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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八 沙奈子編 「投合」

その日は、朝から何だか熱っぽかった。食欲もなくて、結局ヨーグルトくらいしか食べられなかった。やっぱり疲れが出てきたのかと思った。でも仕事も休めないし、今日と明日を何とか乗り切れば土曜日だ。そう考えて薬で何とかごまかそうと思った。


それにしても、僕がこうやって疲れが出てきてるのに沙奈子が平気そうにしてるのは不思議だった。大人しそうに見えても子供だから大人よりも元気なのか?。それとも、僕のところに来る以前の方が過酷だったから、逆に今の方が楽だとか?


本当のところは分からないけど、彼女に病気になられても正直言って困るし、だったら僕がなってる方がまだいいか。


何とか騙し騙しで仕事を終えて家に帰ると、風呂に入ってすぐに寝た。やっぱり熱っぽかったけど、どうしようもない。今は寝るしかないと思った。すると、不意に頭にひんやりとした感触があった。何だろうと思って触ってみると、それは濡れたタオルの感触がした。


目を開けると、沙奈子が僕の枕元に座って覗き込んでた。


「沙奈子がやってくれたのか…?」


呟くように聞くと、彼女が小さく頷いた。まさかそんなことをしてくれるとは思ってなかった。心配してくれたのか……。


「…ありがとう」


嬉しかった。こんなこと、親にもしてもらった覚えが無かった。僕が彼女の面倒を見てることのお返しだったとしても、やっぱり嬉しいと思った。でも沙奈子も明日はまだ学校がある。気持ちは嬉しいけど、もう寝なくちゃいけないはずだ。


「嬉しいよ…でも明日学校だろ?。沙奈子も寝なくちゃ。僕なら大丈夫だよ」


そう言うと、彼女はまだ心配そうな顔をしたけど、僕に言われたとおりに寝ることにしたようだった。


その夜は、かなり熱が出たのかすごく汗をかいて何度も目が覚めて、その度にミネラルウォーターを飲んだり着替えたりした。けれどその分、朝になるといくらかマシになってた気がした。


僕が朝の用意をしてると沙奈子も起きてきて、僕を見ていた。


「ありがとう。おかげでだいぶ楽になったよ」


そう言った僕の顔が自然と笑顔になってたのに、後になって気が付いた。それを見て沙奈子も安心したみたいに、ちょっとだけ笑った顔になった。


本当はまだ完全じゃなかったけど、今日一日持ちこたえたら明日は休みだ。体調が悪ければ一日寝てたっていい。そう思えば昨日より楽な気がした。


食パンを焼いてたポップアップトースターがカシャンとトーストを跳ね上げる。沙奈子はそれに自分でマーガリンを塗って食べ始めた。トーストくらいなら、彼女は自分で用意して食べられる。そういうところでも僕は助かってた。


だけど、彼女がいろいろ自分でできるのは、親が何もしてくれなかったから自分でするしかなかったんだと思う。その点は僕も似たようなものだった。確かに自分でできるのはいいかも知れないけど、僕はそれを躾だとか思わない。親がちゃんとしてくれてたって、このくらいならできるようになると思う。躾だとか言って何もしないのは、自分がサボりたいからだとしか僕には思えない。


ただ、今は沙奈子がいろんなことができるから僕が助かってるのも、皮肉な話だけど事実なんだろう。何もかも僕がしないといけなかったら、こんなに上手くいってないかも知れない。何しろ僕は、子供のことなんて何も分からないままでこんなことになってしまったんだから。


僕のところに来たのが彼女だったから何とかなってるっていうのは、すごく感じていた。そういう意味ではお互い、運が良かったのかもしれない。


家を出るのは僕が先で、沙奈子に部屋の鍵を持たせてた。一人で家にいるのも出掛けるのも慣れていたみたいで、最初の頃は鍵をかけ忘れたり鍵を落としたりしないかって心配してたけど、ここまでそんなことは一度もなくて最近はもうほとんど心配していなかった。


「行ってきます」


僕がそう声を掛けると彼女も、


「いってらっしゃい」


と返してくれる。それが当たり前になってきてることも、なんだか嬉しかった。部屋に帰ってきた時も、誰かがいて明かりがついてることに安心した。一人だった頃も別に寂しいとか思ったことはないけど、それでも嬉しかった。


仕事にも、何だか張り合いが出てきてる気がする。昨日や今日みたいに体調が完全じゃない時は、休んだりはしなかったけどとにかく辛かった。何のためにこんなことをしてるのか分からなくなることもあった。でも今は、沙奈子のために頑張らなくちゃと思うと、頑張れる気がする。


そういう気持ちで今日も何とか持ちこたえた。


部屋に帰って「ただいま」って言うと、「おかえりなさい」って返してくれた。親でさえ言ってくれなかったから無くても平気だと思ってたけど、あるとこんなに気持ちが穏やかになるんだって思った。


今日も無理をせず風呂に入ってすぐに寝ることにした。明日起きた時まだ具合が悪い感じがしたら、明日は一日寝てればいい。そんな気持ちで寝たら、10時間くらい寝てしまってたけど、起きた時にはもう完全にすっきりとしていた。


よし、これなら!


「沙奈子、今日は100均に行くよ」


先に起きた沙奈子が用意してくれてたトーストを食べながら僕は言った。来週の臨海学校で必要なものを揃える為だ。100均に売っててそっちの方が安いものはそこで、それ以外はいつもの大型スーパーで揃えよう。


必要なものが書かれたプリントを持って、一緒に自転車で100均に向かう。スーパーとは逆方向だから普段は足が向かないけど、今日は特別だ。


「ハンカチ、タオル、軍手、洗濯バサミ、ぞうきん、雨具。まずはこのへんかな?。よ~し、見付けるぞ!」


あんまりオーバーリアクションだと恥ずかしいから控えめだったけど、また宝探し風に気持ちを上げて行こうと思って腕を上げて小さく掛け声をかけてみた。そうしたら沙奈子も小さく手を上げて、「はい」と応えてくれた。


結構広い100均だから、いろいろなものが売ってて、なんだか少し楽しかった。今まではそんなこと考えたこともなかったのに。


ハンカチは普通のハンカチよりもミニタオルがいいかもと思ってそっちをカゴに入れた。タオルは海で遊んだ時用と、朝の洗顔やお風呂用で合計四枚以上いるから、水色のタオル四枚と、バスタオルも一枚買った。バスタオルと言っても100円だから小さ目だけど、沙奈子もまだ小さいから丁度いいよな。


子供用の軍手も、洗濯バサミも、ぞうきんも、レインポンチョも見付けてカゴに入れた。その途中でナップサックも売ってたのを見付けてカゴに入れた。一日くらいだからそれでも行けるだろう。靴下と子供用の下着も売ってたからせっかくだと思って三つずつカゴに入れた。懐中電灯もあったからそれも入れて、ついでに自転車用のLEDライトも入れた。よし、筆記用具を入れる筆箱もついでだ。


僕が見つけたものを手にとってカゴに入れるのは沙奈子の役目だ。大はしゃぎはしないけど、彼女なりにノリノリで楽しんでるのが分かった。こうして次々と目当てのものをゲットしていった僕達は会計を済ませて、意気揚々と100均を後にしたのだった。


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