12殺目 身ぐるみ剥いだら
「おっと危ないでっす!身ぐるみ剥がなきゃもったいないでっすね・・・」
「う~」
いきなり出て来た悪魔をぶっ飛ばしたウ~ちゃんとイルニスは、再び山道を進もうとしていたが、3歩踏み出した辺りで戦利品をもらわにゃ損だと気付いた。すぐさま地面に転がっている悪魔の元へ向かい、頭の潰れた胴体から持ち物を取り出していく。
「まっずは透明マントにぃ、ナイフ、魔力増加グローブ、そんで私にゃ毒の回服薬・・・まっあ、透明マントが当たりで後はゴミでっすね」
手に取って確認しては地面に並べていくイルニス。ウ~ちゃんもそれをしゃがみながら眺めて、確認が終わったものから順番にアイテムボックスに入れていく。いくらゴミでも捨てるのはもったいない。ウ~ちゃんは自分のものは大事にするタイプなのである。
そんな中物色を進めていたイルニスは、透明マントの内側のポケットから何かを見つけた。
「なんでペンダントがポケットに入っているんでっすかね?」
それは金色の装飾の中に赤い宝石がはめ込まれたネックレスであり、その煌びやかな装飾とは対照的である粗末ひもが特徴的であった。イルニスは眉をしかめてしばらくの間沈黙した後、カッと目を見開いてウ~ちゃんの方を向いた。
「把握。ウ~さんウ~さん、ちょっと私の手を握ってくグシャオボァ!」
「う!」
握れと言われてしっかりと手を握るウ~ちゃん。しかし手を握る程の仲では無いので、リンゴが分子レベルで粉砕する握力を出すのを忘れない。もちろん差し出されたイルニスの右手は弾け飛び、残った肉はウーちゃんの手の中で肉団子になっている。
イルニスは痛みで声を上げたものの、すぐにいつもの笑顔に戻って右手を握られたまま再生していく。どうやら、ウ~ちゃんの態度に慣れてきたらしい。
「まあ手のことは良いっとして。ではウ~さん、ちょっとびっくらこくかもしれまっせんよー」
「う~?」
久しぶりにびっくらという言葉を聞いてウ~ちゃんは懐かしい気持ちになったが、それは突如として歪んだ周囲の景色によって吹き飛ばされた。
「う!?」
いつの間にか木々に囲まれた山道がだだっ広い平地となっており、まだ正午にもなっていないのにも拘らず空が赤黒い。しかも城下町から出発してきたのに、平地の向こうにあるのは城下町の入口である。
「う?う?」
未だに状況が飲み込めないウ~ちゃん。と、ウ~ちゃんの手を握ったままのイルニスは満足げな顔で彼に言った。
「まさかとは思いまっしたが、マオーノへの瞬間移動の道具が手に入るとは思いませんでっした」
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「魔王様!城下町がもうめちゃくちゃです!兵士や魔物達を次々に向かわせていますが、一向に奴らの侵攻は止まりません!」
「なになになになに!?やめてよね~、これさ~ほんとに、うん」
場面は再び戻って魔王城。城の中は右往左往している兵士や使用人であわただしくなっている。城下町の状況を伝えに来た兵士の声にも焦りをしっかりと感じることができ、それを伝えられた魔王も嫌そうな顔で眉間に皺を寄せていた。
「そんで、侵入してきた勇者達っていうのは今どこら辺にいるわけ?」
「それが、既に城の入口付近だとのことでボジュウッ!」
「ハァ~。何してるんだよほんとに。ねえ!そこの兵士!早く城下町と城を繋ぐ橋を上げるように伝えてきて!それから城の入口を中心に固めて!」
「はっはい!!」
腹いせに火炎弾を兵士の頭に放った魔王は、近くにいた兵士に命令をした。殺されてはたまらんとその兵士は脇目も振らず駆け出し、連絡道具を利用した甲斐もあってすぐさま命令通りに兵士達が動き出す。それでも芳しくない状況に、魔王は玉座の裏の階段を下りながら歯噛みをした。
「まったく、ガトー君とショーン君は何をしているんだ?こっちが攻め込まれているじゃないか・・・」
徐々に暗くなっていく石段をコツコツと下り、魔王はそう独り言を言った。どうして奇襲をしたはずなのに、こちらがめちゃくちゃに攻められなければならないのか?奇襲を頼んだ隊長分隊長は後ほど処分を決めるとして、どこで馬鹿をやっているのか?そんな中、ふと魔王は気付いた。
「分隊長クラスの人からは帰還アイテムを支給する取り決めだったけど、もしかして・・・」
気づいてからじゃあもう遅い。この取り決めの改変についても後ほど考えることにしよう。さらに下っていく魔王。地下まで続いているので空気がひんやりとしている。そして、石段の最後に着き、魔王は目の前にある鉄扉を、開いた。キイィと鉄が擦れる音が扉の向こうの部屋に響き、魔王は扉のすぐ脇に置かれている燭台に火を付ける。
「トラブルが起きたんでね・・・役に立ってもらうよ」
「・・・・・」
魔王の正面、つまり、部屋の奥の壁には両手を鎖に繋がれたファスト国の王妃が鎮座していた。