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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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三百 千早編 「絵里奈の話」

『え~?。それって私は子供みたいだってこと~?』


って、何を今さらと僕は思った。玲那って元々沙奈子と変わらないくらい幼いところがあるじゃないか。でもそれは口には出さずに、笑顔を返して見せた。


『ぶ~、お父さんの意地悪~』


口には出さなくても僕が玲那の子供っぽさを思い浮かべてるんだってことが伝わったみたいでそうメッセージを送りながらほっぺたを膨らましていた。


でもまあそれはいいとして、沙奈子が午後の勉強を始めたのを、僕と玲那で見守る。沙奈子は黙々とドリルをこなしていった。玲那はその様子を感心した様子で眺めてた。


それと同時に、僕ともメッセージのやり取りをする。秋嶋あきしまさんたちとアニメの話で盛り上がったとか、女の子の友達といつかまた会おうとか、そんなとりとめのない話だったけど、この子がどういう顔をしてどんな話をするのかというのを見たかった僕には、それで十分だった。そういう何気ない会話の中に、この子の今の精神状態とかが表れるはずだから。


それで言うと、今はとても落ち着いてると思う。沙奈子に辛い想いをさせてしまったと落ち込んでいたのもかなり回復したんじゃないかな。そういうのはやっぱりこうやって顔を合わしてこそ分かることだって気がする。


午後の勉強が終わると、僕は沙奈子と二人で買い物に出かけた。自転車でのながら運転なんてそれこそありえないから乗ってる時は触らないけど、玲那とはアプリを繋げたままにして信号待ちとかの度に確認するようにしてた。常に誰かと繋がってたいっていう気持ちが何となく分かる気がした。僕の場合は、自分が寂しいとかじゃなくて、あの子のことが心配ってことだけどさ。


買い物を終えて家に戻り、またテレビにビデオ通話の画面を映して無事な姿を確認してホッとする。でもそれは玲那の方も同じみたいだった。僕や沙奈子の無事を確認してホッとするらしい。


そうやってホッとしてくれるってことは、僕や沙奈子のことを大切に想ってくれてるってことだとも思うから、それもまた嬉しかった。


沙奈子の方はまた莉奈の服作りを始めてた。今度のもすごく複雑な形をしてるみたいだ。これがどんな風になるのか、僕には想像もできない。


するとふと思った。千早ちはやちゃんにとってはホットケーキを作るのとか手作りハンバーグを作るのとかがこれと同じかもしれないって。自分にできることが増えていく実感がそこにはあるのかもって。だから家の手伝いみたいなことをやりたいと言い出した時にやってもらって自分にできることを少しずつ増やしていってもらうっていうのも大事なのかも知れないって思った。


そうしてると、「ただいま~」って声がテレビから聞こえてきた。絵里奈が仕事から帰って来たんだ。


「おかえり」


僕と沙奈子が声を揃えて言うと、絵里奈がすごく嬉しそうな顔で「ただいま」って改めて言ってくれた。それから着替えたりメイクを落としたりしたみたいで、さっぱりした顔で画面の中に戻ってきた。沙奈子の手元を見ながらいくつか指示をした後、しばらく黙って様子を見てた絵里奈が、僕の方を見て言ってきた。


いたるさん。今ちょっといいですか?」


不意にそう聞かれて「え?」と思ってしまったけど、絵里奈がそうやって改まって聞いてくるときは大事な話がある時だと思ったから、姿勢を改めて「いいよ」と応えた。すると絵里奈は、


「昨夜、叔父さんと話しました」


だって。聞くと、僕と沙奈子が寝た後で、叔父さんに電話したらしい。僕は改めて背筋が伸びるのを感じつつ、絵里奈の言葉に耳を傾けた。


「これまでの事情とか。そしたら叔父さんは、『そうか。絵里奈が元気にしてるんならそれでいい』って言ってくれて…」


玲那の事件のことも包み隠さず話したそうだった。叔父さんは玲那のことも以前からちゃんと認めてくれてて、事件のニュースを見て心配しながらも『どうしようもなくなったら相談してくれる』と絵里奈のことを信じて待ってくれたそうだった。本当に、実のお父さん以上にお父さんらしい人だと思った。


「ずっと、落ち着いたら叔父さんのところに挨拶に行かなきゃって思ってたのにすっかり不義理をしてしまって、自分が情けないです」


絵里奈がそう言って目を伏せると、僕は思わず焦ってしまった。それは僕の方こそだって思った。絵里奈と結婚したのに、彼女のお父さん代わりだっていう叔父さんにご挨拶にも行けてないんだから、いやもうホントに顔向けできないのは僕の方だよ。


玲那の事件も一段落付いた。沙奈子も落ち着いてる。これは本当に、近々ご挨拶に伺わなくちゃって思った。すると絵里奈が言った。


「今度、千早ちゃんたちの予定がない土曜日にでも、叔父さんのところへ挨拶に行きませんか?。沙奈子ちゃんや玲那も連れて。達さんだけじゃなくて、私の家族をちゃんと紹介したいんです」


それに反対しないといけない理由は僕にはなかった。「もちろんそれでいいよ」と二つ返事で答えた。


正式な日付は千早ちゃんたちの予定を確認してからになるけど、四人で絵里奈の叔父さんにご挨拶に伺うことがこれで決まった。


そうだ。絵里奈も両親とは疎遠になってしまったかも知れなくても、叔父さんとはまだちゃんと家族なんだ。だったらその叔父さんとのつながりは大切にしなくちゃ。直接は会ったこともない僕のことも認めてくれるというその人に、僕はちゃんと挨拶をしないといけないと思った。


千早ちゃんの家庭の繋がりを取り戻すことを願うなら、僕たちだってそれを目指すことは心掛けたい。そうしないと千早ちゃんに顔向けできない。


だけど実際に会うと思うとつい緊張してしまう。絵里奈の話を聞く限りではすごく穏やかな、山仁さんに似たタイプの人らしいけど、それでもやっぱり背筋は伸びる感じはする。


とは言え、まだ正式な日にちも決まってない段階から緊張しても仕方ないか。とりあえずは、挨拶と結婚の順番が逆になってしまったことをお詫びしよう。


まさか今になってこういうことでドキドキすることになるとはなあ。


そんなことも思ってるうちに時間は過ぎて、沙奈子と二人で夕食の用意を始めた。今日は沙奈子の手作りハンバーグだ。手慣れた感じで上手に作っていくこの子の姿に、頭が下がる想いすらした。


沙奈子のやり方を見て僕も覚えた方がいいなと思いつつ、どうしても自信が持てない。つくづく根本的に料理とか向いてないんだなあと感じてしまった。だから玲那に対しても強く言えないんだよな。男とか女とか関係なく、苦手なものは苦手だもんな。


結局はほとんど沙奈子一人で作ってもらって、僕はそれを食べるだけになってしまった。


夕食の後で山仁さんの家に行って、千早ちゃんや大希くんに迎えられた時も、ちょっと恥ずかしいような気分になったのだった。


だって、二人もハンバーグ上手に作るからね。


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