二千五百十 沙奈子編 「僕を支えてくれて」
沙奈子が救急搬送されたことで狼狽えてしまうくらいに僕が心配しないことを、
『薄情だ!』
って言う人もいるかもしれないけど、ここで僕が狼狽えてそれで沙奈子が助かるの?とは思うかな。そこで僕が狼狽えてもし何かしでかしてしまったら、今度は玲緒奈がその被害を受けるかもしれないんだよ?。
『泣きっ面に蜂』
とは言うけど、これは、焦ったり動揺したり狼狽えたりしたことで『うっかり』が重なってしまって引き起こされる部分も少なからずある気がする。
だから僕が今するべきは狼狽えることじゃなくて、確実に情報を得ることじゃないかな。
「それで、医師は『他に異常は見られない』って言ってくれてるんだね?」
改めて玲那に確認すると、彼女は、
「うん、そう言ってた」
って。それを受けて僕は、
「とにかく絵里奈も落ち着いて。僕も病院に行こうか?」
と話し掛けるけど、そうしたら絵里奈は、
「あ…、はい。そうですね。ええ、でも大丈夫、です。山下さんもついてくれてますし」
だって。山下さんまで付き添ってくれたのか。それは申し訳ないと思う。
そんな風に考えると、ますます頭の中がクリアになってくる気がした。
心配なのは心配でも、僕まで病院に押しかけてもできることは何もないと理解する程度のことは考えられている。だから大丈夫だ。
その直感を信じて、絵里奈と玲那と山下さんに任せる決意をして、僕自身は、玲緒奈と一緒に家で待つ。でも、
「パパ……?」
さすがに玲緒奈は僕の様子が普段と違うことに気が付いているようだ。そういうところからも子供は親が思っている以上に親のことをよく見てるんだというのを実感する。
「うん、大丈夫だよ」
僕はそう言って笑顔を見せた。なのに玲緒奈は、
「パパ、いいこいいこ」
僕の頭を撫でようとして手を伸ばしてきてくれる。だから僕も、頭を下げて彼女の手が届くようにして、撫でてもらう。
まだ上手く力の加減ができてなくて、髪の毛をくしゃくしゃするみたいな撫で方だけど、玲緒奈の小さくて柔らかい手が僕の頭に触れてるだけで気持ちがほぐれていく気がする。これが彼女の力なんだと感じる。
二歳の我が子に気遣われることが少し情けなくもありつつ、二歳の子がこんな風に誰かを気遣うことができる事実に、胸が温かくなる。
「ありがとう、玲緒奈」
僕はさらに笑顔で彼女にお礼を口にした。すると、
「にひ~♡」
玲緒奈はすごく嬉しそうに自慢げに笑顔を見せてくれたんだ。
ああ、この子も僕を支えてくれてるんだなあ……。




