表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
47/2601

四十七 沙奈子編 「思考」

今日の朝方に見た夢は、僕がこれまでに見た夢の中でも1~2を争うくらい訳が分からない夢だった。突拍子もない内容という意味ならもっと変な夢もあったと思う。でも今度の夢はそういうのとは違った意味で訳が分からなかった。


予知夢?。いや、まさか。でも、目を覚まして沙奈子の顔を見た時、僕は夢の中で結人とかいう男の子がババアとかオバサンとか呼んでいた女性の顔と一瞬ダブって見えたのも事実だった。


あれが、50年後の沙奈子…?。


と言っても、あくまで僕が見た夢なんだから、当然のことながら僕が認識してる彼女を基に僕の脳が勝手に想像したものだとは思う。あれが未来だとは別に思わない。ただ、自分と同じように辛い思いをした子供を相手にああいうことを言える人になってくれたらっていう願望はあるんだろうなと思った。


僕が沙奈子の気持ちをあれこれ考えられるのも、自分が親から大切にしてもらえなかったっていう経験があって、それを元にして想像してるっていうのもあるから、沙奈子は僕以上にいろんなことが分かりそうだっていう感じはする。だけどもちろんそうなることを強要するつもりはないから、そうなったらいいなっていうだけなのも間違いない。ただでさえ辛い思いしてきたんだから、これからはもうずっとそんな感じの大変なこととは関わらずに生きていってほしいって思ってしまうのも正直な気持ちだし。


しかしそういう話は別として、いったい僕はどうしたんだろう?。立て続けに過去とか未来(?)の夢を見るとか。疲れてる…というのとは違うのか?。むしろ、今の状況に慣れてきたことで、今現在じゃなく過去や未来のことについて考える余裕が出てきてるということかな?。だけど正直、そういう心理的なことに詳しくない僕にはよく分からない。とりあえずそう考えておいた方が収まりがいいというだけだと思う。


あと、昨日、山仁さんの息子さんが石生蔵さんとトラブルがあったという話を聞いたことで、僕も少し混乱しているのかもしれない。精神的に不安定になってるときって、わけの分からない夢を見るような気がする。


それにしても、結人ゆいとなんて名前も、どっから出てきたんだか。僕の周りにそんな名前の人がいた覚えはない。まあきっと、ドラマかアニメかで見たような名前を無意識で勝手につけたんだとは思うけど。


その時、トーストを手にした沙奈子が僕のことを見てるのに気が付いた。もしかしてまた心配させてしまったかな?。


「ごめんごめん。変な夢見ちゃって。でも大丈夫だよ」


僕がそう返すと彼女は安心したように食べ始めた。夢の内容を聞かれたらどう答えようかとか少し考えてしまった。でも今の沙奈子はまだそういうところにまで立ち入ろうとはしないようだ。


この沙奈子が、50年後にああいうことを言ってるのかなあ。なんか不思議な感じだ。そう思うとなぜか笑えてきて、ついつい顔が緩んでしまう。そんな僕を見て、沙奈子も微笑んだ。たぶん、僕が何で笑ってるのかは分かってないと思うけどね。


今日は土曜日。いつもの通り二人でゆったりとした時間を過ごすつもりだ。まずは一緒に朝食の後片付けをして、それから掃除と洗濯を始める。僕は床掃除用のワイパーで天井を拭いてる間に沙奈子には洗濯を始めてもらう。まだ細かい設定とかは分かってないけど、全部まとめて一度に普通に洗濯するだけなら全然問題なかった。洗剤を入れてスイッチを押すだけだし。


それが終わったら、もう一個の床掃除用のワイパーで、壁を拭いてもらう。沙奈子が担当するのは、何も掛かってなくて拭きやすい壁だった。そうこうしてる間に天井とシーリングライトの掃除が終わった僕は、ワイパーのシートを交換して、沙奈子に任せてるところ以外の壁を拭く。幼い沙奈子にとって柄の長いワイパーはまだ少し大変そうだけど、一生懸命に壁を拭いてくれている姿は微笑ましくもある。


壁を拭き終わったら、今度はハンディタイプのワイパーに持ち替えて、テレビとか机とかクローゼットとかをざっと拭く。その頃には沙奈子も担当の部分を終わって、今度は床を拭き始めてくれた。床は基本的に沙奈子に任せて、その間に僕は風呂掃除をする。柄の長いスポンジで天井から壁から床から浴槽から一気に拭きあげる。その後で浴槽は改めてシャワーで流して仕上げた。


風呂掃除を終えて僕が出ると、沙奈子も床掃除を終えるところだった。こうして休日恒例の二人での掃除が終わった。


それから一緒に30分ほどだらけてから、今度は勉強する。まずは漢字だな。一年生の漢字を改めてやってみたら、かなりマシになってることが確認できた。


「頑張ったな、沙奈子」


頭を撫でてあげると、照れくさそう頷いた。


そんな彼女の横顔を見ながら、ふと、夢のこともまた思い出す。そこに出てきた結人みたいなのになるとさすがにこうやって勉強を見るところまで行くだけでも相当大変そうだとは思った。と言うか、そこに至ること自体できるんだろうかとも思ってしまう。僕も、親や大人を信用してなかった。ただあそこまで恨んではいなかったからあんなにも荒んでなかったとは思う。


もし沙奈子があんな感じだったら、さすがに一日二日で音を上げてたかも知れない。その前に事件になってなければだけど。


そう言えば、僕が小学校の頃に、あの結人に似た感じの同級生がいたのを思い出した。すごく乱暴で凶暴で、みんなから嫌われてた。その同級生の親が、一度だけ参観に来たことがあったんじゃなかったかな。でもその時に、きっかけは何だったか覚えてないけど、親が彼の顔を思いっきりひっぱたいて吹っ飛んで、それで机か何かにぶつけて頭から血を流して保健室に連れていかれて、教室の空気が凍り付いたってことがあったはずだった。


それを見た僕は、本当にそっくりな親子だと思ったっていう記憶がある。ひょっとしたらその時の同級生のイメージが基になって、結人っていう人物ができたのかもしれないな。もし僕のところに来たのが沙奈子じゃなくて彼だったらどうなってたのかとか、大人になった沙奈子ならどうするのかなとか、沙奈子のクラスにそういう子が転校してきたらどうなってしまうんだろうとか、表立って意識はしてないけど僕が考えてたり不安に感じてることの象徴が、結人なのかもしれないとも思った。


でも現に、結人のような子もいるんだと思う。そういう子はどうしてるんだろう?。ああいう子はどうしても問題を起こしがちだから、児童相談所の塚崎さんとかだったら接したことがあるんだろうか。僕にはとても受け止められそうにないああいう子は、どうなってしまうんだろう…?。


以前は全く考えたこともなかったようなことが、僕には全く関係ないことだと無視してたようなことが、次から次へと頭に浮かんでくる。これは今後も変な夢を見ることになるかもしれないなという気がしてしまったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ