二千五百七十五 沙奈子編 「私のお父さんは」
「うん。『残しておきたいもの』『ホントは残しておきたいけど残しておくと負担になってしまうもの』。そういうものの区別ができて、実際に整理できてるうちは大丈夫なんだろうなと思う。だけどそれも、『負担になってないから』と自分に言い聞かせることで、本当はすごく負担になってたり整理ができなくなってたりするのに『まだ大丈夫』と思ってたりするのは、きっと危険なんだろうね」
「それも分かるよ。気を付けなくちゃと思ってる」
「ありがとう」
「ところでさ、千早が言ってたけど、山仁の小父さんとはなんでも話せるのに、お母さんやお姉さんたちとは、ホントは口もききたくないんだって。どうしてそんなになっちゃうんだろうって不思議に思ってた。私はお父さんやお母さんやお姉ちゃんとは普通に話せるのに……
でも、山下典膳さんと会ってみて思った。『本当のお父さんとは話したくないな』って。典膳さんにはすごく悪いと思ってるけど、実感しちゃったんだ……」
「そうか……。お父さんもそれはある。お父さんも自分の親とは話もしたくないって今でも思うよ。沙奈子の本当の父親はお父さんの兄だけど、顔も見たくないって思うんだ」
「分かる。だから私もこうなっちゃったんだね……」
「そういうことだよね。典膳さんには申し訳ないけど、本当の父親のことが沙奈子にとってどれだけのものなのか改めて知れたって感じだよね」
「うん……」
「実の親なのに、子供が過呼吸を起こしちゃうほど負担になってるのとかって、ものすごく残念だよ。自分をこの世に送り出した張本人がそれだったら、確かにこの世には嫌なことが多すぎるってなるかもね。だって、毎日嫌でも顔を合わせなきゃいけない相手がそれなんだから、ストレスもとんでもない気がする。お父さんは沙奈子にとってそんなのでいたくない。だから気を付けなきゃって思ってる」
「ありがとう……。お父さんが私のお父さんでよかった」
「本当のお父さんじゃないけどね」
「だよね。でも、私のお父さんはお父さんだよ。あの人は『お父さん』じゃなくて『血が繋がってるだけの人』だって思うんだ」
「そっか。だけどそんな風に言ったらやたら怒り出す人とかもいるから、ネットとかで発信しないようにしなきゃね」
「分かってる。顔も知らない人とそんな形でやり取りするの、怖いし」
「そうだね。そうやって『顔も知らない人』とでも仲良くできるっていうのは素晴らしいことかもだけど、誰かを攻撃するためにつるむのとかは、『仲良くしてる』とは言わないとお父さんは思う」




