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11殺目 余裕な魔王様

 ―――1週間程前、大海原に突然大陸が出現した。


 人々はそれに驚く暇も無く、現れた大陸から次々と見たことも無い魔物達が飛んで来て、世界中に侵攻し始めた。各国は突如として起こった事態に対抗すべく僅か1、2日で連合軍を組んえ立ち向かったが、相手の数が多すぎる。ゆえに迅速な判断と素晴らしいくらいの連携を取ったにも拘らず、戦況はどんどん悪い方へと向かっていった。


 そんな中、空一面に響き渡るような声が世界を包み込んだ。声が発されると同時に暗雲が立ち込め、雲の切れ間から見える空は鮮血色に染まる。


 「もしも~し、テストテスト。魔王はイケメンまみむめも。・・・よし!聞こえるようだね~」


 物々しい雰囲気とは裏腹に、幼い声色とユーモア溢れる言葉遣い。それがこの事態の異常性を表しており、聞いていた人々は戦々恐々としていた。それに対し声の主は、我関せずといった様子で言葉を続ける。


 「みんな初めまして~。地獄から来た魔王だよ~。回りくどいの嫌いだから単刀直入に話すけど、地獄の人口が増え過ぎたので地上を貰えるだけ貰うよ~。どうせ死んでそのままの人はここに来るんだしいいでしょ?んじゃよろしく~―――ブツン」


 言いたいことだけ言って声が途切れた。慄いていた人々は次は我が身かと焦りに焦って、各地でパニックを起こすが、その隙を狙って魔物や魔王の軍隊が攻めてくる。僅か6日間で地上の5割が征服されてしまい、各国はもはやこれまで、そう表では思っていた。そう、表では。


 「各国の裏連絡網へ連絡。我が国ファスト王国が勇者の召喚準備を終了いたしました。直ちに召喚に取り掛かります」


 裏では唯一、勇者召喚を行えるファスト王国が召喚準備を行っていたのだ。昔は他の国も出来たらしいのだが、魔法陣の維持費や技術の云々で切り捨ててしまっていたので、必然的に各国はファスト王国を最後の希望とし、実際それを成し遂げた。

 これで勇者が召喚できれば世界は救われる・・・。誰もがその希望に願いを託しており、それが明後日この地に呼び出される・・・。だが、ことはそう易々とは進まなかった。


 「国王様!王妃様の姿が何処にも見当たりません!」


 「さらに探せ!城の兵士で足りなければ使用人も捜索に加えろ!」


 不運が人々をあざ笑うがが如く、王妃の姿を隠したのだ。勇者召喚前日でリハーサルもあるというのに、今朝から姿が見当たらない。王様や兵士達の顔に焦りが見える。その焦燥はただ一国の王族がいなくなったというものとは別の意味を孕んでいた。それは・・・


 「召喚には召喚術士と王妃の祈りが必要だというのに・・・お前は何処へ行ってしまったんだ・・・」


 というのは王様の発言通り、勇者召喚には王妃も必要なのである。城中の全員があたふたするが、時間は刻々と過ぎていくばかりである。そして、焦る気持ちとイライラがピークに達し王様が怒鳴りそうになったとき・・・捜索していた兵士の1人が戻ってきた。


 「王様!王妃様のベッドの下から、見るからに怪しい映像水晶が出てきました」


 「何!?いや、そろそろ薄々と感じて来たが・・・早く再生してくれ」


 この状況で見たこともない映像水晶。これだけのことで感付けないのはただの馬鹿であろう。無論、王様だけではなく周りにいた人達も気づいたようであり、誰しも、これから映される映像に不穏を覚えた。水晶を見つけた兵士も怖々とした様子で水晶に魔力を送る。水晶は次第に輝き始め、魔力が十分に注がれると、その中から半透明の子供が現れた。


 「やっほ~、魔王だよ~。勇者呼びそうなのは予習済みで分かっていたから、さらいやすそうな王妃を連れていくね。さあ、この後君たちはどうするかな?せいぜい頑張ってね~。お尻ぺんぺん―――ブツン」


 水晶の映像は、やったことの重大さとは裏腹に手短にまとめられており、魔王と名乗った子供はその口調の緩さと異常性から、確かに魔王であるとそこにいる誰もが確信した。しばし沈黙の時間が流れる。魔王の来襲、それに対抗するための勇者の召喚、さらにそれに必要な王妃の誘拐、それを助けるには魔王の城へ・・・


 「まだ終わらんぞ・・・終わったら本当におしまいだ・・・」


 「・・・・・」


 絶望的な状況で、一瞬積んだと思ってしまった王様であるが、最悪を防ぐべく光明を見出そうと思索し始める。日に日に悪くなる戦況報告に胃を痛めていた王様だが、今回は妻がさらわれたショックと勇者召喚の不可能という状況により、全身を掻きむしりたくなるほどの衝動に駆られていた。しかし王様は王様である。一国の長が取り乱してはいけぬと必死に気持ちを押し殺して冷静に努める。

 そんな王様を見て心を痛める兵士や大臣であったが、いくら考えてももうどうすることもできないというもどかしさに打ちひしがれていた。そんな中、いつも通りを地で行くような声がその場に響いた。


 「私ならお母様の代わりをできたりはしませんか?」


 「姫・・・」


 「考えても何も進みませんから、やれるだけやってみましょう」


 前向きな姫様の発言はいつもの姫様であったが、この場の陰気さをわずかに払拭した。王様はすぐさま召喚術師に頼み、姫様に儀式の仕方を教えさせた。明日までに覚えなければならないので、儀式の練習は夜通し行われ、そして・・・


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


 「まあ、姫さんが王妃の代わりになりそうだと思っていたから、そこまで驚かなかったからね。くふふ」


 魔王の城。王座に腰掛け独り言を言う魔王は、勝った気でニヤニヤしていた。勇者とファスト王国に対する奇襲を既に仕掛けたので、吉報を今か今かと待ちわびているその姿は、まさに楽しみでそわそわしたチビッ子である。


 「魔王様!失礼します!」


 ついに待ち望んでいた知らせが届いた!そう思った魔王は心ウキウキワクワクに、知らせを伝えに来た悪魔に期待の視線を送った。


 「わーい!奇襲どうなった?どうだった?」


 王国を攻めたときの様子はどうなのか?勇者の最期はどうなのか?聞きたいことが山盛りであり、玉座から首を前に出して鼻を膨らませる魔王。それを向けられた悪魔は、脂汗と焦燥を顔面に張り付けながら、


 「勇者が城の正門に現れました!」


 「へ?」


 魔王の期待とは180度違うことを口にした。

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