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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千五百三十一 沙奈子編 「必要がない」

「だけど、『本当のお父さんかもしれない』ってだけでそこまでなるって、よっぽどだよね」


千早ちはやちゃん。それに、


「うん……。自分でもそう思う。いつもはあの人のことなんて忘れてるのに……」


沙奈子が応えると、


「まあ、俺も今じゃあいつのこととか、一日に一秒も思い出さないなんて当たり前になってるしな。思い出す必要ねえしよ」


結人ゆうとくんが『へっ!』って感じでシニカルな笑みを浮かべながら肩を竦めた。


『思い出す必要ねえしよ』


彼の言うとおりだと思う。沙奈子や結人くんの経験は、実際には忘れようと思っても忘れられることじゃないはずなんだ。だけど、


『思い出さない』


ことならできるんじゃないかな。彼の言うように、『思い出す必要がない』状態でいられたら。


沙奈子も結人くんも、普段は実の父親や母親のことを思い出す必要がなくなってる。恨みや憤りはそのまま残ってても、それに囚われる必要がなくなってるんだ。


恨みや憤りに囚われ続けてる人は、結局のところ、それに囚われ続けることでしか自我を保てないような状況にあるってことじゃないのかな。


復讐とかを実行せずに済んでる人がいるのは、『恨みや憎しみを忘れられた』からじゃないって、今は思うんだよ。


『恨みや憎しみに囚われてる必要がなくなった』


ということなんだと、沙奈子や結人くんを見てると思う。


玲那が事件を起こしてしまったのだって、わざわざ実の母親の葬式に出向いて、実の父親が昔と何も変わってなかっただけじゃなく、改めて犯罪に手を染めようとしてる、自分と同じ境遇の子供たちを作ろうとしてる、そんな状況の中に飛び込むことになってしまったからだし。いくら実の母親の葬式だからって、玲那にとっては自分とそれまでの自分の人生を滅茶苦茶にした『加害者そのもの』のそれだったんだから、無理に行く必要はなかったんだって、今なら思うんだ。そうすればあの事件は起こらなかった。


『事件を起こす必要が玲那にはない』


から。


実の両親と関わらなければ、その必要はまったくなかったんだよ。


『実の母親の葬式なんだから顔くらい出しておくべきだ』


みたいな『常識』に囚われてしまったことで、選択を誤ったんだ。


そもそも『常識』ってものは、それを利用したい人にとってだけ都合のいいものになってしまってることも少なくないんじゃないかな。


あの時には僕もそこまで頭が回ってなかった。考えが至ってなかったんだ。常識に囚われてしまっていたことで、玲那を止めることができなかった。


だからあの事件は起こってしまったんだよ。



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