二千五百七十八 沙奈子編 「まさしくそういう」
『世の中にはいろんな価値観を持った人がいるんだから、いろんな人の目に触れるように発信したら自分とは違う価値観を持った人の目に留まって批判されることになっても何も不思議じゃないんだから無理に発信する必要もないんだし、しなくていいよね』
僕のその言葉に、
「うん、分かってる。典膳さんのことも、ネットで書く気ないから……」
沙奈子はそう言ってくれた。
「だね。世の中には自分の周りで起こったことをなんでもネットで発信しちゃう人もいるけど、それもお父さんには理解できない。安易にそんなことをして炎上してる人は何人もいるのにどうしてそこから学ばないのかも、お父さんには分からないんだ。
愚痴とかについても、ネットを通さなくてもすぐ身近に愚痴も含めて気軽に話ができる人がいればネットで発信する必要もなくなるのにって思う。そんなことをする人って、こんな風に家族と話もできないんだろうな」
「って、お父さん、お父さんのその言い方も、ネットで発信したら怒る人がきっといるよね」
「あはは。確かに。少しでも自分のしてることを批判するような発言されたら感情的になる人っているよね。もちろんお父さんだって自分のしてることを批判されたり否定されたらいい気はしないけど、だからって無闇に感情的になる必要も感じないんだけどな」
「だよね。私もそう思う。お姉ちゃんの時だって……」
『お姉ちゃんの時だって』
それは、
『玲那が実の母親の葬儀の場で実の父親を包丁で刺してその上で自分の喉も包丁で刺してしまった事件』
のことだとすぐに分かった。
「そうだね……。『誰かを攻撃することで悦に入りたい人』『誰かを攻撃することで憂さを晴らしたい人』にとっては、その対象がいればいいだけで、それ以上のことはどうでもいいんだって、玲那を攻撃する人らの様子を見てて改めて実感したよ」
「ホントだよね……」
呟くように応えながら、沙奈子はすごく悲しそうな表情をした。悲しそうどころかつらそうな表情だと思った。あの一件が、結局、沙奈子から『表情らしい表情』を奪ってしまったんだと今でも思ってる。
なのに、学校では、
『お高く留まってる』
『人間味がない』
『人形みたい』
的なことを言う人が今でもいるらしい。
ただ、それを嘆いてるだけじゃ状況は変わらないと僕たちには分かるんだ。誰かから同情してもらうことばかりを期待しててもつらくなるだけだって分かるんだ。
ネットで誰かを攻撃してる人らは、まさしくそういう人たちなんだろうなって感じるよ。
『まず自分が同情されたい。救われたい』
そんな風に考えてるんだろうなって。




