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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百九十二 玲那編 「思いがけない出来事」

日曜日。昨日、絵里奈や玲那と一緒に過ごせた時間の余韻にも浸りながら、僕たちはいつものように過ごした。画面越しでの家族の朝食や、掃除洗濯、午前の勉強、お昼には千早ちゃんたちとのホットケーキ作り。午後の勉強、買い物、山仁さんの家での会合と、僕たちにとっての普通の日常だった。


絵里奈と玲那の様子もすごく落ち着いてて、向こうは向こうですっかりそれが日常になってたみたいだ。


月曜日。また一週間が始まり、僕は会社、沙奈子は学校と、自分のするべきことをこなした。


火曜日、水曜日と過ぎて木曜日にはいよいよ控訴期限が来たけれど、全く何事もなく気が付いたら一日が終わっていた。


そして金曜日。佐々本ささもとさんから正式に、検察側が控訴せずに控訴期限が過ぎたから、玲那の判決が完全に確定したという連絡があったということだった。僕はそれを、会社が終わって沙奈子を迎えに行った時に、山仁さんの家で絵里奈と玲那とのビデオ通信で山仁さんたちと一緒に聞いた。


懲役一年六月、執行猶予三年。それが玲那に下された判決だ。彼女ほどの背景があっても有罪になるくらいなんだから、玲那がしてしまったことの重大さを改めて感じた。


だけど同時に、それが確かめられてその場に広がったのは、『やっと終わったぁ…』という安堵の方が大きかったような気がした。


もちろん、これから三年間、玲那はこれまで以上に自分の行動に責任を持たないといけなくなる。懲役刑が課されるような犯罪をしてしまうと執行猶予が取り消され、刑務所に入ることになってしまう。


ただ、玲那はこれまでそんなことをしたことがなかった。もちろん、小さな交差点で信号を無視してしまったとか、自転車は歩道では徐行しないといけないのにスピードを出して走ってしまったとか、交通量の多くない車道で逆走してしまったとか、誰もがうっかりやってしまうくらいのこともしなかったなんて聖人君子だとは言わないけれど、少なくとも相手に怪我をさせるようなつもりで人を殴ったりとか、万引きとかはしたことなかったそうだ。だからそういう時の玲那でいてくれれば問題ないはずだ。


玲那が事件を起こしてしまった一番の原因は、実のお父さんに、実のお母さんが亡くなったことをきっかけにして会ってしまったこと。実のお父さんにされたことが背景にあったわけだから、それがもう二度と会うことがなくなったということは、あの子が事件を起こす理由が無くなったということだ。これは本当に大きい。


親戚ともあまり良好な関係とは言えないそうだけど、そちらとは、実のお父さんの遺産の相続放棄をしたことでもう関わる必要もなくなったらしい。元から、今回のことがあるまで十年以上会ってさえいなかったそうだし。


そういう諸々と縁が切れたこともあってか、山仁さんの家から帰ってきてからうちのテレビにビデオ通話の画面を映した時の玲那の顔は、ものすごく晴れ晴れとしてた気がした。


それを見て僕も思った。この子はもう、これからは本当に自分の人生を生きればいいんだって。過去に縛られず囚われず、自分のための人生をね。




土曜日。玲那の判決が完全に確定してから初めて会いに行く日。だけどその日は、沙奈子の様子が朝から少しおかしかった気がした。顔が赤い気がするし、熱を測ったら微熱があった。だから無理をせず今日は会うのをやめておこうかとも思ったけど、沙奈子は強く頭を横に振った。会いたいっていう気持ちが強いんだと思った。幸い、千早ちゃんたちが来る予定はなくて、お昼を四人で一緒に食べようということになってたから、先週行ったギャラリーの近くの公園で、絵里奈が作ったお弁当をみんなで食べようということになった。あちこち動き回らずにそこでのんびりしようって。


洗濯は僕一人でしたけど掃除は今日は休んで、午前の勉強も休んでもらって時間ぎりぎりまで沙奈子には布団で横になってもらってた。そのおかげか熱も下がったようだし、それでも念のためにマスクはしてもらって今回はタクシーを使って直接公園まで行った。


「沙奈子ちゃん、本当に大丈夫?」


絵里奈がそう聞くと、沙奈子は大きく頷いた。実際、四人で公園でいる時には元気そうだった。ただ、帰る時にはまた少し顔が赤くなってる気がした。だから無理せずまたタクシーで帰って、すぐに布団に横になってもらった。


熱は高くない。微熱程度だ。ただ、沙奈子がこういう形で体調を崩すなんて僕のところに来てから初めてだったから、さすがに心配になってしまった。


でも考えてみたら、玲那の一件があって以来、いや、もしかしたら児童相談所での一件以来、この子もこの子なりにいろいろあって疲れがたまってたんじゃないかな。それが、玲那の判決が完全に確定して一段落ついたっていうことで僕たちがホッとしてるのを感じて気が抜けてしまったのかもしれないな。


そんなわけで、今日はさすがに山仁さんのところに行くのも取りやめた。沙奈子が熱っぽいからお休みします。熱は高くないから大丈夫だと思いますと連絡だけは入れておいて、それからは部屋でゆっくりした。


翌日の日曜日も、熱は下がった感じだけど念には念を入れてゆっくりしてもらうことにした。普段、こういうことのない子だからって心配し過ぎなような気がしないでもないとは思いつつ、やっぱり何かあったら嫌だし。


しかしさすがに沙奈子も寝てばかりだと退屈だったらしくて、昼過ぎには『じゃあ、しんどくならない程度なら起きて本くらいなら読んでていいよ』とは言ってあげた。すると彼女は、家にあった本を片っ端から読み始めて、それも飽きたみたいで『さいほうの動画見ていい?』と聞いてきたから、『しんどくないならいいよ』ということで好きにさせてあげた。


その間、僕は玲那といろいろ話をしてて、そこに絵里奈も仕事から帰ってきて、


「沙奈子ちゃん、しんどくない?」


と聞いてきたら、沙奈子も「うん」と頷いてた。


それでも念のためにということで、僕は夕食にお弁当を買ってくることにした。そのついでに山仁さんのところにも顔だけ出しておこうと思った。沙奈子はお留守番をしててもらうことになった。30分ほどだし、ビデオ通話も繋いだままにしておくから大丈夫だろう。


「じゃ、ちょっとお留守番お願いね」


僕がそう声を掛けると沙奈子は頷いて、小さく手を振ってくれた。


しっかり玄関の鍵は閉めてささっと用事を済ませて帰ろうと、僕は早足で歩いた。山仁さんのところに顔を出して波多野さんが無事なのを確認して、コンビニに寄ってお弁当を買った。


とその時、僕のスマホに着信があった。見ると絵里奈からだった。それに気付いた瞬間、ドキッとなった。すぐに家に戻るのに、どうして電話なんか掛けてきたんだろうと思った。ざわざわするものを感じながら電話に出た僕の耳を、絵里奈の声が叩いた。


いたるさん、沙奈子ちゃんの様子が変なんです!、すぐに帰ってあげて!」


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