6殺目 反省会
「おお、死んでしまうとは情けない!」
「畜生・・・」
再び城内の教会。1回目と同様に、ガッちゃんは俯きながら神父の説教を聞いていた。初日で2回死んでしまった自分に対して、ただ悪態をつくことしかできなかった。
神父達はまた、彼らを生き返らせてくれたようだ。どうやってガッちゃんの死に気づくのかは不明であるが。
―――ビシィッ!
「いてぇ!」
「ふがいない気持ちも分かりますが、今は私の説教を聞きなさい!」
突然、何かで肩を叩かれる。痛みで我に返ったガッちゃんは、目を丸くして、叩いてきた相手である神父を見る。神父はガッちゃんに話を聞くよう注意をした後、コホンと咳を払ってから話を続けた。
「では改めて・・・勇者よ!また死んでしまうとは何事か!しかも同じ相手にまた殺されるとは!しかも、今回の場合は用心深く外を確認していれば起こらなかったはず。警戒も出されていたのにこれは酷すぎるぞ!」
「ぐうの音も出ません・・・」
正論ど真ん中で何も言い返せないガッちゃん。神父はさらに続ける。
「勇者よ。所持金を確認してみなさい」
「ん?なん・・・・ッ!減ってる!?」
「今回から蘇生料金を所持金の半分取り立てます。前回は初回サービスということで」
神に仕える人が本人の確認も取らずに金を巻き上げてよいものなのか?まあ生き返らせてもらったのには感謝しているが、せめて生き返ってからの取り立てしてもらいたい。
それについて言おうとしたとき、自分の所持金が半分以上減っていることに気付いた。
「なんか・・・10万円ぐらいあったはずなんですけど、37564円しか残ってない・・・」
「大方、殺人鬼に盗られたんでしょう。ちょっと残っているだけ助かったと思うべきです」
何故か半端に盗られたお金を見て、ガッちゃんはため息をつく。今度会う時までに強くなって、絶対ボコしてやる・・・!そう、心に誓ったガッちゃんであった。
神父はガッちゃんの説教が終わったのか、今度は隣の女性―――ガッちゃんの仲間になると言っていた人に顔を向けた。
説教の方に意識にだけ意識を向けていたので気づかなかったが、自分の番が終わって周りを見てみると、ガッちゃんは前回同様、自分以外にも人がいることが分かった。仲間予定の女性、オカマバーの親父、その他店員や客もろもろ・・・。
そしてガッちゃんが周りの人を確かめている最中、女性は神父を見つめ返して説教を聞く体制を整える。それを見た神父は1回うなずいてから、口を開いた。
「女魔導士よ。敵にカッとなって襲い掛かったのが今回の死因である。常に冷静さを保ちなさい」
「・・・はい」
女性もいきり立って魔法を使おうとした自分に反省し、頭を垂れる。それを見た神父は、今度は親父に・・・。以下似たような説教なので割愛する。
・・・・・。
こうして今回の死亡者への説教が終わったところで、親父が何かに気付いたように手を挙げる。
「ちょっといいかしら?」
「どうしましたか?酒場の親父よ」
声がまた聞き取りやすくなっている。どうやら、まじめな話をするときはそうなるらしい。あと、神父は頑なに人名を喋ろうとしない。何かあるのだろうか?
ガッちゃんはそんな風に考えていると、親父は真剣な表情で神父に質問を始める。
「ここにいる人数が2人足りないんだけどどうして?」
「・・・・・」
確かに、店にいた人数より少ない気がする。親父の質問にわずかばかりの躊躇いを示す神父。しかしそれをすぐに払いのけ、親父に返答する。
「それは、彼らの肉体がどこにもなかったからです。詳しく申しますと、魂を連れ戻せる程度の肉体が残っていませんでした」
「そんな・・・」
膝を突いて暗い表情をする親父。自分の店で生き返れない人が出たとなれば、かなりくるものがあるだろう。
「勇者も、死ぬときに体を失えばこのように生き返れなくなるので気をつけなさい」
「・・・分かりました」
神父も悲しい表情をしながらガッちゃんに忠告する。それに対して、ガッちゃんはただ返事をすることしか出来なかった。教会内が、一層ひんやりとして感じられた。
こうして、今回の蘇生者達のための反省会は全て終了した。
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時同じしてウ~ちゃん達も、場所を酒場から路地裏に移して反省会を行っていた。
ただし、正座をさせられているのはウ~ちゃんであり、イルニスは何かを頬張りながら彼を見下ろしている。
「何で情報収集のために入った酒場っで、暴れなきゃないんでっすか!?モゴモゴ・・・提案したのウ~さんでっしょ!?モッチュモッチュ・・・」
「う~・・・」
言葉の合間合間に咀嚼音が混ざっている。しかしウ~ちゃんは自身の後悔によって、それにアクションすることが出来ない。ウ~ちゃんは自らの失敗を反省できる男である。次に活かせるかどうかは別であるが。
「それに、私が友好的に話しかけた相手を何で切り殺すんでっすか!?ゴキュン・・・魔法撃たれた程度じゃ私死にまっせんよ!痛いでっすけど・・・もう死んでまっすけど・・・バギボギ」
「・・・・・」
言い返せないウ~ちゃん。何処ぞの勇者とそっくりである。イルニスは何かを飲み込みながら彼に説教をし、全部飲み込むと、隣の山から何かをへし折って口に入れる。
それは、男の腕であり、山とは肉の山であった。
そう。蘇生者が2名足りなかったのは、彼女がおやつ代わりにそれらを持って行ったからである。
イルニスは体がバラバラになっても元に戻ることができる。しかし、飛び散って染みついた体液は戻ってこないし、修復の際にエネルギーを多く使う。そのため、修復材料として、体液の補充として、死体を食べなければいけないのである。
「んっで、次はどうしまっすか?ジュルジュル」
話したいことが終わったのか、起こった態度を止めて自分も床に座りウ~ちゃんに質問する。パッと見て普通の女の子が、腕の切り口から血を啜っているのは何ともシュールだ。
「う~」
「把握。とりあえず近くの町まで移動でっすね。一応、城下町で地図を買っておきまっしょう。店の連中からふんだくった金もありますっしね。ゲフゥ」
話の終わりに、盛大にげっぷをするイルニス。めっちゃ臭い。着ているガウンももう血でベトベトだ。
それはさておき、次の目的がかるーく決まったウ~ちゃん達。地図が買えるかどうかは分からないが、イルニスに任せておけば大丈夫だろう。
この女、意外と使えるぞ・・・。ウ~ちゃんはそう思い、イルニスはただ能天気にニコニコと口元の血を拭っていた。