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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千五百三十四 沙奈子編 「居心地がいい」

そして沙奈子の方も、自分の気持ちを完全に理解してもらえるわけじゃないという現実を受け止められるだけの精神的な余裕が今はあるから、


「ありがとう」


って、素直に感謝できるんだろうな。


『沙奈子の気持ちが完全に分かるわけじゃない』


と言われてるのに、でもそれと同時に自分を気遣ってもらえてるのがちゃんと分かってるんだ。


これも人間関係においてはとても大切なものだというのを、僕たちは実際に確認してきた。


沙奈子は言う。


山下典膳やまもとてんぜんさんが私の本当のお父さんじゃないのは、分かってる。だからこんなことになっちゃって、すごく悪いなって思ってる。だけどやっぱりちょっと怖いんだ。怖がっちゃダメだって思うのに、思い出すと胸が、ぎゅーってなるんだよ」


本当に気持ちが分かるのなら、わざわざこんな風に説明しなくても伝わるはずなのに、沙奈子は、彼女なりのペースで、だけどしっかりとはっきりと、丁寧に言葉にしたんだ。


そうやって言葉にしないと伝わらないということを理解しているから。


『別に口で言わなくても分かってもらえる』


というのは甘えでしかないと、沙奈子も千早ちゃんたちも分かってる。


だからこそ千早ちゃんの方も、


「私もね、千晶の赤ちゃんのことを考えたら、今でも胸がぎゅーってなる。すごく嫌な感じだよ。沙奈のそれとは違うかもだけどさ、やっぱ、つらいよね」


自分の胸を掴むようにしながら言った。彼女の気遣いがそこに確かにあるのを僕も感じた。


さらに大希ひろきくんも、


「僕にもあるよ。そういうの」


悲しそうに微笑みながら口にした。亡くなった自分の母親のことを思い出してるのかもしれないな。それか、もしかすると祖父のことを思い出してるのかも。それがどちらにしても、彼にとってはたまらなくつらいことだろうなと想像できる。


そして結人ゆうとくんは、


「俺はぶっ殺してやりたくなるけどな」


知らない人が聞いたらぎょっとするようなことを。


だけど彼のことをよく知っている僕たちにとっては、そこまで不穏な印象はなかった。間違いなく彼の本音なんだろうけど、同時に今の彼にとってはあくまで『軽口』なんだろうな。軽口として本心を吐露できる関係なんだ。


そしてそんな沙奈子たちの樣子を、結人ゆうとくんにぴったりと寄り添った琴美ことみちゃんが、漫画を読みながら感じ取っていた。


自分の両親の関係性との違いを、それこそその場の空気感自体も含めて、皮膚感覚で取り入れてるんだろうな。


『どっちの方が居心地がいいか』


という形で。険悪なやり取りだとそれこそいたたまれないんじゃないかな。



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