9殺目 はじめての魔物
ガッちゃんの目の前に現れた魔物、ドロリンコは、泥人形と言うより人形の泥と言った方が妥当な姿であった。
下半身には足は無く、ナメクジのように泥を流動させながらガッちゃん達に迫ってきている。スピードは徒歩ぐらいだろうか。確かにこの鈍さなら自分でも楽に勝つことが出来るだろう。そう思った瞬間だった。
「うおっ!」
突然、左手を引っ張られる。ドロリンコに目を向けていたため、突然意図しない方向からアクションされたガッちゃんはそのまま引っ張られた方向に移動する。すると、
---バシュッ!!
ドロリンコが口から長い針を伸ばしてきた。口しかない顔からの攻撃は、雑魚と言えども十分に不気味だ。そんな恐怖と針に刺されなくて良かったという安堵を感じながら、視線を引っ張りの原因に向ける。そこには先程までガッちゃんの脇をホールドしていたバブルスがその手を掴んでいた。どうやら彼がガッちゃんを引っ張ったらしい。
「いくら弱いからと言っても、油断しても良いって意味じゃないわ」
「普通に腕で殴ってくると思った・・・」
「先入観は己を滅ぼすわよ。」
声色を真面目モードに変えて警告するバブルスに頷くガッちゃん。彼は反省と決意を込めた目でドロリンコの目の無い顔を睨み、今度は相手の動きにすぐ対応出来るよう剣を持つ手と両足に力を込めた。
---バシュッ!!
再びドロリンコが針を放ってくる。しかしそれは、警戒していたガッちゃんに当たることは無く、誰もいない空間を穿ち、一瞬無防備になった。そこへ、
「てりゃ!」
---ッ!!
間抜けた掛け声と共に、ドロリンコの左側がガッちゃんの一撃によって切り裂かれた。彼の握る剣は、伝説と付くだけあってその威力は凄まじく、泥の体に切っ先が触れた瞬間それをバラバラに分解した。オーバーキルである。
ガッちゃん自身ここまで強力な武器だとは思ってなかったようで、剣を慌てて鞘に戻し、汗を流しながら仲間2人を交互に見る。
「こわ!これメッチャこわ!気軽に抜けない奴だよこれ!」
「無駄話は後よ。どんどん湧いてきたわ」
アンからの注意を受けてを周囲をぐるりと見回すと、40体程のドロリンコが草地から盛り上がって出て来ていた。攻撃スピードはそれなりだが、移動は鈍い。ガッちゃんは嫌々剣を引き抜き直し、近い奴に剣を構えた。
「あ、実践経験を積まなきゃだから私達は余り手伝わないわよ。頑張ってね」
「回復はしてあ"げる"わ"!ファイ"トよ"ガッちゃん"!」
アンとバブルスはガッちゃんの後ろで戦いを見守っている。彼女らとはレベル差があり過ぎるので、戦闘がぬるゲーになってしまうのだ。そうだと分かっていても、いきなりぶっつけ本番は無いだろうと思うガッちゃんは、
「んひいいいいいいい!」
言い返す余裕も無く、敵の数に苦戦してヒーヒー言っていた。
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---ブチャアアアアアアアアッ!!
「うっひょー!ウ~さんノってまっすねぇ!」
場面変わってウ~ちゃんサイド。ウ~ちゃんのステータスについては一旦後回しにして、彼らはガッちゃんがヒーヒー言っているとき、山道の入口付近を歩いていた。道脇の木々の間から次々と緑色の鬼が襲ってくるが、ウ~ちゃんは躊躇無くチェーンソーで輪切りにしていく。
ウ~ちゃんもはじめての魔物に内心ワクワクしていたが、ぶっちゃけ鬼は人間と殆ど変わらないので、ちょっぴり残念な気持ちもあった。どうせなら序盤らしくスライム出てこい、スライム。
「グオオオオオオオオオ!!」
「うるさいでっすねぇ。私も久々に殺っちゃいますよ!」
ウ~ちゃんを見て自分もノってきたイルニスは、吠えながら絶え間なく襲ってくる鬼達と対峙する。立ち込める血の臭いを嗅いで高揚する彼女は、口元を耳まで裂けんばかりに・・・いや、実際バリバリ裂きながら、赤目を大きく見開いた。その状態で両膝をたわませ、姿勢を低く落とす。その間も鬼達は迫り、その中の1体が彼女を鷲掴みにしようとした。そのとき、
彼女は膝を伸ばす。
---バクンッ
縮めたバネを解き放つような勢いで、イルニスは鬼の頭を噛み千切った。顎を外して飲み込む様は、卵を飲み込む蛇のようである。現に、彼女の喉は鬼の頭を飲み込んだせいで、常人なら窒息してしまう位歪に膨らんでいた。
残った鬼の胴体が血の海に倒れ、未だビクビク痙攣しているが、そんなの知ったことかと言わんばかりに鬼達が突っ込んでくる。それに対しイルニスは、顔よりも太くなっている首を「ゴキュン」の音1つで元に戻し、今度は・・・
自らの首をはねた。
「あはははっははーっ!出血大サービスで捨て身アターック!!」
笑いながら空中でクルクル回るイルニスの首。その胴体は盛大に変な臭いの体液をばら蒔きまくっている。体液は胴体から半径5m程の範囲で飛び散り、それを浴びた鬼はもちろん、
---ジュワアアアアアアアッッッッッッッッッ
白煙を上げ、全身の肉をデロデロに溶かしながら地面へ流れていった。一応痛みで奇声を発していたようだが、溶けるときのシューシュー音の方が大きい。その地獄絵図の中心で、不快な臭いの煙に巻かれるイルニスはというと、彼女特有のびっくり再生能力で元通りに戻っていた。ただし、青白い顔は体液と血でベットリだ。
「久々の戦闘はたまんないでっすね!でも何でこんなにワラワラ来るんでっすかね?」
「う~?」
丁度、イルニスから離れた所で暴れていたウ~ちゃんが戻ってきた。ウ~ちゃんも序盤の魔物らしからぬ大軍に、イルニスと同じく首を傾げている。そんなとき、
「まさか・・・グリンオーガの大群が・・・」
どこからか唖然とした声が聞こえる。姿は見えないが、近くにいるのは確かなようだ。
「把握。確かこういうのは透明魔法か道具だっから、ぼりんっ!ぶんぶんぶん!」
イルニスは突然、自分の左腕をもぎ、ぶんぶんぶんっと振り回した。野球の応援でよくやるタオル回しのように振り回される左腕は、遠心力で勢いが増した体液を無造作にばらまく。言うまでもないが、ウ~ちゃんは無傷だ。
---ジュワアアアアアアアッッッッッッッッッ
「しまった!」
うっかり喋って感付かれてしまった声の主は、慌てた様子でその場に現れる。何かが溶けたような音がしたが、どうやらソイツが羽織っていた透明マントらしい。ウ~ちゃんもイルニス程ではないが察しは良い方だ。
そのウ~ちゃん達の目の前に現れた声の主は、頭に2本のキノコみたいな角、長くて尖ったしっぽ、真っ黒な肌、そして見るからに私は悪人ですよと公言しているような目付き。そう、それは、
「我らが魔王軍の奇襲を凌ぐとは流石だな勇者!しかし、悪魔軍分隊長の私が姿を現しておいて、生きて帰れるとは思うなよ!」
分かりやすく説明してくれる悪魔。きっと早寝早起きを心掛けるタイプだろう。何か勘違いしている所がちょっと抜けているがとにかく、その悪魔はウ~ちゃん達に戦いを挑んできた。
「いざ!覚悟おおお!」
今、殺人鬼と魔王軍分隊長の戦いが始まる。
頑張れ分隊長。
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