5殺目 出会って3秒で即・・・
ウ~ちゃんがボロボロのアジト(壺のせい)から出たとき、空は橙色に染まっており、今は夕方なのだということを示していた。
「おっほぉ~☆やっぱりここの奴等は質が良かったでっす!力が漲ってきまっすよぉ~!」
「う~・・・」
空を眺めていたウ~ちゃん。その隣で、かっこつけから奪った黒いガウンを羽織りながら、好調な体に興奮する女の子、イルニスがいる。ウ~ちゃんは余計なことは言わないタイプなので、イルニスのような煩い奴は苦手なのであった。なので、低く唸って抗議する。
「何?うるさいでっすって?良いじゃないでっすか。減るもんじゃありまっせグキャッ!?めりめり」
ウ~ちゃんはプッツンして、拳骨でイルニスの頭を叩き潰した。イルニスの頭は拳の跡にへこみながら、胴体へとめり込む。しかし、
「ぼよよーん☆」
「うっ!?」
イルニスの頭が胴体からバネのように飛び出してきた。首の骨は折れているようで、飛び出た勢いで首の肉が縦に伸びる。そして、戻ってくる勢いでまためり込む。
そうやって伸び縮みを繰り返すうち、頭が元の位置に戻ってメシメシッと首と頭の骨が治る。それを見て、ウ~ちゃんは仮面の下で口を開けながら唖然としていた。
「へへーん。もう死んでるんで普通に殴っても殺られませっんよ!痛いでっすけど。あと、このカッチョいい服が私の体液で汚れるっんで、もうやめて欲しいでっす」
「う~・・・」
ウ~ちゃんとは別の意味で不死身なイルニスは、自慢げに無い胸を張る。今度煩くしたら輪切りにして並べよう。そう心の中で誓ったウ~ちゃんだった。
そんなウ~ちゃんに、完治したイルニスは話題を投げつける。
「ところっで、この後どうすんでっすか?」
「う~」
「把握。酒場で情報収集でっすね。ぶっちゃけ何聞くか分かんないでっすけど」
酒場と言えば人が集まる場所であり、色々聞ける場所。ファンタジーの鉄則である。今は夕方なので結構集まっているだろう。
聞くことが無くても、今後の指針になるような何かを聞ければ上々だ。そういう訳で、ウ~ちゃんは隣のゾンビをいつバラしてやろうかと考えながらどこかの酒場を目指した。
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「うぐぅ・・・」
「う~」
「酒場空いてまっすねぇ!おっちゃん血袋一杯くだっさい!」
ガッちゃんは酒場のドアを開けた途端に、何者かに両手で胴体を挟まれて持ち上げられる。万力のような締め付けにより、肋がボキボキと音をたてて・・・、なんて悠長な表現で表せるものでは無い。ガッちゃんは出会って1秒で掴まれ、2秒で全身を粉砕され、3秒で即肉塊と化した。企画ものAV顔負けの手際である。
ウ~ちゃんがこの酒場を見つけたのは、次のような流れである。
まず、表通りに死ね死ねオーラを出しながら現れたウ~ちゃんは、手近な酒場を探し始める。町の人はそれを見て、近くの建物や家に避難する。当然だ。彼の危険性は既に伝えられているので、人々はいつにない素早さで建物に入って『内側から鍵が掛かって開かない!』を発動させる。
いくらウ~ちゃんでも理不尽仕様バリアは破れないので、一番近くにあった酒場を諦める。次にその近くの酒場、さらにその次はまたその近くの・・・と、5件ぐらいそれを繰り返した。
そして、6件目。ウ~ちゃんがドアに手を掛けようとした瞬間、ちょうど中から走って出てきたガッちゃんが、ウ~ちゃんの胸に飛び込んできたのだ。ここで飛び込む相手がかわいい女戦士とかだったらガッちゃんハーレムルート突入!となるのだが、現実は非常である。無論、ウ~ちゃんはそんなすけこまし野郎は大っ嫌いなので、そんな奴がいたら全身サイコロステーキにするつもりである。
閑話休題。つまり、ドアを開けて結界が解除されたのと、ウ~ちゃん達が来たのがぴったり合ってしまったため、ガッちゃんは2度目の死を迎えてしまったのである。幸先良いとはこれ如何に?
「じゅるじゅる・・・ゴフォッ!この兄ちゃんすげえマズいでっすよ・・・」
隣のイルニスがピチュンしたガッちゃんの血肉を啜る。しかし、あんまりおいしくなかったようで変な色の体液と共に口から吐き出していた。ものすごく臭い。
「あ”な”た達・・・も”じかじてぇ”!」
親父がカウンターの下から棍棒を取り出し、ウ~ちゃん達に突き付けている。声を図太くし、警戒心MAXで2人の出方を窺っている。
「おー。ウ~さん有名人じゃないでっすか!ここ出たら詳しい話をお願いしま・・・アギャギャー!」
「う~・・・」
イルニスから尊敬の眼差しを受けて、居心地が悪くなったウ~ちゃんは彼女の首元を掴んで親父に放り投げる。イルニスは親父に向かって高速回転していき・・・
「フンッ!」
「ぶちゃっ!」
親父の棍棒がジャストミートして、肉体と体液が花火のように四方八方に飛んで行った。めっちゃ臭い。
しかしその肉体はただ散ったわけではなく、酒場が墓場となるきっかけになった。
「あああああああああああああ!熱いいいいいいいいいい!」
「俺の腕があああああああああああああああああ!!」
イルニスの体液を浴びた店員や客が、全身から白煙を立ち昇らせて呻き苦しんでいる。よく見ると、体液を浴びている箇所に穴が開いており、その穴が衣服を貫き、皮膚を焼き、骨や肉を侵しているのが分かった。どうやら彼女の体液は、強酸性のようである。そして、いうまでも無く親父が一番体液を浴びており・・・
「・・・・・」
既に全身溶けており、真っ赤なぶよぶよとしたものと化していた。近くに転がる金色の股間ガードだけが、それが親父であるということを示している。
「あーびっくりっした!いきなりやめてくださっいよ!めちゃんこ痛いじゃないでっすか!」
「う~・・・」
いつの間にかイルニスが復活していた。しかしまだ完全ではないようで、肉体のあちこちから骨が見えているが、次々と飛び散った彼女の肉体が地面を這って集まり、体の隙間を埋めていく。どうやら爆発四散させても成仏しないようだ。ウ~ちゃんは残念そうに唸った。しかし、ウ~ちゃんは小さいことにクヨクヨしない男の子なので、アイテムボックスから取り出したチェーンソーで暴れ始めた。
―――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「ぎょっごごごっごごっごご・・・」
「むぴゅっ!?」
意味を成さない言葉を発しながら腹を抉られる男冒険者、首を跳ねられて間抜けた音を出す細マッチョな店員。考え無しに店の中の人々を血の海に沈めるウ~ちゃんであったが、
「ウ~さん!?さっきの目的忘れたンピョ!?」
「うっ!?」
そうである。ウ~ちゃんは酒場で今後の冒険の目的にするような何かを聞きに来たのである。暴れ始めると闘争本能が刺激されて訳が分からなくなる。ウ~ちゃんの悪い癖である。なんか勢い余ってイルニスの首が吹っ飛んだが、知ったこっちゃない。どうせすぐ復活するだろう。
「う~っう~っ」
ウ~ちゃんは自分の癖を反省して、店に残っている最後の1人、ガッちゃんの仲間になると話をしていた女性に視線を向ける。女性はウ~ちゃんと、ちゃっかり復活しているイルニスを交互に睨みつけている。
「え~、いろいろ思うこともあると思いまっすが、ちょっとお話させてもらってもいいでっすか?」
「その前に、1ついい?」
「どうっぞどうっぞ」
イルニスは手を叩きながら、フレンドリーな態度で女性に質問しようとする。誰がどう見ても危険な奴にしか見えないのだが、そんな彼女に対し、怖気づかずに話しかけてくる女性。その女性が1つ質問していいかと聞いてきたので、イルニスは嫌な顔1つせずに了承すると、女性は言葉を口にした。
「あなたが羽織っているのは、どこで見つけてきたの?」
「あ~。これはでっすね、私を宝箱に閉じ込めていた奴らのボスから奪ったものでっすよ」
女性は、イルニスが羽織っているガウンを指差し、彼女に問いかける。イルニスはその問いに、正直に答える。
「そのボスって、今どこ?」
「私の腹の中でっす。食べちゃいまっした」
その言葉を聞いた途端、顔が憤怒に歪んだ女性は、右手に何か力を込めた。その力は次第に熱を帯びていき、小さいが物凄い高温を発する火の玉を形作った。今まさにそれをイルニスに向けて放たんとする女性。しかし、
―――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
女性は輪切りにされた。頭に血の上っていた女性は、目の前の女の子に意識を向けすぎて、背後から迫ってきた大男に気が付かなかったのである。ちなみに大男の方は、始めてみる魔法に興奮して我を忘れてしまい、手を出してしまった。
輪切りにされた女性は、目をクルリと白目にさせながら口から血を溢す。上半身が力無く前のめりになり、そして、
―――ドサリ。
女性の上半身が溢れる血とダダ漏れの糞尿の海へと投げ出される。下半身は怒りで硬直していたのか、倒れる気配を見せない。
酒場の客と店員、合計7名は全滅した。死臭立ち込める店の中で、ウ~ちゃんは自分のやったことを再び後悔する。一方イルニスは、頬を掻きながら周りを一通り眺めて大きなため息をついた。
「はぁ・・・まあ、外に出て適当に走っていきまっしょう・・・」
こうして、召喚初日にしてガッちゃんは2回死に、ウ~ちゃん達はどこへ行く当てもないまま、その日の惨劇は幕を閉じた。
日曜は書き溜めするのでおやすみです。