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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三十一 沙奈子編 「学習」

金曜日。今週も無事に終わった。そして来週は僕も夏休みだ。月曜日から金曜日までだから、実質9連休だ!。


と言っても、去年までは別にそんなに嬉しくもなかった。時間を持て余してしまうだけだから。今年も結局そうかもしれないけど、少なくとも沙奈子と一緒にいられるだけでも違うと思う。あの子を一人にしなくて済むから。でも25日からはもう学校が始まる。そう、沙奈子の学校は、夏休みが30日ちょっとしかないんだ。


ゆとり教育の見直しとかで最近そうなったのかと思ってたら、実はその学校はずっと以前からそうだったらしい。公立の学校ってみんな同じだと思ってたけど、違うんだな。冬が厳しい地方とかだと冬休みが長い分だけ夏休みが短いところもあるって聞いたことはあった。でもここはそういうのとも違うらしい。冬休みは普通らしいし。


でも今はそのことはいいか。問題はここからの9日間をどう過ごすかだよ。


まずは、沙奈子の学力の向上だ。ここまでで、2年生の国語と算数は終わらせた。やっぱり漢字がかなり怪しいし、算数も計算そのものは分かってるみたいでも、2ケタ以上になると途端に時間が掛かるみたいだった。計算に慣れてないんだと思った。だからこれからは、とにかく計算問題をたくさんやってもらって、慣れてもらうことにしよう。せめて二ケタの足し算引き算くらいなら、パッと見ただけで答えが分かるくらいでないと、テストとかでは時間が全然足りなくなるはずだからね。


だけど、詰め込むつもりは別にない。スパルタになるつもりもない。集中力があるうちに一気にやって、後は休憩でいいと思う。そう思うのは、僕自身の経験からだった。早く両親のところから出たいと思って頑張ったつもりだったけど、完全に集中力が途切れた時にやった内容は殆ど頭に入ってなくて時間を無駄に使った反省を活かしたいと考えた。沙奈子の勉強は確かに遅れてるけど、小学校で習う程度の内容なら、きちんと丁寧にやればほとんどの人が分かるものだと思う。嫌だなとか思いながらやるから頭に入らないんだって思う。


だってほら、勉強ができない子でも、好きなマンガやゲームのキャラクターの名前は全部言えたりするもんな。そういうのは、頭が悪いんじゃなくて、勉強に興味が持てないだけなんじゃないかな。だから沙奈子にも、なるべく楽しくやってもらいたいと思う。僕と一緒に勉強するのを楽しいと思ってもらえたら一番かな。


そう思って土曜日の午前中。沙奈子と一緒に出掛けて、計算のドリルを大型スーパーの文具売り場で買った。掛け算、割り算、二ケタの足し算引き算、それぞれ100ページくらいあるのを一冊ずつ。これを一緒に頑張ろう。


「僕と一緒に勉強する?」って訊いたら、彼女も「うん」と頷いてくれた。


こうやって相手をしてもらえるだけで嬉しいっていう間に親と一緒にやるのが、小学生、特に低学年頃の勉強のコツだって気がした。こうすれば相手もしてあげられるし、勉強もできるし、まさに一石二鳥なんじゃないかな。




土曜日。おねしょと、僕になるべく見られないようにとおむつを捨てる相変わらずの朝が過ぎて、僕と沙奈子は勉強をやっていた。とにかく掛け算の問題をどんどんやっていってもらう。一ケタの掛け算でも、何となくまだ遅い気がする。夏休みの宿題に至っては、明らかに時間が掛かりそうな計算問題は答えを見て書いてたし。計算がスムーズにできないのは大人になってからでもいろいろ困ると思う。


だけど、一時間くらいやって、視線が問題じゃなくてあちこちに飛ぶようになってきたのを感じて、いったんそこで終わることにした。嫌々やらせて今以上の苦手なイメージを持たれるとマズいと思ったから。


「よし、とりあえずこれでいったん終わり。もしお昼からまたやる気になれたら、その時がんばろう」


そう言った僕の言葉に、沙奈子も「はい」と頷いてくれた。


その後は、本を読んだりテレビを視たり動画を視たりして過ごした。昼食の後、何だか眠くなってきて二人で30分ほど昼寝してすっきりしたら集中力が戻ったみたいだったからまた一時間ドリルをやった。


でもこの日の勉強はそれでもう終わりだった。夜の8時過ぎに、半額になってるはずの惣菜を目当てに大型スーパーに二人で買い物に行っただけで、後はのんびりと過ごした。




日曜日も、ほぼ同じ感じだった。午前に一時間、午後に一時間。それ以外は、大型スーパーに行くのも同じ。でも全然、退屈じゃなかった。沙奈子が勉強を頑張ってる姿とか、本を読んでる姿とか、僕の膝に座ってテレビを視てる時の重さとか温かさとか、何とか上手に箸を使おうと努力しながら食べる姿とか、嬉しそうに僕と一緒にお風呂に入ってる姿とか、そのどれもこれもが、見ていて飽きなかった。昨日と同じようなことをしていても、昨日とはちょっとだけ反応が違ったり、表情が違ったり、解くのに時間が掛かってた問題がすんなり解けるようになってたりして、一瞬一瞬で成長してるんだってことを感じる気がした。


月曜日。午前中は1時間以上頑張れたけど、午後からは気乗りしない感じだったから、だらだら過ごした。


火曜日は、午前一時間、午後二時間頑張った。すごいぞ沙奈子。


でもその反動があったのか、水曜日は午前の一時間だけだった。


木曜日。この日も午前一時間、午後一時間頑張ってくれた。どうやらこのペースが一番しっくりくる感じだと思った。


だから金曜日も、同じように午前と午後に一時間ずつ頑張ってもらった。


ずっと掛け算の問題をやってるだけだから、問題はちょっとずつ変えたり文章題になってたりしたけど、計算そのものは同じことの繰り返しで、少しずつだけど早くなってきてる気がした。


でも今日はまた、歯医者の予約を入れてあるから、夕方一緒に歯医者に行って、帰りにまたラーメン屋に寄った。歯医者の帰りはラーメン屋というパターンがすっかり出来上がっていた。でも沙奈子自身は、ラーメンよりも餃子とチャーハンが好きみたいだけど。


ここまで毎日、食事の用意は沙奈子にも手伝ってもらいながらやってきた。米を研ぐのなんて、完全に沙奈子の役目になっていた。もう結構、手慣れた感じもする。他にも、目玉焼きならもう作れる。ちょうどいい感じになるまでずっと離れずに見守っているから、逆に失敗がなかった。卵も一人で割れる。タイミングを見て、卵焼き、いやスクランブルエッグに挑戦してもらおうかと思う。


一週間、買い物と歯医者に行った以外はほとんど部屋に閉じこもりっぱなしだったけど、まったく退屈はしなかった。沙奈子の様子を見てるだけで、十分に楽しかった。子供を見るっていうのは、こんなに楽しい事だったんだって思った。


彼女は大人しくて表情も少ないように思われるかもしれないけど、僕が見る限りじゃ全然そんなこともなかったと思う。答えが閃かなくて困った顔をしたり、逆に閃いてアッていう顔をしたり、タマゴが上手に割れて嬉しそうな顔をしたり、テレビで辛い事件がニュースで流れたのを見て悲しそうな顔をしたりと、十分に表情豊かだと思った。


だから最近、僕は、沙奈子の表情を見るのが自分の趣味になってるような気がするのだった。


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