二千五百八十四 沙奈子編 「おかしくたって」
僕と沙奈子の話はまだまだ続く。
横になってからもう一時間ほど経ってるかもしれないけど、ぜんぜん眠くならない。沙奈子も眠そうじゃない。もっともっと話をしてたい気分だ。
「お父さんは、『女性だから』『男性だから』って乱暴な二元論で人間という生き物を語れるとは思わない。でも同時に、『女性らしさで縛るな!』『男性らしさで縛るな!』みたいに大声で主張してるみたいなのも、実際には『性別に縛られてるんだろうな』としか思わないんだ。本当に性別云々に拘らないなら、自分のことをよく知らない相手が自分の性別をとっかかりにして話をしてくる程度のことは、ただ聞き流せてしまうんじゃないかな。
自分のことをよく知らない相手が自分の性別について言ってくるのは、『自分のことをよく知らない』からだよね。だから見た目で分かることをまず話題にするしかないってだけだと思う。確かに中には『女性はこうあるべき』『男性はこうあるべき』みたいに決め付けてくる人もいると思うけど、そんなのはその人が勝手に思ってるだけのことで、今の世の中はそこまで四角四面に考えてる人ってそんなに多くないと思うよ。一部の『声の大きい人』の主張が悪目立ちしてるだけだってお父さんは感じてる。
千早ちゃんがスラックスで学校に通ってることだって、別にそんなに特別な感じしないよね?」
「うん。すれ違った時に、『あれ?。どっちだろ?』みたいに言う人はいるけど、面と向かって『ズボン穿いてるとかおかしい』みたいに言ってくる人は、私が知ってる分だとこれまで一人とか二人しかいなかったと思う。全校生徒千人いて一人とか二人だよ。私たちが一年だった時の三年生が卒業して、新しく一年生が入ってきてるからもっとかな。だけどそんなものだよ。千早も、そんな風に言われても『おかしくたってこれが私だし』って言うしね」
「あはは。すっごく想像できる。千早ちゃんならそう言うだろうな。でもそれでいいと思うんだ。自分のしてることを『おかしい』『変だ』と感じる人だってこの世にはいるからね。お父さんがずっと沙奈子と一緒にお風呂に入ってたことだって、こうしてくっついて寝てることだって、『おかしい』『変だ』って言う人はいると思う。
でも、それでいいと思うんだ。その人たちが『おかしい』『変だ』と思ってたってこれがお父さんだし、世の中には自分の子供が嫌がってるのに一緒にお風呂に入ったり強引にスキンシップを図ろうとする親もいるだろうから、それに対して備える必要は確かにあると思うし、そのために少しくらい疑われるだけなら仕方ないと思ってる」
「だけど、お父さんがそんな風に言われるのは嫌だな……」




