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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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五十 沙奈子編 「平穏」

昨日のカメラのことはまだ少し気になってたけど、一応は警察にも言っておいたし後は任せるしかないかと思った。それでも以前に比べると用心するようになったと思う。昨日の夕食の後にまた大型スーパーに行って、目隠し用のネットを買ってきた。それをさっそくベランダに吊るして固定した。これでいくらかは安心じゃないかな。後は、たとえ窓を開けててもカーテンは閉めておくようにしようと思ってる。


でもこれじゃますます家に閉じこもってる感が増えてる気もする。だけど背に腹は代えられないし。こんな風に普段の生活でも心配しなきゃいけない世の中って、何だか世知辛いなあ。沙奈子みたいな小さい子が安心して暮らせるようになってくれたらいいんだけどなあ。


なんて、自分一人で暮らしてた頃は全然考えてもなかったことを考えてる僕も、相当、調子いいと思うけどさ。


というようなことはさて置いて、今日こそ何もない日でありますようにって感じで一日が始まった。


今日の朝食はちょっと趣向を変えてスーパーのサンドイッチにした。毎日ずっとトーストだとさすがに飽きると思ったからだった。これから日曜の朝はそうしようかなと思ってた。


「おいしいね」


僕が声をかけると沙奈子も頷いた。


ただ、沙奈子はどうもツナが苦手なようだってことに最近気が付いた。これは意外だった。子供って割とツナが好きなものだっていう思い込みがあったから、最初はツナサンド買ってきてたんだけど、明らかに食べる早さが他と違ってて、無理すれば食べられないことはないけど、本当はけっこう苦手っていうのが分かった。だから、臨海学校初日のお弁当としてツナサンドを入れたのは、ちょっと申し訳なかった気がしてる。


まあそれでも、無理すれば食べられないこともないんなら、食べなきゃいけない時には食べるだろうし、うちではその必要もないか。逆にトマトが入ってて辛くないものは好きなようだった。野菜ならピーマンも人参も、好きというほどじゃないけど食べるのは平気らしい。


今の時点で特に好きなものは、オムライス、スパゲティナポリタン、トマト(プチトマト含む)、餃子、煮干し、コロッケ、ハンバーグ、カレー(甘口)、アジフライ、白身魚のフライ、お刺身、回転寿司、とこんなところかな。巻き寿司はかんぴょうが苦手みたいだからあまり食べない。食べられなくはないみたいだけど。


そう、沙奈子は、これだけは無理っていう食べものがこれまでなかった。出されればだいたい何でも食べた。給食を残すとかいう話も言われてない。だけどそれも、ひょっとしたら生きるために仕方なくそうするようになったんじゃないかなっていう気がしてる。別に食べられなくたって健康には何の影響もない食べ物はこの世にたくさんあるはずなのに、好きじゃなくても食べられる時に食べなきゃ命にかかわるかもっていうのも異常だと思う。


そう考えた時、僕は、あの公園で見かけた子のことが頭をよぎって、背筋が冷たくなるのを感じた。あの子はまさにそんな感じだったのかもしれない。好きとか嫌いとかじゃなくて、ある時に食べないと次に出てくる時まで命がもたないかもしれないっていう感じだったのかと思った。


それに比べれば沙奈子はまだマシなんだろうな。学校に通い始めたころは少し痩せ気味とは言われたけど、それは虫歯のせいであまり食べられなかったっていうのもあるかもしれないし。


あと、どっちかと言えば小食なような気もする。朝はトースト2枚を食べ切るし食べるときは結構食べる一方で、昼食や夕食もそんなにたくさん食べる方じゃないんじゃないかな。僕と一緒に初めてオムライスを食べた時はすごい勢いで食べてたのは確かでも、今から思えばあればオムライスが食べられることが嬉しくてそういう勢いになったっていうのもありそうだ。だから基本的には小食な方なのかな。


でも、あんまり活発に動く子じゃないから、ひょっとしたらそれくらいで丁度いいんだろうか。あまり食べるようだと今度は肥満とかが心配になってくるし。痩せすぎとか言われない程度にキープできればそれでいいのかなっていう気がしてる。女の子だから年頃になってきたらダイエットとか気にするかもしれないし、ダイエットを気にしないでいられる体形を維持できればそれでいいのかなあ。また今度、伊藤さんと山田さんに聞いてみようかな。


何て言われるか分からないっていう不安もちょっとあるけど…。




朝食が終わってまた二人で一緒に掃除をする。これが結構楽しいんだよね。一人でやってるとただ惰性でやってる感じだったのが、ちょっと遊び感覚でやるだけでも全然違った。もし二度手間になるとしても子供がやる気になってる時に手伝ってもらうのが、手伝いをしてもらうコツかも知れないと思った。


その後はまた少しのんびりして一息ついてから勉強もする。二年生の漢字だ。やっぱり怪しいところが多い感じだ。でも少しずつでいいからやっていってもらおうって思う。遅れてるかもしれないけど、僕はすごく順調だって感じてる。二ヶ月くらいで一学年分ほど済んでるんだから、たぶん早いはずだ。


沙奈子は頑張ってる。少なくとも僕はそう思う。怒ったりしなきゃいけないところなんて何もない。楽しくやってもらえたらそれでいい。いつか大変になるかもしれないけど、自分の目標があったら少しくらい大変でも頑張れるんじゃないかな。今の僕が、沙奈子のためって思ったら頑張れるみたいに。


だけどそれでも頑張れることと頑張れないこともあるっていうのもあるかな?。沙奈子にお母さんを作ってあげるために結婚を頑張れって言われたら、彼女のためだって思ってもそれは頑張れない気がする。だから沙奈子に対しても、とにかく何でもかんでも頑張れって言わないようにしなくちゃとも思ったりする。


頑張れることはいっぱい頑張って、頑張れないことはちょっとだけ頑張れるように頑張って。そんな感じでいいんじゃないかな。


ドリルで間違った漢字を、要らなくなったプリントの裏に書く沙奈子の横顔を見ながら、僕は考えてた。


そうこうしてると一時間なんてすぐに過ぎるような気がする。小学生の頃はなかなか時間が過ぎなくて早く授業に終わってほしいとかばっかり思ってたはずなのに、今では本当に早い。だけど沙奈子自身はどう思ってるんだろう?。無理にやらせようとしてないから嫌そうにしてたり辛そうにしてたら途中で止めたっていいと思ってるのにそう見えないから、嫌がってるわけじゃない気はする。彼女も楽しんでてくれればいいんだけどな。


そんな感じで勉強が終わって、沙奈子に声をかける。


「今日もいっぱい頑張ったね」


僕の方を振り向いた彼女が嬉しそうに頷くのも、ちゃんと楽しんでもらえてる証拠だと思いたい。僕が親にしてもらいたかったことを、沙奈子が親にしてもらいたかったことを、僕はしっかりやれてるだろうか?。


僕はこれからもそういうことを気にしてやっていきたいと思うのだった。


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