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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七十一 沙奈子編 「発作」

手抜きカレーを二人で作る。と言っても、煮物用の冷凍野菜を軽く煮て、そこにカレールウを入れるだけだから、ほとんど沙奈子にやってもらってる。


これでも僕にとっては十分に美味しいカレーになるんだから、すごいよな。でもいずれ、これはあくまで僕の作り方なだけで、いろんな作り方があるっていうのはいずれ知ってもらわなきゃとは思う。だけどこんなおままごとみたいなやり方から入るっていう方法もあってもいいかなと思ったり。


まあそれは置いといて、出来上がったカレーを二人で食べる。夕食の後にいつものように二人で風呂に入って、それからやっぱりいつものように沙奈子を膝に座らせてまた寛ぐ。


彼女の今日の日記には、散髪の帰りに大希くんと大希くんのお姉さんのイチコさんと会ったことを書いてた。その日記も書き終わりランドセルに仕舞うと、本の続きを読み始めた。僕も本を読む。


それにしても静かだ。でもそれがいい。何も起こらない幸せをかみしめる。動画とかゲームとかで時間を潰そうとした時もあったけど、どうやら僕たちにはこっちの方が性に合ってるらしい。わちゃわちゃと忙しないのは疲れる。僕たちみたいなのは少数派なのかもしれないと思いつつ、でもそれでいいよなって思ってる。


ふと見ると、散髪したからか、沙奈子の髪が軽くなったみたいに感じる。と言ってもほんの2~3センチ切ってもらっただけだから、そんな気がするだけかな。


僕に体重を預けてくる沙奈子が読んでるのは、動物の言葉が分かる女の子の物語だった。確か以前も読んでた本だと思う。図書館に行った時に彼女が自分で選んだものだから、きっと好きなんだろう。動物と話せるようになったらいいなとか思ってるんだろうかみたいな想像して、ちょっと微笑ましくなってしまう。僕としては、沙奈子の気持ちがもっと分かるようになりたいかなと思ったりする。


明日からはまた学校と仕事だ。昨日みたいな感じだといつも以上に心配しないといけなかったかもしれないから、この感じに戻れたのは本当に助かった。


まったりとした時間が過ぎて、沙奈子があくびをし始めたから時計を見ると、ちょうど10時前だった。


「そろそろ寝ようか」


僕が聞くと彼女が眠そうに頷いた。


沙奈子がトイレに行ってる間に布団を敷く。入れ替わりで僕がトイレに行ってる間に彼女はやっぱり人形の布団を用意してた。


照明を消して一緒に布団に入ると僕の腕を枕にして寄り添ってくる。でも、今日はそれだけじゃなかった。何かを言いたげに僕の目を見てる。もしかしてと思って聞いてみる。


「ひょっとして、キス…?」


その問い掛けに、沙奈子は小さく頷いた。しかも、それだけじゃなかった。


「キスしてもらったら、怖いのがなくなったの…」


僕にしか聞こえないような小さな声だった。だけど彼女は確かにそう言った。それが本当かどうか僕には確かめようもない。ただ、沙奈子がそう言うんなら、それを疑わなくちゃいけない理由も僕にはなかった。


さすがに照れ臭かったけど、あんまりおたおたするのも変だと思って、なるべくさりげない感じでそっと額にキスをした。


すると彼女が嬉しそうな照れくさそうな顔で「ん~っ」と声を出して、もぞもぞ動く。ただでさえ幼い感じの沙奈子が、もっと幼くなったように見えた。ちっちゃい子が、嬉しい時にもじもじする感じだと思った。そんなに喜んでもらえるなら、少しくらい恥ずかしくても僕も嬉しい。


昨日と同じようにしばらくもそもそ動いてたと思ったら、やがて静かになって寝息を立て始めた。


完全に寝たことを確認して、そっと腕を抜いた代わりに枕を差し込む。腕枕したまま寝るのはどうやら僕にはできそうになかった。ごめんな、沙奈子。


そんなことを思いつつ、彼女の寝顔を見てるうちに僕も眠りについたのだった。




まったく。あの女は何なんだよ。何で俺に構おうとするんだよ。あれか?。カマってちゃんとかいうやつか?。


クラスの女子三人に呼び出されたのを見てからあと、余計になれなれしくなった気がする。勘違いすんなよ。俺がいたのはたまたまだからな。だから俺は無視してたんだ。山下がいくら俺に近寄ってきても、徹底して無視してやった。なのに山下はほとんど気にしてないみたいに付きまとってきた。


あいつの家と俺のいる施設とが方向が同じだってんで帰る時もついてきた。


だから俺は、帰る時ついて来ようとするあいつにとうとう言ってやったんだ。


「なんだよお前!。ウザいんだよ。ついてくんじゃねーよ!」


そしたらあいつ、固まったみたいになって、と思ったらぶるぶる震え出して。このくらいでビビるんなら最初っから近寄ってくるんじゃねーよって思った。だけど、何だか様子が変だって思った。怖がってるにしたって大げさすぎだろ。唇が紫色になってすごい汗までかいてる。こいつ、なんかヤバい…?。


「お、おい…大丈夫かよ…?」


別に心配とかしてねーよ。してねーけど、いくら何でも様子が変だからよ。何かあったらマズいと思って聞いてやったんだ。でも返事がなかった。苦しそうにハアハアしだして、死ぬんじゃないかって思った。


「おい、山下…」


って肩に触ったら、すごく力が入ってる感じがした。やっぱりこいつおかしいぞって思ったら、急に声がした。


「沙奈!?。大丈夫!?」


石生蔵いそくらだった。石生蔵と山仁やまひとが階段を下りてきて俺と山下に気が付いたんだ。


石生蔵は山下をぎゅっとした。ぎゅっとして背中を軽く叩いて、「大丈夫。もう大丈夫だよ」って言ってた。そしたら山下も震えるのが止まって、「ありがとう」って答えた。それから石生蔵に連れていかれた。俺はそれを見てたけど、山仁が何か言いたそうな感じで俺を見た。だけど何も言わずに山下と石生蔵についていった。


何だよ。何が言いたいんだよ。俺がずっと無視してやってたのにしつこくしてくる山下が悪いんだろ。俺はそう思ってた。思ってたのになんでかあんまり腹が立たなかった。腹が立つっていうより、すごく嫌な感じだった。イライラしてるんだけど、山下に対して怒ってる感じじゃなかった。石生蔵に対してもじゃないし、山仁に対してでもない感じだった。


俺、自分に怒ってる…?。


そう思ったら急に頭の中がかーっと熱くなる感じがした。そしたら壁に頭をガンってやってた。ガンってしてからそんなことしたのに気が付いた。


「痛え…」


目の前がチカチカして、おでこがジンジンした。何やってるんだ俺って思った。


それから帰ろうと思って靴箱のところに行ったら、山下の靴がそのままなのに気が付いた。保健室だって思った。保健室に行ったら誰もいなかった。じゃなかった、山下がベッドに寝てて、他は誰もいなかった。だけど山下は目は覚めてて、俺のことを見た。そしたら驚いた顔して急に起き上がって、近付いてきた。


「痛い…?」


山下が俺の頭を持って引っ張るみたいにしたから頭を下げたら、おでこをペロって舐められた。チクってしみたけど、それどころじゃなかった。


「な、なにすんだよ!?」


俺は顔がカーッと熱くなるのを感じてた。


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