二千五百九十四 沙奈子編 「命令なんか」
またちらりと時計に視線を向けると、横になってからもう三時間が経っていた。
高校生の子供とこれくらい話をする親がどれだけいるのかな?と思う。高校生の子供にこれだけ話をしたいと思ってもらえる親がどれだけいるのかな?と思う。
別に自画自賛したいわけじゃないんだ。ただ疑問なだけ。僕にでさえできることをしない人がいるのが不思議なだけなんだよ。
でもそれをネットで発信すると、非難囂囂なんだろうな。
そう言えば、僕も以前はブログを書いてたな。閲覧数は一日でようやく二桁に届くくらいのそれだったけど、いつの間にか更新しなくなって、それからはただパソコンに『日記』としてしたためるようになっただけだった。
だけど今から思うと、そこでやめておいて正解だった気がする。もし何らかの形で誰かの目に止まってしまったら、それこそ炎上してたかもしれない。
だから沙奈子が今もSNSに興味を持たずにいてくれてることでホッとする。『SANA』としてのアカウントはあるけど、それを使ってるのは絵里奈と玲那で、今までネットに触れてきたからこその慎重さで監修してくれてる。基本的には『告知』だけかな。
そういう使い方が結局は無難なんだろうな。それですら、『ファン』と『アンチと呼ばれる人たち』との衝突がたまに起こったりしてるそうだ。今のところは小さなそれで済んでるけど、今後なにがあるかは分からない。
ああそう言えば、田上さんの弟さんが『イジメた相手』から訴えられそうになってた件については、まだ目立った進展はないらしい。だけどそれも、相手側が諦めたのか、それともまだ証拠固めを続けてる状態なのかは分からないって。
「いっそ訴えられたらいいと、正直思ってます」
とは、田上さんの弁。
実の家族からそう思われるのって、本当に残念だよ。だからこそ、僕は沙奈子や玲緒奈からそんな風に思われないようにしなきゃって考えてる。それは決して、
『そんな風に思うな!』
って命令するんじゃなくて、
『そんな風に思う必要がない相手であることを心掛ける』
ということなんだ。『命令』なんかしたところで、人間の心は完全には操れない。強権を発動して従業員を締め付けてる経営者に反発する人がいるみたいにね。それで内部告発とか、内部の情報が表に出てきてしまうとか、あるしね。
僕が前の会社を辞めたのも、
『こんなところにはいられない』
と感じたからだし。
それでも、前の会社は今でも存続してる。長く人が居付くわけじゃなくても、使い捨てるようにして入れ替えながらも。
これもまた、『現実』かな。
今となってはどうでもいいけどね。




