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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千五百四十五 沙奈子編 「手作りカレー」

沙奈子が一から手作りしたカレーは、いつもと変わらず美味しかった。ドレス作りはできなかったのに、料理はちゃんとできた。


それがまた何とも不思議だ。もちろん料理とドレス作りはまったく別の作業だけど、どちらも毎日当たり前のようにこなしてきたことなのに、料理はいつものようにできて、ドレス作りはできなくなってしまった。


『イップス』と言われるものも、こういう感じなのかな。


他のことはいつもと変わらずできるのに、ある特定の動作だけがこれまでのようにできなくなるなんてすごく不思議な感じがする。


それでも現にそういうことがあるのは事実なんだろうな。


他人はついつい気のせいだとか怠けてるだけだとか甘えてるだけだとか言ったりするんだろうけど、そういうとこからも他人の気持ちなんて本当は分からないというのが、よく分かるよ。


気持ちが分かるのが本当だったら、そういう人の気持ちだって分かるはずだからね。


だから僕も、今の沙奈子の気持ちが分かるとは考えない。分かったような気になるというのは、本当は理解とはまったく別のことだと思うから。


今はただあの子の戸惑いを理解しなきゃと感じる。受け止めなきゃと感じる。


だけど同時に、本当に美味しいな。沙奈子のカレーは。


「僕が作ってた、冷凍野菜をお湯で温めたところに市販のカレールウを絡めただけの『なんちゃってカレー』を美味しいと言ってくれた彼女が これだけのものを作れるようになるんだもんな……」


感慨深さにしみじみそう口にすると、


「だけど料理というものは、本当は決まりきった形というものはないんだと思います。食べた人が美味しいと感じたらそれは美味しいんだと思うんです。だから沙奈子ちゃんにとっては(いたる)さんのカレーは美味しいものの原点の一つなんじゃないでしょうか」


絵里奈がそう言ってくれる。それがまた嬉しい。


ただのお世辞とかじゃなくて本当にそう思ってくれてるのが伝わってくる。


自分はこうだと思っているものと違うものについては頭ごなしに否定して馬鹿にして見下して貶す人も多いのに、絵里奈はそう言ってくれるんだ。それが今の沙奈子の母親なんだ。




こうして夕食を終えて、千早ちはやちゃんも大希ひろきくんも結人ゆうとくんも、それぞれの家に帰っていった。一真かずまくんも琴美ことみちゃんを連れて、決して帰りたい家じゃないけど今は帰るしかない家に帰っていった。


そしてようやく沙奈子が二階のリビングに上がってきて、家族が揃う。


だから僕は改めて、


「おかえり」


って出迎えたんだ。


僕の娘をね。



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