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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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九十四 沙奈子編 「外食」

二人で夕食を済ませ、いつものように一緒にお風呂に入る。二人でぐだ~っとなってリラックスして、着替えて歯磨きも済ませて、後はもう寝るまで寛ぐだけだ。


沙奈子を膝に座らせて、彼女お手製の紙の服を着た人形を前に二人で本を読んで時間を過ごす。今日もいろいろあった一日だったけど、嫌なことってわけじゃないからまあいいか。


その後は特に何もなく、気付いたら10時を過ぎていた。


「そろそろ寝ようか」


僕がそう言うと「うん」と彼女が頷いてくれた。布団を敷いてトイレに行って、やっぱり一緒に布団に入る。「おやすみ」と言いながら額にキスすると、「おやすみなさい」と頬にキスを返してくれた。


僕の腕枕で目を瞑る沙奈子を見ながら、今日あったことを思い出す。二人で避難訓練をして、その帰りに大希くんと石生蔵さんに会って、ホットケーキを作って、買い物に行って、彼女の同級生に会って、知らない年配の女性に話しかけられてって、僕たちの一日としてはなかなか盛沢山だった気がする。


中でも特に、石生蔵さんと出会ったのは印象的だった。黙ってるとちょっと気の強そうな、だけどホットケーキの話をすると子供らしくニコニコ笑う元気そうな女の子だった。石生蔵さんとの関係については、これからも少し気を付けて様子を見ていくとしてもそんなに神経質になる必要はないかもって印象は受けた。


あと、年配の女性に『立派ね』と言われたのを思い出すと、むず痒いような気がした。立派と言われるほど大したことは出来てるとは思えないけど、他人からも沙奈子との関係が良さそうに見えるんだと思えば素直に嬉しかった。


いつしか静かに寝息を立て始めた彼女の頭の下からそっと腕を抜いて枕と入れ替える。少し腕に痺れを感じつつ僕も目を瞑ると、すぐに眠りについたのだった。




翌朝、いつもよりゆっくり寝てしまった気がしてハッと目が覚めて、今日が体育の日で休みなのを思い出し、ホッとする。まだ寝ている沙奈子の顔を見ながら、起きてから何をしようかと考えていた。


今日も、朝の勉強の後に散歩も兼ねて彼女の学校まで歩いてみようか。また大希くんと石生蔵さんに会えたりするとは思わないにしても、部屋にずっと閉じこもってるよりはいいと思う。昼食は彼女がOKしてくれたら昨日見付けたイタリアンレストランでピザにしようか。もしダメなら帰って卵焼きに挑戦しようかな。そう言えば、冷凍のお惣菜は今日からっていうことになるのか。沙奈子と一緒に、どんなのか実際に見てみよう。


それから、次の日曜日は伊藤さんと山田さんの誕生日のはずだ。二人へのプレゼントも買いに行かなくちゃ。沙奈子はどんな顔をするだろう。彼女がヤキモチを焼くようなそぶりを見せても、僕はもう怒ったりしないでおこうと決めてる。沙奈子がヤキモチを焼くのは、僕しか頼る相手がいないんだから当然のことだと思うし。その上で、このプレゼントはあくまでお世話になった人に対するお礼なんだから、そこはきちんと説明して分かってもらおう。分かってもらえるまで何度でも説明しよう。それは僕の親としての役目だと思う。


そんなことを考えてるとアラームが鳴った。沙奈子も目を覚まして僕を見る。「おはよう」と額にキスをしたら、くすぐったそうに微笑みながら「おはよう」って応えてくれた。


さて、それじゃほんとに起きて一日の始まりだ。交代でトイレに行って布団を上げたりおむつを捨てたりして、二人で口をゆすいで顔を洗って服を着替えて、今日は休みだけど月曜日だから朝はトーストにして、いつもの感じで朝食も終えて、掃除と洗濯とご飯の用意は土日と同じようにした。


朝の勉強もする。2年生の漢字はもうそろそろ終わりそうだ。次の土曜日からは3年生の漢字かな。


「沙奈子、今日も学校まで歩いてみる?」


勉強が終わって僕がそう声を掛けると、彼女も「うん」と頷いた。よし、じゃあお出かけだ。部屋を出て学校を目指す。さすがに昨日よりスムーズにいった気がする。と言っても別に早くなったんじゃなくて、あちこち気にしながら歩かなかったから気楽に行けただけだと思うけどね。


学校の前まで来て、沙奈子に聞いた。


「そこのレストランでピザ食べる?」


そしたら今度は「うん」って頷いてくれた。昨日はやっぱりホットケーキを作るのを楽しみにしてたんだなって思った。


店に入ると、派手じゃなくて落ち着ける感じの内装の、雰囲気のいい店だと感じた。


「いらっしゃいませ」


僕と同じくらいか少し年上かなって感じの女性が出迎えてくれた。笑顔の優しい女性だった。それからキッチンの方から背の高い男の人も「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。印象としては、夫婦でやってる店かなって感じだった。


さすがにちょっと時間が早かったからか、お客は若い女の人の二人連れが一組いるだけだった。


学校の校門が見える窓際の席についてメニューを広げる僕たちのところに水を出してくれて、女性が笑顔で言った。


「ご注文が決まりましたら、お知らせください。小さなお子様には、ピッツァ・マルゲリータがお馴染みだと思いますのでお勧めです」


と言われて僕はすぐに、


「じゃあ、それを二つください」


と注文してたのだった。何か聞き慣れないメニューを勧められたらどうしようかと思って少し緊張してたところによく聞く名前を聞いたから、思わずそう言ってしまっただけだったりする。だけどもともとピザを頼むつもりだったから、それでいいよね。


本当言うと、こういうところに入るのはあまり慣れてなかった。食べることにそんなに興味もないから、レストランなんて精々ファミレスくらいしか行かないし。ただ、折角だから沙奈子を連れてこういう店にも入ってあげたかったんだ。彼女もいつも通り大人しくはしてくれてるけど、それでも物珍しそうに店の中を見回してる。


僕は窓から見える学校の校門をぼんやり眺めていた。子供や、保護者らしき大人に連れられた子供が出たり入ったりしてる。今日も校庭は解放されてるんだなって思った。ただ、門自体はやっぱり閉められてて、インターホンで開けてもらうようになってるようだ。世の中的にいろいろ事件とかもあったから、そうしてるんだろうなって思った。


それにしても、思ったより時間がかかってる気がする。さすがに一から手作りしてるからってことかな。ファミレスみたいにはいかないか。沙奈子も手持ち無沙汰な感じだったし、仕方なくスマホのアプリで時間を潰す。彼女は僕の顔を写真に撮ってそれを加工し始めた。目を大きくしたり、鼻を大きくしたり、決して大声で笑う感じじゃないけど、けっこうツボにはまったらしくてクスクスクスクス笑いっぱなしだった。僕はそれを見て、彼女もこんな風に笑えるようになったんだなって何だか胸が詰まる気がした。


そうしてると、ピザが届けられてきた。


「ピッツァ・マルゲリータでございます」


目の前に置かれたそれは、ファミレスとか宅配ピザで見る感じのとはやっぱり違ってた。大きさはそんなに変わらない感じでも、何と言うか、存在感がある気がする。トマトもたっぷり乗ってて、トマトが好きな沙奈子はすごく嬉しそうだった。


「いただきます」


二人でそう声を合わせて、僕たちはピザを楽しんだのだった。


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