下町の朝、地図を売っている本屋にて女の子―――イルニスが店主と話をしている。彼女とウ~ちゃんは誰もいなくなったアジトに戻り、一夜を明かした。ちなみに、現在彼女は血でガビガビのガウンを羽織っていない。イルニスは今後の目的地を決めるために地図を購入しようとしているのだ。イルニスはこの世界出身であるが、生前の記憶は名前と会話能力以外にほとんどなく、しかもどこかの洞窟から宝箱でわっしょいされてここにいるので、土地勘が全く無い。そういう訳で、地図はこの先必須なのである。
すると、店主は店の奥から新聞紙1面ほどの地図を持ってきた。これが城下町周辺の地図らしく、城を中心として、山や川、町や村が描かれている。
「なるほっど。ここが城下町ファストなんでっすね」
「何だい嬢ちゃん。ここが何処だか知らなかったわけじゃないよな?」
「何でもないでっす。ただの確認でっす」
無知を晒すのを控えたイルニス。昨日の件もあるので、できるだけ普通を装って、スマートに町を出たいと考えていた。そのため、顔がまだ知られていないイルニスだけがここに来ており、ここまで会話に入ってこないウ~ちゃんはアジトでお留守番である。
「はっい!おじさんお金でっす!」
「まいど!またな嬢ちゃん!」
元気よく店主にお金を渡し、地図を手に入れたイルニスはルンルン気分でアジトへ戻る。足取りは軽やかで、生き生きとしている。もう死んでいるが。
そして、路地裏へ入り、貧民街で一番怪しい建物(今は壺のせいでボロボロ)に戻って来たイルニスはウ~ちゃんを呼んだ。
「ウ~さっん!地図買ってきましたっよー!」
「う~」
未だ大量に置いてある壺を割っていたウ~ちゃんは、イルニスに呼ばれて彼女の下へ行く。それにしても、この建物の壺の多さは何なのか?ちなみにウ~ちゃんは、そんなもんだと割り切っている。
「じゃじゃーっん!さてさって、どこ行きっますか?」
「う~う~」
イルニスはこれ見よがしに地図を床に広げて、ウ~ちゃんにも見えるようにする。ウ~ちゃんは仮面の下で眉に皺を寄らせながらそれを見て、周辺の地形を踏まえて考える。旅の計画を立てることは冒険の醍醐味でもあるので、そりゃもう2人はウキウキワクワクである。
そんな中、ウ~ちゃんはあるルートを提案する。
「う!」
「把握。確かにこのルートはいい感じに面白くなりそうでっすね!」
ウ~ちゃんが示したのは、南西の山道と途中の村を経由して、港町ナギにいくというものだ。何故なら、港町で船に乗れば隣の大陸に渡れるらしく、そこにはここよりも大きな城下町があると描いてあったからである。その城下町より先は紙の端となっており描かれていない。そこでまた新しい地図を買えば、また新しい気分で旅が出来るという訳だ。
イルニスもウ~ちゃんの提案に笑顔を持って肯定し、当分の旅の目的地は決まった。そして、2人は立ち上がってアジトを出た。大通りに出ると出勤ラッシュの町民たちはやはり、ウ~ちゃんの姿を見るなり近くの建物に逃げ込んでいく。その姿はどこか滑稽であったが、町民たちは殺人鬼から逃れようと必死そのものであった。
まあ、そんなこんなで内容の濃い2日を過ごしたウ~ちゃんとイルニスは、町の入口にいた門番を適当に壁の染みに変えて、ガッちゃん達より少し早く町を発ったのであった。