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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七 沙奈子編 「共同」

スーパーから帰ると、早速リュックから買ったものを出して、取り敢えず床に広げてみた。


まずはいらないタグを外さなきゃ。


「ごめん、ハサミ持ってきて」


僕が広げた荷物を眺めていた沙奈子にお願いする。すると机の上のペン立ての中からちゃんとハサミを持ってきてくれた。


「それでこれを切って」


ビニールバッグを彼女の前に持ち上げて、タグを止めてあるプラスティックの輪っかを引っ張っると、切ってくれた。


「今度はこっちね」


と、水着のタグも切ってもらう。続けてビーチサンダルとリュックのも。


「ありがとう。じゃあ今度は、この紙は、こっちのゴミ箱、このプラスティックの輪っかは、この『プラ』って書いてあるゴミ箱に捨てて。切ったやつ全部お願い」


と指示して捨ててもらった。今はゴミの分別するよう言われてるから、彼女にも知っててもらわなきゃと思って、教えるついでに手伝ってもらった。彼女はわざわざ一つ一つ丁寧に捨てては拾って拾っては捨ててってやってた。まとめて捨てたら早いのにと思ったけど、せっかく手伝ってくれてるんだから今は細かいことは言わないでおこうと思った。それにそのくらいのことならそのうち自分で気付くと思ったし。


彼女がタグを捨ててくれてる間にアイロンを用意する。水着に着けるゼッケンがアイロンで着けるタイプだったからだ。アイロンが熱くなるまでに他のことをしようかとも思ったけど、小さな子供がいるところでアイロンのスイッチを入れたまま離れるのはマズいかなと思ってそのまま待った。


プリントに書かれてた説明によると、左胸の辺りに12㎝×8㎝くらいの小さな白いゼッケンを着けて、そこにクラスと名字を書くということだった。体操服のゼッケンはもっと大きかったのに、水着のはそのくらいでいいのかなと思ったけど、たぶんそれは男子用のゼッケンと大きさを揃えてるんだなと気が付いた。水着と一緒について来たゼッケンはそのままだと大きかったからハサミで大体の大きさに切った。


タグを捨て終わった沙奈子が僕を見下ろしてたから、


「じゃあ、ハサミを片付けて、油性ペンでビニールバッグとビーチサンダルと帽子に名前を書いて」


って、帽子を袋から出しながらお願いした。彼女は頷いて、ハサミを戻して油性ペンを持ってきて、ビニールバッグとサンダルと帽子に自分で名前を書いた。バスタオルとゴーグルにも書いてもらおうかと思ったけど、そっちは書きにくいだろうから僕が書こうと思う。


アイロンが熱くなってきたから、いよいよゼッケンの接着を始めた。しっかり着けないとはがれてくるかと思いつつ、やり過ぎたら水着が焦げるかもしれないと思って結構神経を使った。でも何とかうまくいった。


僕がアイロンを使ってるところを沙奈子は興味深そうに見ていた。だけど、


「沙奈子、アイロンは危ないから、僕がいない時は触らないでね」


と言っておく。彼女は素直に頷いてくれた。けど、念のため彼女の手の届かないところに片付けておこうと思った。アイロンのスイッチを切って、ゼッケンにクラスと名前を書く。あと、もしゼッケンがはがれても誰のか分かるように水着の内側に付いた名札にも念のため名前を書いておく。もちろん下のにも。


バスタオルは案の定、名前が書きにくくて僕がやって正解だと思った。ゴーグルはゴムバンドが細いから字が小さくなるし、書きにくいしで、こっちも正解だと思った。


「よし、じゃあこれを全部ビニールバッグに入れて」


沙奈子に、水着と帽子とゴーグルとビーチサンダルとバスタオルをビニールバッグに入れてもらう。その間に僕はリュックに名前を書いて、ポケットティッシュをいくつかリュックのポケットに入れて、とりあえず部屋の隅に置いておくことにした。


よし、これで取り敢えず今日の用事は終わった。沙奈子はもう先にお風呂に入ってたから、僕もお風呂に入る。


お風呂から出ると、沙奈子はまだ水着が入ったビニールバッグを手にして眺めていた。これも嬉しかったのかも知れない。


と、僕は借りていた水着と帽子を返さなくちゃと思って、ビニールバッグの代わりに使っていたトートバッグの中から取り出し、買い物袋にそれを入れて、


「これ明日、先生に返しておいてね」


と言いながらビニールバッグに入れると、沙奈子はまた頷いた。よし、今度こそ終わりだ。最後に僕は、これもちゃんと言っておかないといけないと思った。


「ありがとう」


まだ10時にもなってなくて寝るにはまだ早い気もしたけど、何だか疲れた気がしたから、沙奈子と一緒に寝ることにしたのだった。


そして翌日の夕方。僕はまた、沙奈子を歯医者に連れて行った。


前回治療できなかった虫歯の治療と、虫歯になりかけた歯が本当に虫歯にならないように処置する治療が行われた。


今回はまだ痛みまではなかった虫歯だったから麻酔しなくても特に痛くなかったらしい。特にまだそんなに進んでなかった2本については今回でもう大丈夫だと言われた。虫歯になりかけてた6本も今回の治療で大丈夫だから、あと3本か。でも前回最優先でやった2本は特にひどいから、これはもう相当時間がかかるらしい。


小学生以下は無料ということで金がかからないのはいいけど、何度も通うのはやっぱり負担だよな。ただ、週に一日くらい残業できなくても、月20時間までは残業が付くから、たぶん給料が減ることはないと思う。皮肉な話だ。


沙奈子の治療中、僕も歯科衛生士の人から歯磨きの仕方や、子供が自分で磨いた後で大人が再度磨いてやる仕上げ磨きのやり方とかを教わった。自分ではちゃんと磨けてるつもりがそうでもないことを改めて感じた。同時に、子供が虫歯になるかどうかは結局保護者の責任なんだとも感じた。大人でも完璧な磨き方はできてないのに、子供にできると考える方がおかしいよな。


今日できることは一通りしてもらって、次の予約は沙奈子が臨海学校から帰ってきた後にしてもらって、家に戻る途中にドラッグストアに寄って先日買えなかった酔い止めの薬を買って、その後でまたラーメン屋に寄った。そうしたら今度はしっかり麺は食べきった。さすがにスープは無理だったみたいだけど、そっちは残した方がいいと思う。体もまだ小さいし。


家に帰ったら、何だかすごく力が抜けた気がした。ここまで訳分からない状態で必死でやってきた感じだったけど、それがここにきてちょっとづつ慣れてきてる自分に気付いた。その分、これまでの疲れが一気に出てきそうかなと思ったりもしてたのだった。


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