1殺目 最初からデットエンド
「ようこそおいで下さいました!勇者さゲヒャブッ!!」
「んぎゃ!?」
男子学生を押し倒そうと前進した勢いで、駆け寄ってきた鎧を付けた人が吹っ飛ぶ。ついでに男子学生も鼻を鎧にぶつける。
「勇者殿!?」
「勇者様!?」
そして、こちらより少し高台になっている所にある王座に座る白髭の老人と、その隣に立つ女の子が男子学生を心配していた。
「う?う?」
とりあえず男子学生を放り投げた大男―――ここからはウ~ちゃんと呼ぼう。ウ~ちゃんは自分が田んぼではなく中世ヨーロッパのお城みたいな所にいるのを知って、プロローグから続いて2回目の疑問の声を上げる。
「ところで召喚術士よ。儂は勇者を1人召喚してくれと貴方に頼んだのだが、もう1人の元気な御方は誰かですかな?」
「はい。私もそれは気になります。」
王座の老人とその隣の女の子、王様と姫様は、部屋中央の魔法陣の前にいた召喚術士に尋ねる。しかし、尋ねられた彼も困った顔をして、
「すみません、国王様。この魔法陣は何かと不明な点が多い代物でございまして・・・、おそらく勇者様の近くにいたため一緒に召喚された方なのでしょう。」
2人にそう答えた。一方、ウ~ちゃんから解放された男子学生は、自分の置かれた状況を後回しにして大声で訴える。
「勇者とか召喚とか分かんないけど、とりあえず俺の目の前にいるそのでっかい人は人殺し野郎だから!殺人鬼だから!」
「何だと!?」
男子学生の訴えを聞いた周りの兵士達は驚いた顔をした後、勇者と一緒に来た大男の立場を理解し、彼をすぐさま取り囲んだ。
「勇者を殺めにかかる悪魔の使いめ!覚悟!」
「う?」
一斉に剣を鞘から抜き、ウ~ちゃんに突きを入れる7人の兵士達。それぞれから迫る切っ先に刺されれば、全身血だらけ穴だらけだろう。
しかしウ~ちゃんは仮面の下の顔を変えずに、
「う~~~!(グルングルン)」
「ぎゃああああああああああああああああああ!!」
右手に握ったままのチェーンソーのエンジンを入れ直し、その場を独楽の如く右回転させた。
当然、殺人スピンに巻き込まれた兵士たちは剣ごと、フードプロセッサーに入れた玉ねぎのように体をバラバラにした。鎧や剣の残骸が宙を舞い、その破片を食らった召喚術士が召喚術死に改名させられる。
神をも切り裂くウ~ちゃんのチェーンソーは、最強なのである。
「ひっ!」
「ばっ化け物め・・・!」
その惨状を見ていただけの王様は顔中汗濡れにしながら奥歯を噛みしめ、姫様の周りには水たまりができていた。しかしそれには目もくれず、ウ~ちゃんは最初に決めた獲物の方に近寄っていく。
「・・・・・」
「あ・・・あぁ・・・」
再びシリアスモードを決め込み始めたウ~ちゃんに、男子学生は戦慄し、絶望した顔で喘ぎながら後ろに下がる。そして、もうだめかと思ったその瞬間、
男子学生の体から光が迸り、その光が全身を包むと、やがて収束した。
そして光が収束した左腰には、鞘に収まった剣がズボンのベルトに付いており、
「あれは・・・!選ばれたものにしかその身を預けないという光導の剣!」
「勇者様!その剣で目の前の悪魔を聖なる力で断罪してくださいまし!」
王様と姫様は脇で解説を行う実況キャラのように、その光剣について説明した。それを聞いて、勇者の自覚だか何だかを感じ始めた男子学生―――改めガッちゃんは、鞘からその身に光を宿す剣を抜き取ると、ウ~ちゃんに向けて構える。聖なる力が血流によって全身を満たすのを感じ、2人の期待に応えるために眼前に迫ってくる殺人鬼を睨みつけた。
「いくぞ!くら・・・ああああああああああああああ!!」
突っ込んでくる前に、ウ~ちゃんはガッちゃんを頭から股関節まで真っ二つにした。ユ~長い溜めは嫌いである。男はスパッと決めてこその男である。そう、スパッと。
「なんという・・・」
「ああ・・・勇者様、おいたわしや・・・」
実況キャラ2人は、府抜けた面をしてその場に項垂れた。
「う~☆」
ウ~ちゃんは残りの彼らも仲良く輪切りにした後、この場を離れることにした。冒険の基本はまず探索。ウ~ちゃんは基本も完璧なのである。
10分後・・・
「何ですか・・・これは・・・」
魔法陣の描かれた王座の間に駆けつけた蘇生担当の神父達は、大量の血と肉塊、そしてバラバラになった金属片を目の当たりにし、互いに青くした顔を見合っていた。