二千五百三十 沙奈子編 「友達という名の」
そうして僕は、玲那や絵里奈とならこれからも一緒に暮らしていけると改めて実感できて、安心してた。
その上で、画面越しに沙奈子を見る。
千早ちゃんが用意してくれたケーキを美味しそうに頬張る彼女の姿は、それこそいつもと変わらないようにも見える。見えるけど、だからこそまだ安心しちゃいけないと感じた。油断しちゃいけないと感じた。沙奈子は我慢強いから、自分が感じてるつらさを表に出さない、無意識のうちに押し込めてしまうところがあるのを、僕は知っている。それが彼女の強さでもあると同時に、危うさでもあると感じるんだ。
でも、
「沙奈、なんかあった……?」
不意に千早ちゃんがそう口にした。『いつもと変わらないようにも見える』と僕が感じたように、それはあくまで、
『いつもと変わらないようにも』
というだけでしかなかったんだ。本当になんとなく何か違う印象も、実はあった。
でもそれは僕が事情を知ってるからそう感じるだけだとも思ってたのに、千早ちゃんにも違和感があったみたいだ。
すると沙奈子は、『なんでもないよ』みたいに誤魔化そうとするんじゃなくて、フォークに刺したケーキを手にしたまま、
「実は……」
と切り出した。そして、
「山下典膳さんが、私の本当のお父さんと同じ名前だったんだ……」
事実をそのまま告げる。続けて、
「それに、見た目もなんか似てたから、最初は本当にあの人かと思って怖くなって、それでなんかわけが分からなくなっちゃって、気が付いたら病院で寝てたんだよ」
やっぱりありのままを包み隠さず打ち明けた。
「え…!?。嘘……!」
篠原さんが声を上げて。だけど、
「でもお父さんじゃなかったんでしょ?」
千早ちゃんが問い掛ける。これには大希くんも、
「だよね。本当のお父さんだったら、こんな落ち着いてられないよね」
相槌を打って、結人くんは、
「そりゃそうだろ。俺だったらその場でぶっ殺そうとしてるかもしんねえ」
と、言い方はぶっきらぼうだけど、でも実際にはそれほど強い感じでもない声の調子でそう言った。そこに一真くんが、
「すげえな。お前らそこまで分かんのか」
感心したように呟いた。無理もない。僕にとっても『いつもと変わらないようにも見える』沙奈子に違和感を覚えるなんて、なかなかできることじゃないだろうからね。
つまりそれだけ、千早ちゃんと大希くんと結人くんが沙奈子のことをよく見てくれてたっていう何よりの証拠だろうな。
ただの、
『友達という名の顔見知り』
じゃ、そこまでにはなれないと思う。
 




