二千五百九十六 沙奈子編 「沙奈子の本音」
ここまで話してた間も、本当はけっこう眠かったんだろうと思う。だから、会話そのものも割と前後の繋がり解かなくて脈絡のないものだったりもしたんじゃないかな。そして、
「……」
さすがに限界がきたのか、目がとろんとしてきて眠そうになってきた沙奈子が、黙ってしまった。そろそろ眠るのかなと思ったけど、
「……お父さん……」
不意にそう口にして。
「なにかな……?」
応えた僕に、呟くように話し出す。
「私……。本当はお父さんのことがずっと怖かったんだ……。だって私はお父さんの本当の子供じゃないから。それなのにお父さんは私のことをすごく大事にしてくれて、私のことをちゃんと見てくれてた……。
でもそれがどうしてか分からなかったんだ。本当の子供じゃない私のためにどうしてそこまでしてくれるのか分からなくて……。
だけど本当のことを聞くのが怖くてずっと言えなかった。それを聞こうとしたらお父さんがいなくなってしまうかもしれないって思って。お父さんに捨てられたら、私、どうしていいか分からなかった……。
でも、今なら聞けるよ。
どうして?。お父さん」
『本当はお父さんのことがずっと怖かった』
彼女の言葉に、ハッとなる。眠くて理性が働かなくなってきたからこそかもしれないその『告白』に、僕の方も眠気がきてたのが逆に吹っ飛んでしまった。でも、その上で、
「どうしてって言われても、正直、僕にもよく分からない。それを上手く説明できるようになろうと、ものすごくいろんなことを考えてきたけど、やっぱり今でもよく分からないんだ。
でもね、考えてみたら親ってそんなもんなんじゃないかなって今は思う。
完璧に先のことを考えて全部決めて覚悟を持って親になるわけじゃないんだよ。ほとんどの人はただなんとなく親になっちゃっただけなんじゃないかな。少なくとも僕はそうなんだ。なんとなく親になっちゃっただけなんだよ。
でもね、だからこそ、沙奈子に対して恥ずかしい親ではいたくなかったっていうのは確かにある。
沙奈子のためじゃなくて、とにかく自分がそうでありたかっただけなんだ。結局は自己満足だし、自分のためだったんだよ。
がっかりしたかな。こんな親で」
上手く話せた自信はないけど、この時点では精一杯、言葉は選びつつ自分の素直な想いを告げさせてもらった。
そんな僕を、やっぱり眠そうな目で見つめつつ、沙奈子は言ったんだ。
「うん。正直ちょっとがっかりした。お父さんはずっと私のために頑張ってくれてるんだと思ってたから。
でもちょっと安心したかな。私のためなんじゃなくて自分のために頑張ってくれてたんだったら……」




