2殺目 壺割りは基本
「おお、死んでしまうとは情けない!」
ここは城内の教会。その祭壇前にガッちゃんと王様姫様、兵士達に召喚術士が、しょんぼりとした様子で並んでいた。
ガッちゃん達を哀れんだ神父は、さらに言葉を続ける。
「まず勇者よ!其方は全人類の先頭に立って、魔王に挑まねばならない。しかし、召喚されて5分で死ぬとは何事か!」
「そんなぁ・・・」
理不尽な出来事の結果に対して理不尽に怒鳴られるガッちゃん。哀れな勇者は更に頭を下げて項垂れる。
「他の皆様もですぞ!来たばかりで無知な勇者を支えるのが貴方達の使命でしょうに。」
「うぅ・・・(×10)」
ガッちゃん以外の犠牲者達も、その言葉の理不尽さに襲われてものすごく嫌そうな顔をしていた。姫様なんか今すぐ泣き出してしまいそうだ。
―――現場に到着した神父達は、バラバラ死体に蘇生魔法をかけて回った。
損傷が激しかったのでそれなりの時間を要したが、みんな傷一つない綺麗な姿で復活することができた。心の傷はどうであるかは別だが。
そんな訳で、無事に教会でリスポーンを果たした被害者の方々は神父軍団のリーダーである「城内の神父」に説教されていたのである。
「―――ここまで。今回の説教は終わりである。ソーメン。」
「ふぅ・・・(×11)」
ようやく説教が終わり、安堵のため息をついたガッちゃん達は城の会議室へ移動する。王座の間は、自分達の血や脳漿で汚れているのでしばらく使えない。
「ではまず、ようこそおいで下さいました勇者殿。今回の召喚について、儂の口から説明させて頂こう。」
王様の口から召喚の趣旨について説明される。
「儂等人族は、様々な命と共に手を取り合って暮らしておりました。しかし、1週間ほど前に魔王が地獄から攻め込んできて、地上のよりも強力な魔物を解き放ってきました。おかげで平和は蹂躙され、既に半分ほど制圧されてしまいました」
「1週間前とか決断早過ぎね!?俺の呼んだ漫画だとそういうのって短くても50年ぐらいは争ってたよ!?」
「ホッホッホ。素早い決断が運命を左右するのですぞ」
迅速過ぎる勇者召喚の決断に、ガッちゃんは唖然としていた。しかし、王様はそれを一笑して自分の英断を自慢する。
「つまり、貴方様は勇者に任命されて、この世界に召喚されたのです。魔法陣は必要なとき、かつ適正を持つ者だけを呼び出すのですから」
「んじゃ何でアイツが一緒にくっついてきたの!?」
「お願いです勇者様!世界を救って下さい!」
「無視かよっ!チクッショー!!家帰ったら見たいバラエティーあったのに!」
王様の話を補足する姫様に対して、ガッちゃんはさっきの殺人鬼が付いてきた理由を問い質したが、それを華麗にスルー。そして姫様は、その整った可愛らしい表情でガッちゃんにおねだりすると、ガッちゃんは頭を掻き毟りながら、元の世界に対するみみっちい未練を口に出した。
「・・・元の世界に俺は帰れるのか?」
「魔法陣は、召喚された者が目的を達さない限り再度発動しない構造になっているので、魔王を地獄に追い返せば帰れるようになるでしょう」
未練を口に出した途端、帰る方法について不安になったガッちゃんだったが、具体的な変える方法を王様が教えてくれたのでひとまず安心した。
「・・・分かりました。魔王を倒して、この世界の平和を取り戻して見せましょう!」
「ありがとうございます・・・!勇者殿(様)!」
改めて自分が勇者であることの自覚を持ち、魔王を討つことへの決意を固めたガッちゃんは、首を縦に振って肯定する。王様と姫様は揃って彼に御礼を述べる。
「うっしゃ!魔王だろうが何だろうが、さっさと倒して家に帰るぞ!」
威勢よく声を上げて、拳を天に振り上げたガッちゃんは意気込んだ。
しかし、彼はまだ知らない。魔王やその配下の魔物よりも、一緒に来たアイツが自分を一番苦しめてくるということに・・・。
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「う~」
勇者が会議室にいた頃、ウ~ちゃんは城下町の路地にいた。ガッちゃん達をグシャグシャにした後、返り血を浴びたままのウ~ちゃんは、堂々と正門から外に出て行こうとしていた。その姿を見た2人の門番は、緊急事態と断定してすぐさま援軍を呼び出した。
「先程の騒動は貴様の仕業だな!神妙にし・・・ぎゃああああああああああああああああ!!」
「うっ!!(グルングルン)」
新たに30名ちょっとの兵士が駆けつけてくる。それに対し、早く町に出たいせっかちなウ~ちゃんは、さっきと同じようにチェーンソーをぐるぐる回した。
暴力の嵐は当然兵士達の皮膚を、筋肉を、骨を、内臓をズタズタに切り裂いていく。今回は人数がさっきの3倍程あるので、飛び散る血飛沫も単純に3倍である。
城下町の外に出る前に血塗れになってしまったが、ウ~ちゃんは少しも気にせず、城から出て行った。しかし町の住民は、彼を見ると大声を上げて家に籠り、戸締まり魔法『内側から鍵が掛かって開かない!』を発動させた。人の顔を見るなり喚き出すなんて、この町の教育はなっていない。ウ~ちゃんは激おこである。
「う~」
ウ~ちゃんは、路地を抜けて少し広くなった所に出ると、周囲をを確認した。ここは貧民街らしく、明らかに表通りよりも寂れている。
さらにこの辺りは建物が密集している他、木材などのゴミにより死角が多くて見通しが悪い。そんな中、ウ~ちゃんは入れる建物を探して再び歩き始めた。
何故、建物を探しているかというと・・・
―――バンッ!
「誰だテメェ!うっ!?ああああああああああ!?」
「お前、よくも兄貴をや・・・ゴフォ!」
偶然開いていた、見るからにヤバい建物に足を踏み入れたウ~ちゃんは、すぐに立ち塞がってきた柄の悪い男達に挨拶する。如何なる場所でも礼儀を忘れないウ~ちゃんは、町の奴らとは大違いである。
頭蓋が陥没し、地に伏した男達を足蹴にして、ウ~ちゃんは建物の奥へ進む。そして、途中で壺を見つけると、手に持ったチェーンソーをアイテムボックスに収納し、壺を両手で掴む。誰から教えられるまでもなく、本能でアイテムボックスを知ったウ~ちゃんは天才でもある。
「う!」
ウ~ちゃんは壺を壁に向かって投げつける。壺は暴力を纏って唸りを上げ、
―――ドゴオオオオオ!
壁がバトル漫画のように弾け飛ぶ。そして、壺の中身が空っぽだったのが分かると、ウ~ちゃんは残念そうな顔を仮面の下でした。
「うぅ」
ウ~ちゃんがやったのは、ファンタジー世界の冒険における基本中の基本、壺割りである。アイテムがあればそれだけ有利。便利なものは、その中にあるにあることが多いのは自明の理である。
「う~♪う~♪・・・う?」
そして壺を次々と割っている最中、
「よぉ・・・。俺の可愛い部下達とアジトをボロ雑巾みたくしたのはおめぇか?」
突然聞こえてきた声に反応するウ~ちゃん。聞こえた方向に目を向けると、分厚い黒のガウンを羽織ったかっこつけがいた。狼のような目付きでウ~ちゃんを睨み付ける彼は、全身から殺意を迸らせ、憎悪をたっぷり混ぜた声で静かに話しかけてくる。
「何処の刺客かは知らねぇが、ボスの俺を差し置いて暴れるたぁいい度胸じゃねえか・・・ただ、俺が怒っちまったのが運の尽きだ。」
数々の修羅場を突破してきたことを語る顔中の傷は、平静を装いながらも片眉がピクピクしており、常人なら失禁確実なオーラを醸し出していた。
「後悔してももう遅せぇぞ・・・。地獄すら生温い責苦メケョッ!」
「うっ☆」
ウ~ちゃんは何と無しに、壺を目の前のかっこつけに投げつけた。壺は高速回転しながらかっこつけの顔面に当たり、割れながらも彼の頭を首元から吹っ飛ばす。
噴水のように、顔があった場所から血を噴出するかっこつけの胴体。やがてそれは背中から倒れ、黒のガウンに彼の体液が染み込んでいく。
その光景を生み出したウ~ちゃんはと言うと・・・
―――てれれーん☆
「う~☆」
壺から出てきた薬草にご満悦であった。