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4殺目B 酒場で仲間探し

ガッちゃんパート。

 倉庫から出てきたガッちゃんは、冒険者デビューとしては贅沢過ぎる格好になっていた。

 頭と体に兵士用の兜と鎧、左手に小さめの盾、そして右手には光導の剣を装備している。

 おまけに、予備の防具、槍や弓矢と言った射程の長い武器、それなりの回復道具、10万円ぐらいのお金をアイテムボックスに気前良く入れてくれた。ボックスは満杯になったが、レベルが上がれば容量は増えるので問題無いだろう。


 「どうですか?」


 「なかなか様になっておりますぞ、勇者殿。何しろ世界の命運が掛かっておりますからな。ケチケチしてる暇はありませぬ故に」


 それだけ王様いや、この世界の人々は自分に期待してくれているということだ。それに答えなくては男が廃る。


 「餞別ありがとうございます!皆さんの期待に応えられるよう、頑張りたいと思います」


 「うむ。良い返事ですな。これなら安心して見送れますぞ」


 感謝を伝えるガッちゃんに、幸先の良さを感じる王様。既に1回死んでいるので良いスタートとは言えないが。

 とは言え、ガッちゃんの旅支度が調った所で、王様が次に行うことを話し出す。


 「もういつでも出発は出来ますが、道中の仲間だけは勇者殿に任せますぞ」


 「はい。その点は了解しましたが、その理由を聞いてもよろしいですか?」


 あっさりと了承するガッちゃん。いくら一方的に召喚されて魔王討伐をお願いされたとはいえ、結構な待遇をさせてもらったので、これ以上は何か悪い気がする。そんな日本人的思をしたガッちゃんだが、一応理由を聞いておく程度にはしっかりとしている。


 「うむ。実は城の兵士の大半と町の手慣れた冒険者を戦場に送っており、戦える者がほとんどいないのですぞ。残った兵士を連れていくのも手ですが、これ以上兵士が減ると国が守れなくなるのです」


 確かに、城内の兵士の人数はかなり少ない。あと1人でもいなくなれば守りは瓦解する。そのくらい最少人数であった。同時に、こうでもしなければ魔王の勢いを止められないことを悟り、ガッちゃんは戦慄して体を少しブルッとさせた。


 「わずかに残った冒険者の方に関しては、仲間募集の知らせを国から出さなければならず、そうすると魔王に勇者の存在を感ずかれて、先手を打たれる可能性が否定出来ません。そんな訳で、こちらからは人を出せないのですぞ」


 「なるほど。良く分かりました」


 勇者と言う切り札を、成長する前に潰させまいとする王様の考えは至極当然であった。納得したガッちゃんは、右手に握ったままだった剣を左腰の鞘にしまうと、王様と一緒に会議室へと戻る。


 「立派な格好になられましたね。勇者様」


 会議室で待っていた姫様が声を掛けてきた。王様に動かせておいて、自身は何故椅子に座ってお茶を飲んでいるのか?ツッコミを入れそうになったが、色々めんどくさいので止めておく。


 「では勇者様、吉報をお待ちしておりますわ。」


 「見送りの言葉みじかっ!」


 無理だった。ツッコまずにはいられなかった。

 ゆとりは異世界にも浸透しているのか・・・ガッちゃんはしみじみと感じた。


 「すまないですぞ、勇者殿。自由にのびのびと育てた結果、こうなってしまいました。私も妻も考えが甘過ぎましたな。早く魔王にさらわれた妻と一緒に、再教育を図りたいですぞ」


 「さらりと重要なことを言いましたね。」


 世界の状況説明のときから、ガッちゃんのツッコミをスルーする程自由過ぎる姫様。良い人だが、大事なことを言うのを忘れている王様。この国が心配になってきた。


 そして、細かい話し合いをガッちゃんと王様の他に、外回りから帰って来た兵士長を交えて行った。兵士長から聞いた話によると、正門辺りに兵士達の惨死体が転がっていたらしい。今は神父達によって蘇生し、ありがたい説教を受けているそうだ。この世界の神父は最強なんじゃないか?そう思ったとき、アイツが脳裏に過った。


 人あるまじき暴力的な巨体、それに反して表情を包み隠す氷のような仮面、そして、全てを引き裂かんと唸りをあげるチェーンソーを持ったアイツ・・・ガッちゃんを元の世界でも殺そうと追い掛けてきた殺人鬼を思い浮かべる。

 正直、召喚された後に殺されて良かったなと思う。元の世界なら1発でアウトなのだから。死ぬ瞬間の痛みを思い出し、ゾゾッとしながらガッちゃんはアイツについての不安を話す。


 「兵士達が殺されていたってことは、アイツ外に出て行ったんですよね・・・。町の人は大丈夫なんですか?」


 「ご安心下さい。町の放送器で、奴が町に出る前に危険を伝えましたから。貧民街の連中は言うことを聞くか分かりませんが」


 「そうですか・・・。良かった~っ」


 兵士長の返答に、安堵の吐息を洩らすガッちゃん。そして、アイツの話を掘り下げる。


 「今、何処にいると思いますか?」


 「真っ直ぐ移動していれば、町の外でしょう。貧民街の方なら話は別ですが、あそこには悪どいが腕っぷしは良いゴロツキが結構いますから、一筋縄では行かないでしょう」


 「なるほど。なら、早めに町を出てアイツから距離を取った方が良さそうですね」


 町の人は家に『内側から鍵が掛かって開かない!』結界を張っているので、いざというときはすぐ家に逃げるよう教えられているそうなので、そこは大丈夫だろう。問題は町で鉢合わせした場合だろう。レベルが上がれば勝てるかもしれないが、今は勝利のビジョンが全く見えてこない。なので、アイツに警戒しながらさっさと町を出るのがベストだろう。外に出てしまえば、アイツが先に出ていようがいまいが、遭う格率はグッと減るからである。宿屋に籠って様子を見るのも手だが、アイツの居場所が分からないので不確実であるし、何より時間がもったいない。


 「なら、善は急げですな。今すぐ出発しましょうぞ!」


 「そうですけど、まずは・・・」


 そう。ガッちゃんには絶対にやらなければならないことがあるのだ。先程話し合ったことでもあり、これをやらなければ、自身の準備が万端とはいえ先がかなり危うい。要するに・・・


 「酒場で仲間を探しても、まだ問題はないよなぁ」


 ガッちゃんは旅の仲間を探しに、酒場に行った。


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


城の正門を抜けて、しばらく歩くと城下町に着く。規模はかなりのものであり、町の端から端まで歩くには丸一日が必要だろう。

 その町を、緑コートの大男に警戒しながら歩く少年―――勇者ガッちゃんは王様姫様と別れた後、酒場を探し回っていた。召喚されたのは学校帰りで夜だったが、今は夕方であるので、元の世界と異世界とでは時間に差があるのだろう。

 夕方は仕事終わりの町の人や冒険者が集まるので、仲間を集めるにはもってこいだ。アイツのせいで人がいないのを恐れていたが、意外と歩いている人は多い。そのため、もう既にアイツは去ったのではないかと思いながらガッちゃんは一軒の酒場の前で足を止める。そこは、町にいくつかある酒場の内の1つで、大通りに面している。大通りならば仲間を見つけた後に、すぐに外へ行ける。自分でもこれが最良の選択だと感じながら、ガッちゃんは酒場へと入っていった。すると・・・


 「い”らっしゃい”ま”せぇ~!!!!!」


 「うひゃぁ!?」


 入った途端に図太い大声が店内に響き、ガッちゃんは驚いて女々しく叫んでしまう。


 それがまずかった。


 「あ”らぁ^~。がわい”い”坊やだこどぉ~。でも”だめ”よぉ~。ここは大人の世界な”の”よぉ~」


 「ひいいいいいい!」


 女々しさにメロメロになっている図太い声の正体は、ピンクのレオタード姿の胸毛もじゃもじゃ髭もじゃもじゃ親父である。おそらく店長だろう。金色の股間ガードが、彼の人となりを完璧に表していた。周りの店員も、親父ほどでは無いが、全員女装をしている。

 ガッちゃんは思った。ここはあれだ。元の世界でもテレビで話題になっていたあの・・・


 オカマバーだ。しかも、元の世界よりも何十倍もインパクトの強い・・・


 ここで補足をしておこう。ガッちゃんは決して男色ではないが、かといって同性愛者を悪く思ったことは無い。ただ、目の前の親父の異様な雰囲気に、ガッちゃんのSAN値はダダ下がりであった。

 しかし、時間を失う訳には行かず、早々に仲間を探して出て行こうとガッちゃんは気合を入れた。


 「あの、私は数時間前に王様から遣わされた勇者です。魔王に見つからずに近づいて、討伐してこいとお願いされました。しかし、私はまだ呼び出されたばかりで弱く、一緒に来てくれる仲間が必要です。いきなりですみませんが、どなたかついてきてくれる方はいらっしゃいませんか?」


 王様からもらった手紙を親父に見せながら、ガッちゃんは丁寧にお願いする。親父もそれに驚いた様子で、ガッちゃんと手紙を交互に見やる。

 しばらく店内がガヤガヤとしていたが、最初にはっきりと分かる言葉を放ったのは親父だった。


 「そうねぇ・・・それなら、向こうの彼女なんていいんじゃない?」


 「声が聞き取りやすくなってる・・・」


 図太い声を止めて、分かりやすく話す親父。普通に喋れるではないか、とツッコむ前に親父は言葉を続けた。


 「彼女も旅の仲間を探してるっていうし、ちょうどいいんじゃないの?」


 「おぉ!ありがとうございます!」


 あっさりと仲間候補が見つかり、下がっていたSAN値が元に戻るガッちゃん。親父にお礼を述べた後、心を弾ませながら親父の指したテーブルに向かった。そこには、優しい目元をした、耳にかかる程度の長さにそろえた金髪の女の人が座って何かを飲んでいる。その大人びた横顔は、これまでいろんなものを見てきたということを物語っているようでもあった。


 「あの~、すみません。ちょっといいですか?」


 「あら?どうしたの?」


 ガッちゃんが声を掛けると、彼女は柔らかく微笑み返してきた。その黒瞳は、酒場の暖色系の明かりと相乗し、黒いダイヤのように爛々と輝いている。さっきの親父と同じような口調であった、全く別物であった。月とスッポンである。


 「仲間を探しているようですが、どういった理由でしょうか?」


 「ウフフ。回りくどくしなくても、さっきの話は聞いてたわよ。仲間を探している理由は、そうねぇ・・・一緒に人を探してほしいからかしら」


 「人?」


 話の呑み込みが早い人で助かったと思いながらも、ガッちゃんは彼女の言う探し人が気になった。


 「そう。その人というのは私の弟でね、最後に会った時はかなり荒れていたから・・・ちょっと不安になって」


 「その弟というのは、どこにいるのか目処は立っているんですか?」


 「そうねぇ・・・私の知り合いが、この町で似ている人を貧民街に続く路地で見かけたって言ってたから来てみたんだけど、3日探しても見つからなくてね。だから今こうして仲間を探しているの」


 彼女は弟を探しているらしかった。その弟は、貧民街での目撃情報から察するとゴロツキなのだろう。貧民街という単語だけで危ないと感じるのに、今までそこの捜索を1人で行っていたというのだから大したものである。


 自分は見つからないように敵地に行かなければならないのであり、人探しに付き合う程大人しくしてはいられない。しかし、聞いてしまったからには話が変わる。お人好しなガッちゃんは無視できないのだ。


 「分かりました!私にも手伝わせてください!」


 「あら、いいの?じゃあ、これで私は勇者様のお仲間ね。よろしく」


 「はい!よろしくお願いします!」


 初めての仲間を見つけて万々歳のガッちゃん。しかし、彼女の弟を見つけるまではまだ安心は出来ない。約束は守る。ガッちゃんの良い所である。でも、やはり急いではいるので、


 「では、ちょっと急がなければならない理由があるので、今すぐ探しに行きましょう!」


 「ウフフ。せっかちな人は損するわよぉ。それに自己紹介もまだ・・・」


 小走りで酒場の外へかけようとするガッちゃんと、それをにこやかに注意する彼女。しかし、そのにこやかな顔は一瞬にして驚愕に凍り付いた。何故なら・・・


 「うぐぅ・・・」


 「う~」


 「酒場空いてまっすねぇ!おっちゃん血袋一杯くだっさい!」


 ガッちゃんの胴体を握りつぶす巨漢と、弟の愛用していたガウンを羽織る黒髪の女の子がいたからだ。


幸先が良い?悪い、あれは嘘じゃ。

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