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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百八十七 玲那編 「ギャラリー」

「千早は最近、家でホットケーキとかハンバーグを作って家族に振る舞ってるそうです」


沙奈子たちがカレー作りをしてる時、それを見守っていた星谷さんが不意にそう話しかけてきた。


「それが好評らしくて、ちょくちょくリクエストされるそうですよ。千早もそれが嬉しいらしくて、私に話してくれました。それだけじゃありません。千早がそうやって明るく振る舞うからか、お姉さん二人の態度も少しずつ柔らかくなってきてるらしいです。ここしばらく叩かれることもないって言ってました」


そうなんだ。それは良かった。その話を聞いてホッとした僕に、星谷さんは続けた。


「しかもお母さんも千早のホットケーキやハンバーグは美味しいと言って食べてくれるそうです。以前は何日も口さえきかないことが珍しくなかったのに、今ではお互いに挨拶もするようになったとも言ってます」


へえ…!。


それは、僕にとっても嬉しい話だった。沙奈子の友達が家庭で辛い想いをしなくなってきてるというのなら、素直に喜ばしいことだと感じた。千早ちゃんはとてもいい子だ。千早ちゃんにも幸せになって欲しいと思ってる。


「千早のその話を聞いて、状況を変えるためにはやはり自らが変わることが一番の近道なのだと感じました。千早が変わったからこそ、お姉さんたちやお母さんがその影響を受けているのでしょう


本来ならば年長者こそがそのことに気付き自らを改めていくことを望みたいのですが、人というのはそこまで賢明ではないのかも知れません。そうなれば変わることができる者から変わっていくというのも方法の一つなのだと思います」


星谷さんの言ってることは一理あると思った。僕も両親とは全く上手くいってなかったけど、たくさんの人と出会えて変わって、それで沙奈子や絵里奈や玲那を受け入れることができて、今の自分があるという実感があった。そして、大人に散々裏切られて怯えきってた沙奈子が僕とこんなに仲良くなれたのも、人形に依存してた絵里奈が僕と結婚まですることになったのも、辛すぎる過去で男性を怖がっていた玲那が秋嶋さんたちと仲良くできるまでになれたのも、僕が変わったことが影響してるんじゃないかな。


そうだ。人はお互いに影響しあってるんだから、自分が変われば身近な人に影響を与えるのは当然なんだ。もちろん悪い影響を与えることもあるかも知れなくても、逆に良い影響を与えることだってあるはずだ。そういうことを言ってるんだって感じた。


もし、千早ちゃんが変わったことが千早ちゃんの家族に良い影響を与えるなら、僕はそれを応援したいと思う。


僕の両親や、玲那の両親や、波多野さんのご両親は残念ながら間に合わなかったかも知れない。だけど、千早ちゃんの家族の場合はまだ間に合う可能性もあるんじゃないかな。だとしたら間に合って欲しい。僕たちとは違う結末を迎えてほしい。実の家族の中で幸せになれるんなら、それに越したことはないと思うから。


高校生なのにこういう話ができる星谷さんのすごさを再認識しつつ、僕は沙奈子と千早ちゃんと大希くんが作ってくれたカレーを食べた。こうやってどんどんできることが増えていくんだなって思ったりもした。


千早ちゃんたちが帰ったあと、僕と沙奈子は出掛ける準備をした。絵里奈と玲那に会いに行くためだ。さすがに今日は、午後の勉強はお休みだな。


ノートPCを再びテレビに繋いでそっちにビデオ通話の画面を映してたら、玲那がまたあの大人メイクで変身してた。絵里奈もそれを取り入れたそうで、すっごく綺麗になってた。僕は今までどんなに綺麗な女の人を見てもドキドキしたことなんてなかったのに、絵里奈のそれを見た時、胸がドキッとなった。


「お父さん、顔が赤いよ?」


沙奈子にそう言われて、自分がドキドキしてるってことを自覚させられてしまったりもした。


「そ、そうかな。お母さんとお姉ちゃんが綺麗だからかな」


説明できたのかどうかよく分からない返事をした僕を、玲那がニヤニヤした顔で見てた。


『お父さんってば、ウブ~』


もう、玲那は本当にしょうがない娘だな…!。


そんなこともありつつ用意を済まして、僕と沙奈子は部屋を出た。この子にはあらかじめ酔い止めも飲んでもらってバスに乗る。今日は、絵里奈が好きな人形作家さんのギャラリーに行くことになってた。確か、『山下典膳やまもとてんぜん』っていう人だったかな。京都を拠点に活躍してる人形作家さんの常設ギャラリーで、いつも公開されてるからそんなに一度に人が集まるところでもないし、来る人はあくまで人形を目的に来てるから他人のことなんてあまり気にしてないはずだっていう絵里奈の判断で、そこに集まることになった。決して絵里奈が個人的に行きたかったわけじゃない。…と思う。


その辺はどうだとしても、うちからも絵里奈と玲那のところからもバス一本で行ける場所だから丁度いいというのも確かにあった。


僕の会社をしばらく通り過ぎたバス停で降りる。スマホの地図アプリで場所を確認して歩くと、大通りから少し入ったお寺の隣がそのギャラリーだった。と言うかこれ、お寺の一部なのか?。


ギャラリーの案内板には、『現代の仏像とも言うべき美しさと深みをもつ人形たちの世界に包まれて』というようなことが書かれてた。『なるほど、現代の仏像か…』なんて感心しながらそれを見てると、


「あ、いたるさん、こっちです」


と声を掛けられた。


見ると、ギャラリーの入口の中から綺麗な二人組の女性が、いや、絵里奈と玲那が手招きしてた。その姿を見た途端、また僕の胸がドキンとなった。単純にただ見惚れてた。


沙奈子に手を引っ張られてようやくハッとなって、受付でチケットを買ってギャラリーの中へと入った。


そこは、お寺の中を思わせる和風の造りを基本としながら、人形を展示するギャラリーとして改装されたんだっていうのが分かる室内だった。そんなにすごく広い訳じゃないけど、ガラスケースに入れられた人形が並べられてて、なんだか不思議な雰囲気のある空間だと思った。


だけど、絵里奈は人はそんなにいないはずって言ってたのに、僕達以外にも少なくとも10人くらいの人がいた。僕が想像してたよりは多い気がする。でも確かにその人たちもみんな、人形を熱心に見詰めてて、僕たちに注意を払うような素振りはまったくなかった。だから確かに、メイクで変身した玲那に気付く人はいないかも知れない。


そして僕たちは、四人でこうして会えた感慨に浸ってた。


四人で一通り人形たちを見て回った後、もう一度じっくり見たいということで沙奈子と絵里奈は展示スペースに戻っていった。一方の僕と玲那は、ギャラリーの一部でもある喫茶スペースで、先にコーヒーをいただくことにしたのだった。さすがに、あの二人にはついていけなかったからね。


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