13殺目 1日目召喚、2日目決戦
『目標二人、魔王城前まで侵攻!以前勢いは収まりませ・・・ブジョッ!』
冒頭早々、連絡兵の頭が切り落とされた。それを行ったのはもちろん、チェーンソーを掲げたウーちゃんである。そのウーちゃんの後ろからは、切り落とした自らの片腕を振り回すイルニスが嗜虐心たっぷりの笑みを周囲に振り撒いていた。
「うーっ!!」
「おらおらおっら!!いくでっすよ!!」
前方の兵士が分厚い鎧ごとチェーンソーで切り裂かれ、イルニスの体液によって周囲の兵士が蒸発していく。彼らの通ってきた道は血と体液で彩られており、まさに地獄よりも地獄な光景と化していた。無論、それをつくった張本人達は気にする様子も無く、意気揚々とお城の堀まで辿り着いた。
「やっぱり橋・・・、上がっていまっすね」
「う~(ガシッ)」
「あ~把握。やっぱこれで行くんでっすね」
上がった橋を見て、ウーちゃんは戸惑う様子も無くイルニスを掴み・・・投げた。
「あああああああああああグジュッ!」
「あああああああああああ!!やっぱり防ぎきれなかったあああああジュワワワアァァ・・・」
強固な石橋はイルニスの体液によってドロドロと溶解し、そのままの勢いで城内に流れ込んだ。溶解物は向こう側に待機していた兵士を飲み込み、おまけ感覚で殲滅させていく。
「う~」
「まだ出会って2日でっすのに、相変わらず容赦ないでっすね。まあ、面白そうなところなので無理はないでっすが」
相変わらずの再生速度で回復したイルニスが、頭の形を直しながら言う。そう、面白そうなところなのだ。実際ウーちゃんも、いきなりラスボスの待ち構えている所に来られるなんて思ってもいなかった。そんな訳で、ワクワクを全身から迸らせながら、2人は城に侵入したのだ。
「さてさって、無事入れまっしたし魔王がいそうな所までさっさと・・・「行かせんぞ!」ん!?」
イルニスの言葉を遮って第三者の声が響く。2人が声の方向に振り向くと、そこには大柄の男が腕を組み、堂々と上り階段の前に立ち塞がっていた。
「貴様らも勇者と見た。ならばこの私、ガトー・カカオマスが正々堂々相手を・・・ンムブゥ!」
「うー!」
「急いでないでっすけど、先急いでまっすんで。失礼しまっす」
それなりに強そうな奴が出てきたが、早く魔王に会いたいせっかちなウーちゃんは彼の頭を陥没させる。イルニスも会話を遮られてムッとしたのか、そっけない態度で言葉を返す。ウーちゃんも会話を遮って拳を食らわせていたのだが、これでおあいこだろう。
という訳で、ガッちゃん達を自らのオーラで圧倒したガトーは、部下のショーンの後を追うように地獄へ戻って行ったのであった。
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ウーちゃん達が大暴れしている頃、ガッちゃんたちは急いでファスト王国の城下町にとんぼ返りしていた。ガトーが言っていたことが正しいのであれば、城下町は今頃魔王軍のゲリラ部隊に襲われているはずだ。1分でも早く戻らなければ、被害はどんどん増えてしまうだろう。何より、自分達を生き返らせてくれる神父達がやられてしまったら元も子もない。そうなのだが・・・
「あれ?所々壊されてはいるけど・・・」
「思っていたほど荒れていないわね」
「敵ら”しい”敵は見当たら”な”い”し、どう”したの”かしら”ん”?」
3人が顔を合わせて首を傾げる。襲われてボロボロだと思っていた町が案外キレイなままであったのだ。確かにうれしいことではあるのだが何かがおかしい。そう各々考えていると、城の方から兵士長が駆けつけてきた。
「勇者様と仲間の方々、連絡が無かったにも関わらず、わざわざ戻ってきて頂きありがとうございます。ですが、ご覧のように被害はほとんどありません」
「あ、やっぱり敵が来てたみたいですね。ですがそれほどやられていないということは、意外とすんなり倒せちゃいました?」
話の内容から、やはり敵が襲ってきたのだと確信するガッちゃん。でもそれでこの被害の無さはやはりおかしい。ここの兵士の人数も少ないはずなので、仮に勝てたのなら相手は相当弱いとしか言いようがなかった。頭にクエスチョンマークを並べているガッちゃんに対して、兵士長はアンサーを述べる。
「いえ、相手はそれなりに強く、兵士も数人大ケガを負ってしましました。しかし、何か連絡が入ったようで、さっさと帰って行ってしまいました」
「はえ!?帰った!?」
予想外の答えに素が出るガッちゃん。それもそうだろう。相手の本丸目前で優勢なのに、わざわざ退却することはまずないからである。積み重なる疑問にガッちゃんの思考はかき乱されていった。
「ん?ん?ん?ん?」
「考え”てても”何も”始ま”ら”な”い”わ”よ”ガッちゃん”。一旦城に”戻り”ま”しょう”。何かわ”かる”かも”しれ”ない”わ”」
「そうね。行きましょう」
城に戻ることを提案したバブルスに、アンも賛成する。こうして、ガッちゃん達はひとまず城に戻ることになったのだった。